凛の花 承
真島は素早く刀を抜き、踏み込んで上半身を垂れ下げた化け物に斬りかかろうとした。
刀が振り下ろされようとした時、凛は上半身を真島の居合よりも早く起こして両目を見開いた。その両目の虹彩は血よりも赤く輝いて、真島のことを睨みつけた。
ブワッと空間が波打ったかと思えば、真島はとてつもない勢いで背後に吹っ飛び壁に叩きつけられた。
「やりおったなッ!」
本居は凛に右手の平を向け、空間に浮いている何かをつかむような動作をした。すると、凛は胸を押さえノイズがかった声で「うぅ?!」と呻き、今度は本居の方をその赤い双眸で睨みつけようとした。
「そうは、左遷ない!」
メルローが両手を地面につけると、自身の影が風になびく服のように浮き上がり、唐突に無数の針となって真っ直ぐ飛びつくように凛をグサグサと突き刺し、国旗を掲げるように高く掲げた。
「pa、n、no、ba、罰、罰ッ!」
無数の影の針に腹を貫かれ、血をビチャビチャと流しているというのに、吐血しながらも壊れたおもちゃのように謎の言葉を発している凛の姿にこの場にいる全員が狂気を感じたがその反面、敵の必死な状態にこれは勝ったと慢心する気持ちもあった。
「te、te、テレポ、瞬間移動!」
無数の影に貫かれ、担ぎ上げられていた凛は突然煙のように消え、地面に両手をついて影針を操っていたメルローの後ろに瞬間移動した。
「しゅ、週刊移動!?」
凛が現れたのは文字どおり一瞬のことだったために、メルローは反応できずたじろぎ、凛はそれを計算していたかのように右腕を振りかぶって薙ぎ払う動作をしてきた。
メルローの後ろに現れた凛は腹を貫かれたことによって背骨や筋肉がズタズタに裂かれ、バランスが取れず上半身が不自然に前後に揺れていた。その動きと重症っぷりからゾンビ映画に出てくるゾンビそのものにしか見えなかった。
「週刊じゃなくて瞬間、移動だよッ!」
吹っ飛ばされていた真島がいつの間にか凛の後ろに立ち、刀でスパッと右腕を切り落とした。
振り上げていた腕はゴトリと音を立てて落ち、凛はバランスが取れず左に体が傾きそのまま倒れた。
「はぁ…はぁ…化け物みたいなやつだってことは認めてあげるけど…さすがに死ぬよ?」
グチャリグチャリと音を立てて凛は残った左腕と両足で床を這い回っている。確かにその様子では真島の言う通り死に絶えることは必至だった。なんなら既に死んでなくてはおかしいくらいの出血量で、自身の体を筆として血溜まりを伸ばしている。
「d、die?し、死、死ぬ?のは、な、ない、リ、回復」
凛の穴だらけの身体はみるみるうちに出血が止まっていき、斬られた右腕も生えてきた。
その様子に真島たちは絶句してしまった。
本来、異能力には系統がある。複数持ちでも異能力は似通った物になるはずなのである。例えば、火を操る能力者が他に能力を持った場合は煙を操ったり、炭にしたりと似たものになる。
それなのに、目の前にいる化け物は無茶がすぎる、本当に化け物すぎる。
「念動力に、瞬間移動、超回復ってどういうことだよ!?」
真島が驚嘆した時には既にボロ雑巾なのは服だけで五体満足の凛がしたいなような無表情で立ちつくしていた。
「%¥€$〒×○#/&_+……あー、あー、良し。気は済んだか?私だって体力は消耗するからあまり時間はかけたくないのだがね」
完全回復した凛が自身が纏っている血塗れの服を埃を払うようにしてなでると、一気に赤黒い血痕は跡形もなく消滅し、斬り落とされて無くなった右袖も全て生え揃った。
「ははっ…一体なんの能力なんだよそれは。あと隠し玉はいくらあるんだ、10か?100か?」
もはや空笑いしか出ない。刀は構えているがそんな威勢のいいことは出来っこないというのはわかっている。しかし、目の前にいる人間は十中八九夏山さんを殺した人物、ここで逃すわけにはいかない。
そう思うと力が湧いてきて、真島の剣筋が安定した。
「……その目、まだ諦めてくれそうにないな」
「お前のその能力も含めて、正体まるまる知りたいからね」
凛は全く武器や構えを取ることはなかった。虹彩もいつの間にか黒色に変わり、というか戻り戦意だけは感じられなかった。やられたらやり返す、戦意はなくともその意志だけは真島にも感じられた。現に本当に戦う気があるなら、今披露しただけの能力でも五分五分の戦いを繰り広げることができるはずなのだ。
「メル、もう一回ッ!冥々は予知ッ!冠と本ちゃんはバックアップ!」
「「「「あいよ!」」」」
横一文字に斬りつける動作をしながら、仲間に対して的確な指示を出す真島。凛は一歩引いてそれを避けたが、仲間は真島の指示をテンポ良くこなしていった。
メルローがひるまずもう一度影針を出現させようと、両掌を地面に打ち付けると凛はすかさず瞬間移動をして影針から逃げた。がーー
「2時の方向、出現だね!」
どこからともなく取り出したハンドベルをリンリンと鳴らす冥々。
彼女の言う通り真島の右斜めの方向に凛が瞬間移動してきたので、そのタイミングに合わせるように真島は三歩踏み込んで、突きを放った。
刀は凛の胸骨ごと砕き貫いて、綺麗に背中に抜けていった。しかし、凛は両手で刀の根元をしっかりと握りこむと刀は高温で溶かされ、真島は刀身がなくなってしまった刀を握りこむことしかできなかった。
「納刀状態のライトセーバーみたいになった!」
真島が武器を失ったために距離を縮地法のように開けると、凛は胸に突き刺さった刀身の残り部分を手で摘んで叩き捨てた。
そして胸に手を当てると傷も血の後も綺麗さっぱり無くなっていた。
「私も少しやんちゃさせてもらおうかな。2、3人殺しても支障のない、いい作戦を思いついたよ。」
ニヤリと笑った顔はとても冷徹で、矮小なネズミをいたぶる虎のようであった。
今度ばかりは殺意がなくとも完全に戦意を持ってしまったようで、真島たちの背筋に電流が流れた。
そんな殺伐な戦場の最中、状況的に1番関わりのなかった孤児たちはいつの間にか何もそこにはいなかったように影も形もなく消えてしまっていた。しかし、このことに気付いた者はまだ誰もいない。




