魔術の稽古
「つまり、身体の構造を学ぶ事により、回復魔術の効果が増すのです。」
此処はいつも使っている屋敷の書庫である。
今日はここを教室にして外部から呼んできた講師から初めての回復魔術を学んでいる。
回復魔術とは、その名の通り身体の傷を癒す魔術であり、この魔術は身体の回復は得意だが、病の治療には適していない為。
病は薬などの別の方法が使われるケースが多い。
「ピック君、ここまでは分かりましたか?」
「分かった。」
「流石はピックだ、もう理解するとは。姉として鼻が高い。」
「ヘラちゃんも分かりましたか?」
「ふむ、要するに傷を癒す魔術だな。やり方は分かった。」
「まぁ…カロリール家の長女ですし、多分出来るでしょうが、攻撃魔術と違い初歩の回復魔術でも下手に使えば後遺症が残ることもある危険な魔術なのですよ。」
何故か?ヘラ姉さんが一緒に回復魔術を学んでいる。
カロリール家は歴代戦闘狂が多く、回復魔術より攻撃魔術の方を積極的に学んできた一族なため、別に回復魔術を軽んじている訳ではないが、自分から誰かに学ぶことはしない。
子供の時は特にその傾向が強い上自己治癒程度なら戦場に出る頃には勝手に学んでいる為、あまり先生を呼び授業をしてもらうことはなかったが、今回は俺がお願いして、母さんの友人であり、サンマリア伯爵夫人であるカマラさんに来てもらった。
「分かっています、カマラさん。」
「はあ、貴方が言動に反して利口なのは知ってはいますが……心配ですね…」
「大丈夫。」
「ほら、ピックも私は心配ないと言っている。」
「後で治す。」
確かに、ヘラ姉さんは文武両道の才色兼備になる人だが色々危なっかしいので、フォローはしておく。
「違うじゃない。ヘラちゃんが失敗しても後で治すって言ってるじゃない!全く信用されてないじゃない!」
「ピック!そんなに姉を大切にしてくれるなんて、なんていい弟なんだっ!」
「苦しいよ。」
ヘラ姉さんはピック事を兄弟の中で一番大事にしているのでこうやって激しいスキンシップをとっている。
ちなみに大事にしている理由は俺がいなければ歴代トップ言っていいほどの身体能力を持っている為こうやって抱きつくだけでも他の兄弟では大怪我になりかねないのである。
うちは感情が高まったりすると力の制御が効きにくくなっるのもあるが、ヘラ姉さんは特に力加減が下手だ。
「はいはい、ヘラちゃん。ピック君が苦しんでいるから。やめてあげなさい。死ぬことはなくても痛覚はあるのよ。」
「分かっている。これは姉弟のスキンシップです。」
カマラさんも俺の事は母の友人である為よく知っている。
「それでは、これから実践してみましょう。机の上にあるナイフで自分の指を少し切ってください。」
「分かりました。えい!」
「って!切りすぎです。思い切りが良すぎです。」
力加減をミスったのか?ドッバーと血が吹き出してしまった。
うちの人間は俺でなくても、鈍では体に傷をつける事も無理なので今回用意してあるナイフもかなり良いナイフを使用してあるのも一因である。
まぁ、俺が切る手間は省けたな。
「おお!ありがとうピック。見てくれ!カマラさん!さっき切ったとは思えないくらい綺麗治っている!それどころか前より手が綺麗になったようにも感じる。」
「これは……凄いですね…私も色んな回復魔術師を見てきましたが、こんなに綺麗に治せる人はあまりいません。」
設定通りピックは回復の方が得意らしい。
元々洞察力の高い人間は自己治癒など回復魔術とは相性が良いのだが、うちは戦闘特化していた為他人の治癒はあまりしてこなかった。その上、うちの洞察力は審美眼の派生特技なので、傷の治りは意識せずとも怪我する前よりも綺麗に治る。
「やはり、ピックは回復よりの魔力の様だな。攻撃魔術があまりに上達しないから。疑問に思っていたのだ。」
ヘラ姉さんはサラッと言っているがそれは俺が地味に気にしていることである。何の悪意が無いからタチが悪い。
「そうね。もしかしたら、魔女の血が作用してそうなってしまったのかもしれませんね。」
魔女の血?そんな設定あったか?