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冒険者ギルド。
話を聞いた冒険者はテンションは下がる。
ヤル気が出る者はひとりもいなかった。
全員一致して死にたくないと思う。
クエストで数をこなしてきた。
魔物との戦いは激闘であった。
魔法を使い、仲間がどれほど死んだかわからない。
経験を積んできた冒険者でさえもガーゴイルの名を聞くと初心者同然となる。
勝ち目などない。
戦えば死ぬのは確定。
全員がアリエル達から目をそらした。
「あなた達は冷氏が命がけでこの町を守ろうとしているのを見捨てるつもりなの!」
「……い、いや、だって魔人だろ。無理だろどうやっても。相手が悪過ぎだ」
声はとても小さい。
「それでも冒険者なの。情けないと思わないの!」
ミーコは厳しい視線を冒険者に送る。
さすがに返す言葉はなかった。
こんな可愛い少女に言われたら、冒険者としてのプライドが傷つくが、言い返せなかった。
「ミーコさん、それは苦しいですよ。冒険者だってみんな冷さんを助けたいはず。決して、見捨てたりしたくはない。しかしガーゴイルは魔人です。わかってください」
「……わかりました。確かに一緒に戦えてのは酷な気もします。ちょっと言い過ぎました」
ミーコは興奮してしまい少し反省する。
興奮したのは決して馬鹿にしたわけではなく、自分が情けないと感じたからだった。
助けることもできずに町に逃げてきたわけで、冒険者に偉そうに言える立場かと。
「今、王都には連絡しましたので、恐らくは近くにいる応援が来てくれると。それで納得してもらえます?」
王都に連絡と言っても信じてもらえるかは微妙であった。
なにせ魔人ガーゴイルである。
むしろ無視される可能性も考えた。
国王は魔人とは接触しない政治をしてきた。
なので魔人とは激突することは少なく済んだ。
「わかりました。お願いします」
「リリスさんもよろしいですか?」
「納得してやろう。早く草から薬を作れよ」
「は、はい、作ります……リリスさん」
リリスが命令っぽい言い方で言うと、直ぐに行動にうつした。
「私達はどうしますか」
アリエルがこれからのことを話す。
ウル森に帰るのは無理であるから、それまで何をしているかとなった。
不安感が押し寄せる。
じっとしていると余計なことを考えてしまうのもある。
「騎士団の連中が来るのだろう、本当に役に立つのかな」
「リリスは疑っているのですね」
「そりゃそうさ。冷に敵わなかった奴らだろ。来ても魔人には勝てねえよ」
「先程のラジッチではないかもしれません。むしろ違うのでは。騎士団にも強力な強さを持つ方はいます」
「期待できるのかな」
「期待するしか冷は助からないのです」
「アリエルの言う通りです」
「それなら騎士団が来るまでの間、ここで待つしかないよな」
「待ちましょう」
そうしてリリス達は薬の出来上がりを待つ間、冒険者ギルドにいた。
その頃、王都にはコットルの町からの連絡が来て、慌ただしくなっていた。
衛兵がハンマド国王に伝えに走ってくる。
「失礼します!」
「何ごとだ。ラジッチに礼を言っておいてくれ。冷を説得してくれたはずだからな」
ハンマド国王はてっきりラジッチが国王の使命を実行し冷を帰らせたとものと決め付けていた。
衛兵はそれで困り、話だし辛い雰囲気に。
「それがですね……」
「何かあるのか。そうかラジッチめ、もっと褒美をくれと言ってるのだな。それなら構わないぞ。ラジッチに褒美を上げてやれ。それだけの仕事をしてくれたのだからな」
「それが褒美よりも深刻なことが……ラジッチさんは冷を説得に失敗したと報告がありました」
「は? 今何と言ったかな」
聞き間違いだと思い言った。
「ええっと、ラジッチさんは冷さんに負けましたと。そして冷さんとその仲間はウル森に入ったそうです。申し訳ありませんとラジッチさんは言ってましたと」
「何! ラジッチが負けたと言うのか。じゃあ冷はウル森に入ってしまったのか。大丈夫なのか入っても。ダメだろう?」
「はい。研究ではダメとなってました」
「うぬぬ。もし冷が伝染病に感染してだぞ伝染病が拡大したらどうなる?マズくないか」
「はい、とてもマズい状況になり得ます。ですが今、入った情報では効果のある草を持ち帰ったとか。もしもその話に効果があれば伝染病自体を根絶させられます。そうしたら危険は消えていきます」
「なるほど、効果的な草があったのか。要は薬が作れるということだよな。それを聞いて安心したぞ。ラジッチがやられたと聞いた時は焦ったが。やはり冷は恐ろしく強いというのが証明されたわけだ。安心、安心。早く薬を作らせるように伝えろ」
「それが……まだ安心とは言えないのです……」
普通ならここで引き下がるのが常識となろう。
衛兵の立場から言って、口答えは厳禁である。
もしも国王の機嫌を損ねたら大変な失態。
絶対にしてはならない行為なのはわかっていた。
しかし普通の事態ではない情報があった。
下がれと言われても言わなければならない情報が。
「国王、もう1つ情報が入りました。その情報は大変な大きさの情報でして……」
「うぬ、言ってみろ。伝染病、薬、よりも大きな情報なら聞かざるを得ない」
衛兵が引き下がる様子がないのを察した国王は話を聞くことに。
「コットルの町の冒険者ギルドからの情報によりますと、冷はウル森に入った。そしてそこで魔人ガーゴイルと遭遇。そのまま戦闘になっていると。これは冒険者ギルドからの情報ですので間違いはないかと……」
「ま、魔人だと! ガーゴイル……。なぜウル森にいたのだ?」
「わかりません。初めからいたのか、情報が足りませんので。ギルドからは国王に応援の要請をしてきたのです。場所的にはここからは遠いですので、周辺からコットルの町に騎士団や冒険者を送るのが早いかと」
「応援か……。ガーゴイルなどと関わりたくはないが、応援して潰せるならそれもありだな。よし応援を送れ。ラジッチもウル森近くにまだ居るだろう。ラジッチも送れ!」
「ラジッチさんにも連絡します。ただ魔人ガーゴイルと聞いて向かいますかは疑問があります」
「冷の件がある。すでに失敗してるのだ。断われないだろう」
「はい」
ハンマド国王は騎士団を集めて送り込むことにした。
また可能な限りの冒険者にも声をかけさせる。
無理は承知でも金品を出すとして集めるのだった。
たいていはガーゴイルと聞いて、聞く耳を持たない。
それだけ冒険者にとってもリスクが高過ぎる相手ということである。
いくら大金がもらえても、死んだら使えないというわけだ。
国王がラジッチに指令を出したのは直ぐに伝わる。
ラジッチはウル森の近くから隣町にいた。
王都に帰る予定であった。
冷の気持ちを変えさせるどころか、ブチのめされたのだから、もう王都に帰るしかない。
帰る途中、気持ちは沈んでいた。
国王になんと言い訳したらいいのかと悩んでいる。
もう連絡はしてあるので国王は知ってるだろうと考えて、なんと言い訳しようかと思っていた。
情けないと自分に憤慨する。
でも言い訳ではなく冷がトンデモなく強かったと伝えるしかない。
異常な強さがあったと。
そこへ一緒にいた騎士団から連絡があった。
「ラジッチさん、お知らせが……あります」
同行している騎士団が報告した。
ラジッチはドキッとしてしまう。
報告と言えば国王からしかなかったからで、国王がお怒りになり、帰ってくるなとか言い出したのではと予想する。
「誰からだ。言ってみろ」
「ハンマド国王からです」
「そうか。内容は……まぁ聞かなくてもわかる。きっとお怒りなんだろう国王は。俺が失敗したから」
「そうではありません」
「じゃあ他に報告などあると……」
他にあるのか考えてみるが、どうも思いつかない。
「びっくりする内容です。ウル森に冷さんが入った。そしたら森には魔人ガーゴイルがいたとか」
「魔人ガーゴイル!!! なんだそのあり得ない展開は! 冷はどうしたよ」
まさか魔人がいるという展開は考えつかなかった。
「戦っている最中だそうで。冷達の応援にコットルの町に戻れとのことです。ガーゴイルは魔人の中でも危険度は相当高いはず。サイクロプスより上かも知れませんが」
「つまり、俺達が行けと。魔人ガーゴイルと戦えってか。ずいぶん厳しい報告だよな。はっきり言って難しい内容。冷も生きてるかわからんだろ。そこに行けとは国王も手厳しい方だ。だが考えようによってはチャンスでもある」
「と言いますと……」
「考えみな、俺達は国王の使命を受けてここまで来た。そして冷を止めるのに失敗した。つまりは作戦失敗してオメオメと王都に帰るわけだ。だがもう一度チャンスが来たとしよう。魔人ガーゴイルを討ち取れば、もちろん冷も生きているのが最低限の条件だが、汚名挽回できる」
ラジッチはこの報告を絶望てきというよりもチャンスだと認識した。
「では、またコットルの町の方へ引き返すことにしましまょう。ここなら直ぐに帰れます」
ラジッチと騎士団は帰り道を進路変更。
引き戻るのを決定した。
もちろん簡単な仕事ではないのは承知している。
魔人ガーゴイルの強さは知っていた。
冒険者ならば誰だって知ってる名前。
自分から戦いに行く者などいるわけない。
それでも行く決意をした。
騎士団の中には話を聞き恐れる者も多く現れた。
「行きたくない」
「俺もだ!」
「ガーゴイルの噂は聞いたことあるぜ。戦えば死は確実に。女の魔人らしいぜ」
「女であり羽が生えていて空も飛べるらしいと聞いた。それで空中から誰でも皆殺しにしたとか……」
「俺も聞いた。町をひとつ焼いたと」
「おいおいお前ら、それでも騎士団なんだろ。情けない話をするなよ!」
ラジッチはそんな弱気な騎士団を激励する。
「でもラジッチさんだって怖いでしょう……」
「このまま帰って騎士団の名が泣くぞ、それでもお前らは騎士団か。俺だってガーゴイルがヤバイのは知ってる。ヤバイ相手だから近づきたくはない。逃げるのはもっとヤバイ。そうだろ?」
騎士団は立ち上がりコットルを目指すのだった。




