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 ピルトの町に到着し冒険者ギルドに向かう。

 町の人達の視線は輝く。


「最近だとギルドに帰ってくると騒がしいよな」


「普通に言ってこれだけ活躍すれば目立ちます」


「目立ち過ぎでしょ。恥ずかしいくらいに」


「とんだ迷惑だ!」


「まぁそう言うなって」


 リリスは明らかに他と違い嫌がる。

 

 ギルド店内に入る前に、見物人が現れていた。

 最近の傾向ではあるが、店内に居る冒険者らはいちように驚く。

 

「帰って……来たぜ冷が……」


「……」


 冷が店内へ来た途端にヒンヤリとした空気に。

 あまりの強さに恐怖心を抱いているからである。

 それは当然で魔人を倒した人族など目を合わせられない。


(なんか俺って怖がられてねぇか。別に何も危害を加えねえけど)


「お前は怖がられているな」


「どうして俺だけ」


「そう、なげくな」


 次にアリエル達が入ると、全く逆の反応が。


「おお、女神アリエル様!!」


「淫魔リリスだ!」


 と男子達は色めき立つ。

 大勢のファンがすでに店内で待っていたのだ。

 アイドルなみの人気になりつつある。


「やはりアリエルは人気あるな」


「当たり前かな」  


「そこは絶対に否定しないのですね」

 

「皆さん女神の私がいる限り安心して暮らせますから!」


 アリエルは握手をして男子達に言った。

 

「ああ、ありがたいです〜」


「我々にはもったいないお言葉です〜〜」


「いいのよ、そんなに私をあがめなくても」


 アリエルが冒険者たちに喜ばれているのを見てリリスが、


「ウザいから来るな!!」


「淫魔がお怒りになった。でもその顔が可愛いぜ〜」


「あんまり近づくと隷属されるぜ〜」


「あらら、リリスも人気のようよ」


「うるさいだけだ!」


「可愛いって」


「やめてくれ!」


 リリスは握手を拒み続けた。

 ここまでは昨日まであった光景であろう。

 しかし今日は違った。

 相手にされていなかったミーコへの猛烈なアピールがきたのだ。


「あ、あの背の低い娘がミーコだ。あの伝説の勇者の血を引くと言われるお方だ!! しかも可愛い!!」


「えっ!! えっ!! 私もですか?」


 どこからか、勇者の血を引くと話の噂が流れてミーコの人気はまたたく間に増えていた。

 しかもちいさいのに巨乳というアンバランスな体型も、ひと役買っていた。

 

「凄い人気じゃないかミーコ。遂にキミまでアイドル化したか。まぁその胸なら当然だがな」


「アイドルだなんて無理です。盗賊の行為の邪魔になるだけですし」


「それにしてはちょっと嬉しそうに見えますが?」


「嘘よっ!」


「ミーコが胸が大きいですから」


「アリエルは胸は小さいのに人気あります」


「小さいのにとか言わなくていいです!」


「ごめんなさい」


「でも本当はアリエルとリリスが人気あるのをイイなぁと思っていたのだろう。何となく俺にはわかってたぜ」


「うう……そんなことありません。絶対に」


 かたくなに否定するミーコ。

 しかしちょっと気持ちがいいのも事実であった。


「3人とも同じくらい人気あるのはうらやましいよ、俺からしたら」


「まぁお前は女の子からは人気あるが冒険者からは怖がられているからな」


 その先にはユズハ店員が待っていた。

 もはやこの光景に笑うしかなくなっている。


「おかえりなさい冷さん。シーホークは討伐されたのですか」


「もちろんです。はい、これがシーホークの素材です」


 袋から取り出すとユズハ店員に手渡した。

 量は少ない為にユズハ店員は少し動きが止まった。


「あれれ、冷さん。普通ならこれで問題ありません。だけど冷さん達の持ち帰る量からしたら今回の素材の量は少ない気がします。やはりシーホークはランクが5と言うのもあり難敵だったのですね。ランクは1つ上がると急激に強くなることもあります。お仲間のレベルを考えて、この程度の量で終らせるのがベストな選択でしょう。さすがに冷さん、判断力も優れています」


 ユズハ店員は大きく頷いた。

 冷がランク5の相手なので、大きく出ないで控えめにクエストを遂行したことに感服したのだ。

 

「いいえ、違うのですよユズハさん。これしか無いのは、素材であるシーホークを焼いて食ってしまった。みんな食べてしまったので、残りの部分だけを持って帰ったたいうわけでして」


「女神はそんな下品な行為はしませんから」


 アリエルだけは否定する。


「美味かったぞ」


「アリエルも食えば良かったんだ」


「だから、要りません!」


「もうお腹いっぱい。あと焼いたシーホークをユズハさんの分も持って来ました。どうぞ食べてくださいませ」


 ユズハ店員にシーホークを勧める非常識なミーコ。


「い、い、い、要りません!! 食べたって……。そ、そうですか、それは失礼しました」


 予想もしてない回答にユズハ店員は言葉に詰まった。

 

「あれ、食べるの禁止とかあったのでしょうか?」


「別に食べたら違反とか罰則とかの禁止事項はありません。なので別に食べたからと言って罰則はないですが、一般的には魔物を討伐して食べたっていうたぐいの話は聞きません。万が一に毒があるかもしれませんし、食中毒もあり得ますから。そうなると帰ることが困難になって命を落としかねません。なるべく食さないことをおすすめしますが……」


「まぁそうですよね、俺も今回だけにして、次からは食べません」


(確かに言われる様に問題あるよな。次回からは気をつけよう)


 不用意な行動に反省をする冷。

 照れながら頭をかく。

 もう素材を渡して要件は済んだ為にギルドを出ようとした時だった。

 ひとりの男性が冷に近寄る。

 助けを求めるようにして。


「あなたは、あの冷さんですよね?」


「はい、あの冷だと思います。何か用ですか俺に」


(ずいぶんと深刻な顔をしてるな)


「はい、それがワケありなのです。話を訊いてくれますか。お願いします」


 男性は頭を深く下げて言う。


「俺で良ければ話は聞きますよ、どうぞ話してください」


(やはり困ってるようだ。話しだけでも聞いてあげよう)


「実はこの町ではなく離れた所にあるコットルの町がございます。そこに今大変な事が起きているのはご存知ですか?」


「また魔人かな」


「い、いいえ!! 魔人ではございません。ある伝染病が流行ってるのです。それは子供たちだけに伝染する病気でして、このままだと町の子供たちの命が危ない。まだ死んだ者はいませんが、それも時間の問題でしょう」


 男性は泣きそうな顔をしていた。

 とても深刻な話に冷は放っておいてはいけないと。

 

「子供たちの命がかかってる伝染病か。それは困ったな。俺は医学の知識がないので病気を治せないのでな。申し訳ないが。回復系の魔法を使うのはどうなのかな」


「はい、回復系魔法を使える者でも効き目はなし。ただ唯一治せる方法がわかっています。それは私の町のコットルの町にあるウル森にイナケの花が咲いているそうです。その花を調合して薬を作るのが、たった1つの方法なのです」


「つまりは、そのウル森に行けばいいと。でもそれなら俺がわざわざ行かなくてもいいような気もするが……」


(俺に言ってきたのは理由があるのかな)


「……それは大変に言いにくい話でして……」


 男性はハッキリと言えないようであった。

 そして黙り込んでしまった。

 その話を横で聞いていたユズハ店員も様子がおかしくなっていた。


「……冷さん。ウル森は知ってます。でも教えるわけにはいきません……」


「どうしてですユズハさん?」


(そこが大事なとこでしょう。教えないて、意味がわからない)


「それは、ウル森は立ち入り禁止区域だから。王都が指定した禁止区域の1つ。だからイケナの花が必要でも取りには行けません残念ですが」


 ウル森はユズハ店員の言った通り、誰も入ることは出来ない状態であった。

 それは冒険者ギルドなら知っていて当然の知識。


「立ち入り禁止……。じゃあどうしたら俺は花を取れるんだ。このままでは子供たちが死んじゃうのだろ!」


 冷はユズハ店員に言い寄る。

 納得いかないからだ。


「……そう言われても無理なのよ。ある理由があって」


「理由だと、言ってくれ!」


(どんな理由だとしても俺は行くけどな)


 冷は引く気はなかった。


「理由はその伝染病の原因がわからないってこと。研究者が長年原因を突き止めようとしたの。でもわからない。ただ確実ではないけどウル森に行った冒険者が持ち帰ったネズミがいた。その冒険者の子供が突然に伝染病になったという話があるの。それで原因はウル森が関係していると決まり王都から立ち入り禁止区域の命令がくたされた。なので冒険者は現在は立ち入り禁止です」


「もし俺が入ったら、そのウル森に……」


「王都から処罰されます。恐らくは冒険者ギルドの名簿から除名されるのは確実。2度とクエストは受けれません。それでも行きますか?」


「……」


 冷は返事に困った。

 行かないわけにはいかない。

 頼られてきた男性の期待に応えたいから。

 だが王都を敵に回すのは得策ではないのというユズハの言い分もわかる。

 冷はウル森に行くか、王都と敵対するかの2択を迫られたのだった。

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