四月上旬は春のようで冬くさい
凛さんに教えてもらった護星教会。
実のところその存在する場所は分かっていなかった。
凛さんに護星教会とは何でどこにあるのかを出る前に聞いたのだが、新人のためにそこまでは知らないと申し訳なさそうに言われてしまった。
渡されたメモも走り書きばかりで重要な情報が抽象的だ。
但しおおやけの建物として存在はしているはずなので、地図を使えば一発で分かることだろう。
なので俺は一旦アジトに帰って先輩方から、地図を見るなり、場所を聞き出すなりしないといけない。
情報共有も大事だしね。
護星教会……他の団体とも友好的な立場を取っている謎の団体。
マーリンとも友好的ならカルト宗教とかそういった類ではないと思うが、犯人を知っているとなると、また別の話になってくる。
白か、黒か。
そんなことを考えながら、アジトまでの道のりをゆっくり歩いていると見たことのあるフードを見つけた。
約一週間前のこと、俺の初仕事を狂わせてくれたあの清水 魁の弟のフードである。春先だというのに黒色のパーカーのフードを真昼間からかぶって町内を徘徊していれば、多少なりとも目立つ。
二度見、三度見と真正面から近づいてくるその人物の顔をよく見るとやはり、あの清水 魁にそっくりだ。
夏山さん殺しも気になるが、どうしてあの時間帯、やつと同じ公園に、やつより早く来たのか、それがとても気になる!
俺はたまらず、目の前に立ちはだかり、そのフードを取った。
うん?
似て、いる?
いや、これは……
似ているなんてところではない!
遺伝的差異すら見えない!
もはや一卵性双生児の域だ。
ってこの流れデジャブな気が。
「な、何するんだッ!……って!お前はあの時の……また俺に何か用でもあるのか?」
コイツ、偽物でもそっくりさんでもない。
本物の清水 魁だった。そもそも兄弟であるなら、同じ服を2着持っていてもおかしくないし、兼用しててもさほど不自然ではない。
よりにもよってこいつかぁ……
「いや、たまたま見かけたからつい、な」
自分から声をかけておいてあれだが、本当にこいつには今あっても仕方がない。あの仕事はきちっと終わらせたには終わらせたが、本当にこいつがもう殺していないか、俺は確認できていない。
「何なんだよめんどくせぇ……アレのことか?ならもう、殺してないぞ。お前らみたいなのを敵にするほど俺もイかれてないんでな」
清水 魁は俺にちょっかいを出された理由として、猫殺しを行っていないという旨を伝えてきた。その表情は真剣で上っ面では嘘をついていないように思えた。
本当はどうなのやら…
猫殺しの件が如何の斯うのは後回しだ、とりあえずこいつに弟がいることは確認済みだ。
しかし、弟をあの公園に連れて行き、自分の脳足りんな展示物を見せて、愉悦に浸っているなんてことだったりはしないと思うが……した時にはこいつを本当に殺さなくてはいけなくなりそうだ。
「その話じゃないし、またやらかすようだったら、今度は警察に引き渡すだけだからな。今回は改心してそうだから恩情というやつだ。主に雪海さんからの。そういえば、あの夜にお前の弟があの公園にやってきていたよな?」
俺は問いただした。
本来なら寄り道している暇なんてないが、どうしてか唐突に記憶に引っかかったのだった。
「あぁ……それは俺も気になっていることだ」
「どうしてお前の弟が居たんだ?」
「どうして青葉が……俺の弟があの時俺の行った公園に先回りしていたのかはわからない。問い詰めてみたが、眠れなくて散歩だなんてあからさまな嘘をついてきた。そんなの、自分は隠し事してますって口外するよりもわかりやすい嘘だ」
フッ、と軽く清水 魁は吹き出した。
何がおかしいのか全くわからないが、笑った顔は一瞬で無に還り逆に冷たい疑心を見せた。
「……それで、俺の弟に何する気だ?返答によっては、殺すぞ?」
清水 魁の足元からコポコポと水が溢れ出す、透明感のある濁った触手は明らかに俺に敵意と殺意を向けている。
「落ち着け、清水。俺はお前ともお前の弟とも争う気はない。お前がおとなしくしてればの話だけど」
「だったら、二度とその辛気臭い面を俺の前に出すな。さっさとどっか消えろ」
苦虫を噛み潰したような顔をして、真面目なトーンで俺にそういった。水も足元に水たまりを作る程度に収まり、憎悪や嫌悪感に無理やりふたをしているのがひしひしと伝わってくる。
あの時も似たような感情の流動を感じたからこれは良くないことではなかろうか。
「これはただの勝手な思い込みなんだが、お前とはまたどこかで会う気がする。うん、今度は敵ではなくてな」
「俺がお前の味方なんてするかよ……」
「勝手な思い込みだ。いつか頼む時が来るかもしれない、俺も嫌だけど」
「だったら言うなよ!」
「あぁそうだ、俺用事があるんだった、最近は忙しいな。忙しいと言えば、お前だって学校があるんじゃないのか?」
「今日は何故か知らないが、休みなんだよ。それにそのことに関してはお前だけには言われたくないな。そっくりそのまま返してやるよ」
「あいにくこちらはすでに死んでいるのでな。お化けに学校はないんだよ」
「……?知らねえが、さっさと行けよ」
清水が素っ気ない態度でしっしっと手で払う素振りをして見せた。
あぁ、そうだったこんな奴とこんな場所で油を売ってる場いいじゃなかった。
「そうだ……お前の弟はきっと何かたくらんでいる。兄が兄なら弟も弟だ、気を付けろ」
捨台詞にそう残して去ろうとしたところ、顔面に思いっきり水がかかった。
「!?何する!」
「人の弟のことを悪く言うもんじゃないぞ。じゃあな」
俺が顔面を袖で拭って視界を晴らせた時には、カートを引いているヨボヨボのおばあさんが通り過ぎているだけで、この道には黒フードの男は誰一人としていなかった。
春先の、まだ寒い季節。上半身が冷たい水に浸された。
「次あったら倍返しにしてやるからなッ!覚えてろ!」
負け犬のごとくかっこ悪いセリフを吐くことになるとは。俺はTシャツの濡れた首元を絞りながらどこか懐かしい古びた町の太陽に照らされた道をトボトボと歩く。
ビュー
「ほ、本当に、ゆ、ゆる、許さない……」
暖かいようでまだ冷たい風が笑っているように吹き付ける。西式羽駅までは後10分。




