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陽気に喜んでいた時間は無駄であった。
もうコットルの町から出て帰ろうとしていたので、解決の仕方がわからない状態となる。
そこで安からに寝ている冷に伝えるかを検討に。
「リリス、冷は寝てるかしら」
「ああ、グッスリおねんねだ。起こしてこよう」
理由があって冷は起こされた。
「気持ちよく寝てるところに悪いが事態が変わった」
「……どういう風に?」
(リリス、まだ寝てたいのにな……)
「錬金術士が調合した薬は効かなかった。結局はウル森に行ったのは無駄骨だったんだよ」
「ええっと!! 何がどうなったって!」
(ちょっと聞こえなかった!)
「だから効果がなかった!」
「……それでは俺達は何しにここに来たんだ。他には方法は無いかとか言ってなかったかい?」
「無いと。この伝染病は治らないと決定的になった。残念だけど。お前が必死に働いたのは無駄じゃないと言ってくれたけど、なぐさめだろう」
「チクショー。俺も外に行ってみる」
(ここまでしたのに無駄ってあんまりだよな。苦労が全部水の泡かよ。まいった)
外に行ってみると悲しい顔で座り込む姿も目に入った。
どうしたらいいかと無力感に覆われる。
「とりあえず、冒険者ギルドに行ってみようよ」
「きっと結果は知ってるだろうしな」
冒険者ギルドにも行ってみた。
結果は同じだった。
多少の期待もあった。
勘違いなのではと。
「ああ冷さん、大変なことになりました。皆さんショックを隠しきれない様子です。申し訳ありませんとしか言えません冷さんには……」
ギルド店員は頭を下げて謝る。
決してギルドにも責任はない。
この様な結果を受け入れられないのはギルドであった。
悲しい顔で下を向く。
「謝る必要ないです。俺としても精一杯はやったつもりですし、役に立てなければもう帰る予定かな。魔人ガーゴイルは健在だけどウル森にさえ入らなければ問題ない。奴はなぜかウル森からは出たがらないようだ」
(伝染病は俺にはどうすることもできないのが残念)
「それは良かった。ウル森から出ないなら安心。コチラも行かなければいい。絶対に行かせません。約束します。ピルトの町から来て頂いてありがとうございました」
丁寧にお辞儀をして感謝をする。
心底謝った。
その気持ちは十分に冷にも伝わる。
それ以上謝る必要ないくらいに。
「伝染病はどうなさるのですか?」
アリエルが心配そうにきいた。
「はい、王都に伝えます。そして最善策を考えてもらいます。今はそれしかありません。これ以上広がらないように祈ります」
「広がらなければいいですね」
冷はギルドに挨拶を、
「これで失礼します」
「失礼します」
アリエル達も一緒に挨拶した。
冒険者ギルドを出て、これでコットルの町も見納めとなった。
僅かな日にちではあったが、町の人と親しみ深い日になった。
「この町は僅かしか滞在してないけど、いい人も居たわ」
「私達には限界もあった。出来る限りは尽くした」
「お前は、どうなんだ?」
「そりゃあ残念さ。子供達の顔が思い浮かぶし。でも帰ることにしよう。帰りは馬車があるようだ」
(本当に残念だよな)
「あそこに馬車がありますよ」
「乗って帰ろう」
馬車は町の中にあり、誰でも金を支払えば利用できた。
馬車乗り場に足を運んだ時に、冷は気になる声を耳にした。
その声は大人の声。
気になったので振り返ってみる。
「誰か、誰か居るか。ウチの子が様子がおかしいんだ?」
「助けを求めてるようよ」
「馬車に乗るの?」
「別に時間ある」
「困ってるようだ、行ってみよう。俺らでも力になれるかもだ」
冷は馬車乗り場に行くのを止めて、助けを求める人の方に足を向けた。
(なぜか気になるな)
「どうしたの?」
「ええ、子供は昨日まで何ともなかったのに朝からおかしいんだ。苦しそうにしてる……まさかだと思うが」
父親は我が子を抱き抱えるようにして心配している。
「本当だわ」
「苦しそうです」
「大変言いにくいですが、もしかして伝染病では。他の伝染病の子供を見たのですが、症状がよく似てます」
(昨日まで大丈夫で、今日の朝からか。その間に感染したと考えられる)
「ああ、どうしよう……」
「しっかりしてください……!!!」
冷は父親がうつむいたので、肩を持ってあげた。
そこである斑点を発見する。
父親の首にあった。
首、噛まれたあと、斑点……。
そこで冷は記憶が蘇る。
(俺はこの父親を見たことがある。どこだろうか。この首のあと。間違いない…………あの時だ。ウル森に向かう途中に出会った冒険者達。あの時に見たのも首であった)
そして顔も思い出せた。
(この人、ウル森から来た人だよな。この首のあとは絶対にそうだ)
冷は穏やかでないところを申しわけないが尋ねる。
「あの、伺いたいことがあります。俺と昨日会いましたよね?」
「ええっと……思い出せませんが」
「いいや、会ったはずだ。あなたは昨日ウル森から出てきた。そして俺達と遭遇した。俺はハッキリと覚えてますから」
(もし当たっていたら、ある点と繋がる)
「それが思い出せないのです。昨日何をしていたのか。どうしても」
「冷ったら、会ってたらそれが何なのよ?」
「ちょっと気になるんだ」
「私は何も気づかないけど……」
アリエルは冷が気になる点がわからない。
「質問を変えます。首の噛まれたあとは。誰に噛まれましたか? それは覚えてるでしよう」
(噛む奴はひとりしかいないよ)
「いいえ、わかりませんが……」
父親は思い出せない。
「この首と伝染病と何の関係があるというのですかな。意味がわかりません、あなたの言ってる意味が」
どうしてもわかりませんと言い張る父親であった。
冷はここである事に気がついた。
(俺も首を噛まれそうになった。あの魔人ガーゴイルにだ。噛まれる寸前に助かった。確か胸を触ったからか。柔らかな。いや、それはこの際関係ない。この父親もウル森でガーゴイルに出会ったのでは。そして噛まれたとしたら……)
疑問がある一線で繋がった気がした。
「父親さん、あなたはきっとウル森に行った。そしてガーゴイルに出会った。そこで首を噛まれた。俺の予想が正しければ、ガーゴイルに噛まれると、一時的に記憶を無くすのではないかな。だから行ったかさえ、わからないのでしょう。そしてもう1つの疑問点。ガーゴイルが伝染病の源泉だとなる」
「ええっと冷氏は何を言ってるのかしら。どうしてガーゴイルが突然登場してくるの?」
ミーコは不思議そうに冷を見て言った。
当然と言えた。
会話の中にガーゴイルというキーワードは出てこない。
唐突に現れた。
それも噛み付くと。
「噛み付くとは?」
「ガーゴイルは噛み付くんだよ」
「怖」
「答えは俺も噛まれそうになったからだ奴に。危ないところで噛まれなかったがな。そこは俺の凄いとこだろ」
(まぁ、胸を触ったのは黙っておく)
「その自慢はいい。先を話せ」
リリスが突っこむ。
「つまりはガーゴイルが持っている伝染病だということ。それを今から俺が確かめる」
(方法はある。1つ思い当たる。それが違えば俺の判断は間違いってことだ)
「ガーゴイルに直接尋ねるとか。あなたが持ってるのって」
「それは無理だろう。父親さん、あなたは昨日ウル森に行ったのです。そこには何人か仲間が居ました。そこは記憶がありますか?」
「あ、あります。全員覚えてます」
「その人のところへ案内して欲しい」
「わかりました案内します」
父親はまだ半信半疑のまま仲間の家を訪ねた。
そこの記憶はハッキリとしていたのが冷には幸いであった。
冷の予想では仲間も同じ噛み後がある。
「大変なことになったぞ。ウチの子が……」
仲間の家でも同じ会話が聞こえてきた。
「あれっ、お前の言った通り聞こえてきた」
冷がにらんだ通り同じだった。
「俺の子もだ。伝染病らしい」
「まさか、ウル森に行ったのが関係してるとか?」
この父親はウル森に行ったのを覚えていた。
(この父親は記憶はあるようだな)
「あなたも首に噛まれたあとがある。ガーゴイルですよね」
「わからない。誰にかまれたかまでは……」
「でもハッキリとしました。他の仲間も同じく子供がいれば伝染病になってるでしょう」
「それじゃあ冷の感は当たっていたと」
「そのようね。そしたらどうするか。まさかまたウル森に行く気か?」
「ミーコよ、よく俺の事を分かってるな。嬉しいぞ。俺はもう一度ウル森に行ってくる。ガーゴイルを倒す。そうすればこれ以上の犠牲者は出ないだろ。俺が行くしかないだろ」
(覚悟を決めないとダメだな俺。ガーゴイルは強いがやるしかないときもある)
「ガーゴイルは強いだろ。お前が行ってくるとは言っても、勝てる見込みはないだろ」
「リリス、きっと作戦があるのですよ。そこまで言いのけるくらいです。何かしらの作戦が」
「ミーコ、悪いが何もない」
(これは事実です)
「それでよく行くしかないなんて言い切るよなお前は!」
感は当たっていたが、勝つ方法までは考えが及ばなかった冷であった。
それでも行動すると決定させてしまう。
後先考えるよりもバトルマニアなのだろう。
狂戦士の職業になったのもこの辺が影響していた。




