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秋茄子と死んだ嫁

 挿絵(By みてみん)

夏山さんの葬儀から一週間後、桜田さんと雪海さんが寝ずに各方面に東奔西走して、犯人に関する情報を血眼で捜し続けていた。


「………………太郎、朝。食べる」


俺もやれることはやっているつもりなのだが、やはり桜田さんのように人脈なんてこんな半人前坊主にはあるわけもないし、雪海さんのように色仕掛けだって使えるわけがない。というか、彼女が特殊すぎる。

なので最近は十五夜さんと過ごす時間の方が多く感じる。


「はいはい、今作りますよ……て言っても、また3分クッキングなんですけど」


黄銅色のヤカンに水道水を乱暴に注ぎ、カセットコンロで湯が沸くまで待つ。

湯が沸いたら、地下収納の扉を開けて中から最近お世話になってる見飽きたロゴのカップラーメンを取り出す。ソファで再度うたた寝しだす十五夜さんをよそ目に湯を規定のボーダーラインを超えないように慎重に注いでいく。


3分後。


「十五夜さん出来ましたよ」


「……………朝ごはん。食べよう」


割り箸を2膳用意して5人用テーブルで麺が伸びないように気をつけながら食べる。


十五夜さんはいつも片言で無口で無表情。

今年で25にもなるというのに、仕事をしているところを見たことがない。


そんな十五夜さんの髭も髪も、セットしてきたのは夏山さんだった。


だから、十五夜さんからしてみたら、自分の一部を失ったということになるのではと思っていた。だというのにこの人はまったく気にしていないようにいつものように振る舞う。

それに対して怒りを覚えなかったと言えば嘘になるかもしれないが、それでも十五夜さんのことを慕ってはいる。


そう、俺は十五夜さんを慕っている。



うん、俺は…十五夜さんを、慕っている。



俺は……十五夜さんを….慕って、いる?



俺は……



バチャアァぁ……



「あ、倒れた…………でも……うまい」





……………俺は。





「十五夜さん!お、俺はあなたのこと何がっても慕ってますから!ほんと!何があっても大丈夫です!えぇ!慕ってます!大好きです!」


俺の中で何かが、溢れたラーメンのように流れ落ちてしまった気がした。

……何言ってんだ俺。

十五夜さんは倒したカップラーメンの中身が飛び散った机を雑巾で吹く俺を見ながら、こう言った。


「………うん。……早く食べないと……伸びる」


「あ、そうですよね」


俺は拭き終わると雑巾を台所に戻して洗い、そしてそのまま十五夜さんの前を通り過ぎて、アジトを出るために着替えをしたりした。


「ごめんなさい、ちょっと俺お腹いっぱいです。あの、矢鳥さんのところで情報収集してきますね。お腹空いたら、この中にあるもの好きなだけ食べてください。それでは!」


これ以上は耐えられない。何か深く考えたらいけないと、心の中でアラームが鳴っている。今の状況でこれ以上踏み込んでしまったら、壊れてしまいそうだ。十五夜さんを尊敬し続けられなくなってしまったら、今の心の支えの一柱を失うことにつながってしまうと思う。

それから逃げるようにして、俺は裏口から飛び出た。


バタンッ!


「…………心配だなぁ」













西式羽駅を降りて、適当に右左と曲がっていくとなぜかつく廃ビル。それが矢鳥さんのオフィス、【矢鳥私立探偵事務所】である。


そこの2階にきっといつもの通りニヒルに笑いながら出迎えようとしているんだろう。

あのブラインドのかかった窓の隙間から覗いていたりしそうなものだ。彼女の能力は念写だけとは限らなそうだし、隠しカメラくらいセットしていそうなものである。


とりあえず二階に上がり、扉に向き直る。

何度見ても変わらない悪徳探偵の名前が書かれた看板を凝視し、深呼吸して扉を開ける。


「矢鳥さん……調べてもらい、たい、ことが……?」


部屋の中はいつもの通り乱雑で、わけのわからない資料が足元一面を覆っていたが、そんな部屋の番をしていたのはニヒルな笑みの魔女ではなく、黒いパーカーを着た大学生くらいの男だった。


「あ、こんにちわ。どうぞこちらにお掛け下さい。今お茶を汲んできます」


青年は俺を視認するなり、壁に立てかけてあったパイプ椅子を一脚持ってくると、俺の前に座れるようにして、おいてくれた。

そして詫び錆びを感じる古い急須に火をかけて、インスタントなお茶を入れてくれた。


「はい、粗茶ですがどうぞ、どうぞ」


「どうも。それで、あの……あなたは?ここ矢鳥さんの事務所ですよね?」


俺は思わず椅子に腰をかける前に、そんなことを聞いてしまった。

すると青年は「あぁ」と思い出したように声を上げて律儀に俺に一礼した後に笑顔で名乗り始めた。


「初めまして、私は矢鳥さんの元で働いています蓮間 凛(はすま りん)と申します。どうぞよろしくお願いします……あなたは?」


青年、蓮間さんは興味があると言わんばかりに俺の顔を覗きこんできた。

というか、苗字がかぶるとは。いつも友好的な人にだけ苗字で呼んでいるから、自分と分けるためにフルネームで呼ぶと敵対しているみたいに感じてしまう。清水 魁的な。


「俺は蓮間 太郎です。半年前にマーリンに入った新人ですよ。えっと……蓮間さん」


「あ、凛でいいですよ。苗字で呼ぶのなんかひっかかるでしょう?私達偶然同じ苗字のようですし。私も太郎さんとお呼びしても構わないでしょうか?」


「大丈夫です。それで……凛さんはいつからここに?前来た時には見かけなかったですが」


「偶然私のいないときと被っちゃったんだと思いますよ。私はつい最近、地方から移動してきまして。それで身寄りがない私を矢鳥さんが親切にも拾ってくださったのです」


なんということだろうか、あの魔女が自ら雇った人材だなんて文字どおりただの材料又は身代わりとして使われてしまいそうだ。


彼女の本性を知らず、本人はこんなにあっけらかんと明るく振舞っているということは、まだ何かされたわけではないと思うが……なんとか助け出す方法はないものか。


俺が悩み始めていると、凛さんは自分の手をポンと叩いて思い出したかのようなジェスチャーをした。


「そうだ。太郎さんは今日何か調べたいことがあってきたんじゃないですか?矢鳥さんは最近忙しいみたいなので代わりに私がお相手しますよ」


凛さんはそう言うと、矢鳥さんのデスク周りの資料の山を適当に整えて、俺からのリクエストにいつでも受け答えられるよう、資料のチェックを始めた。


「えっと……一番は先週に亡くなられた夏山 千萱さんを殺した犯人の素性についてなんですけど」


俺がそう言うと、資料に目を向けていた凛さんが俺の方に目を向けてきた。そして困ったように眉間にしわを作って何やら言いづらそうに語り出した。


「その件は前に来たメンバーの人からも聞かれました。それはまだ矢鳥さんが調査中ですのでわかりません……ですが、それに関係のありそうな団体なら矢鳥さんのメモに残っていました。目星はついてるみたいなんですけど……………あ、あったあった。これです、どうぞ」


凛さんは俺に小さなピンク色のメモ用紙をわたしてきた。そこには走り書きのようにその団体名とやらが書かれている。


「護星教会?」


これが例の夏山さん殺しの犯人に関わっている団体?教会と言えば聞こえはいいが、裏で色々と悪事に手を染めている的な感じなのか?


まだ保留にしておこう、この教会とやらが犯人だとは思えないし、情報を持ってるだけの可能性もある。が………どちらにしろ、犯人であれば俺はそいつらを地獄の底に叩き落とすつもりだ。


「えぇ、えぇ、このあたりだと珍しい孤児院兼教会みたいなところですね」


「孤児院?そんなところにまた何で?」


「あそこもあそこで裏のつながりが激しいらしいですからね。噂によると、異能力のある子を裏組織向きに育てて、売り飛ばしているんだとか。それが夏山さんにバレて、強硬手段で殺してしまった、とか。今のは単なる憶測ですけどね」


「でも、十分あり得る話ですよ。俺もそんな場所聞いたことなかったし、さすがにうちの組織でも子供を売るようなことはしてなかったはず……一応ここにも回ってみたいと思います」


「気をつけてくださいね。この護星教会は表向きは聖職者たちの団体で、いろいろな団体から援助してもらったりしているらしく、下手に手を出したら援助先から報復が来るかもしれないので穏便に調査してくださいね。」


凛さんは絶対ですよ、と心配そうに念をしてきた。

初対面にして彼の中で俺はどれだけ喧嘩早いイメージがあるのだろうか。


「そう言う手段はあくまで、最後にしますよ」


あくまで、最後に。

俺だけじゃないからな、夏山さんの仇を取りたいのは。桜田さんも、雪海さんも、矢鳥さんも、石鎚さんも、あときっと……十五夜さんもみんな夏山さんのことが好きだったから。……殺した犯人だけは絶対に許されないことだろう。


「未だに護星教会についての資料はまとまってないので、今回はたぶん役立つことはできないかもしれません。八鳥さんなら、何かと情報が出せたかもしれないのに……不甲斐ないです」


「いや、その話を聞けただけでも有意義でしたよ。それじゃあ、今日はもう帰ります」


「もう帰られちゃうんですか?もうちょっとお話していきません?丁度誰も居なくて寂しかったころなので」


「あぁーでも、折角もらったヒント時間経過で逃したら惜しいので」


「そうですか、残念だなぁ。またいつでも来てくださいね。足元にはお気をつけて」


「?雨でも降ってるんですか?」


「いえ、まったく」


「またどこかでお会いしましょうね」










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