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これで安泰と思っていてはいけない。
まだシーホークを倒したわけではない。
それにいまだにシーホークは無傷である。
つまりは喜んでいてはいけない立場であった。
冷は即座にアリエルに指示を出す。
「今度はリリスにもしてあげるんだ! 出来るか?」
「もちろん出来るに決まっている。なにせ私は女神なのだ!」
女神かどうかはこの際関係ないのだが、誰も否定する気はない。
それよりも早く放てと思う。
「女神なのはわかったから、どうでも良い、早く放て!」
(本当にこだわるよな)
「どうでも良い……。ちょっと冷、それはききづてならない発言だことよ」
冷の言ったひと言に噛み付いた。
「……いや、違う、そう言う意味じゃない、とにかく相手がまた来るぞ。その前に放て!」
(こんな時にでも女神のプライドを押し付けてくるとは……)
正直言って、まいった冷。
「なんか納得いかないけど、放つわよリリス! 聖なる治癒!」
「いちいち、気を使わせる女だ、早く放て!」
リリスは短気な性格な為、イラッとしていた。
そうしてると光に包まれていく。
シーホークに負わされた怪我は、深手ではないが治癒されていった。
「どうよ!」
「い、痛みが減っていくぞ。これは便利なスキルだぞ!」
「そうですか。私に感謝しなさい。いつもしてると思うけど」
「今回だけな」
「いつもしなさいよ!」
「毎回そのスキルを使ってくれたらな」
「そうならないようにする方がいいのだが……」
「それもそうね」
リリスを回復させるのに成功したアリエルは浮ついている。
そのアリエルに注意をすると、
「絶好調だな。だがいい気になっていては危険だぞ。シーホークがいる限り攻撃は続く。こちらの攻撃はまだ一度も当たってないのだ」
「言えてます。今度はあなたがスキルを使うし番よ。訓練してたのあるわよね」
「見てたの?」
「見てたわよ。あなたのスキルなら的中できるかもよ」
「魔物相手には放ったことないからよ」
「やってみなさい」
「ディープスピンは果たして上手くいくか。まだ訓練で試してみただけのレベルだから、確率的には成功しないぞ」
「なに弱気になってるのです。遠距離でも攻撃出来るのだから、シーホークにも通用すると思うことよ」
「……」
リリスはディープスピンを使うのに、ためらいが生じた。
訓練で出せても実戦で成功するのは別次元と思ったからだ。
「アリエルの言う通り、ここはディープスピンを使ういいチャンスだ。リリス、おもいきって使ってみてくれ」
冷は迷っているリリスに使うように言った。
(アレは敵一体に対して効果がある。問題は動いているのに的中させるってとこか)
「そう簡単に言うけど、意外と難しいですから」
「ほらっ、来るわよ!」
「わかったぞ。やってやる。魔族の力をみせてやろう……」
リリスは魔力を集中させる。
怪我の痛みは、かなり減っていた。
アリエルに援護されたのに、このままでは終われないと思った。
そこへシーホークが再び襲う。
猛烈な速度でミーコに向かった。
ミーコは防御の体勢を作る。
リリスは一気にシーホークに目がけて、ディープスピンを放った。
「ディープスピン!!」
魔剣グラムを振り抜く。
剣先に集まった魔力は、シーホークに向けて一直線に進む。
方向は合っていた。
シーホークはミーコを狙っているので、ディープスピンにはきづいていない。
リリスは的中したと確信した。
しかしシーホークはディープスピンが近くに飛んでくるのを察知する。
危険察知能力は高かった。
本能的に察知したとしか思えない程に。
「うそっ!」
「!! 当たらない!」
リリスの声は悲しく守りに消える。
ディープスピンは的中せずに空中に消えていった。
「リリス、残念だが当たらない。もう一度打つんだ!」
(あのタイミングで避けるとは、いい感してる奴だ。人並み外れてるな。まぁ鳥だからだうろ)
シーホークは体勢を変えて、攻撃目標をミーコからリリスに合わせた。
旋回してリリスに。
「なんか、リリスに向かって来てる感じする……」
「私もそう思う」
リリスはと言うと、ディープスピンを打てる状態ではなかった。
一度放つのに時間を要するのが原因で、シーホークはそんな余裕を与えてはくれない。
直ぐ目の前まで直進してきていた。
「無理だろ、無理だろ、無理だろ冷……」
「大丈夫だ、打ってみるんだ!」
(今の俺には打たせるようにしてあげるのが役目)
「外れたらどうするんだよ!」
「当てると自信を持て!」
(自信を持たせるのは難しいな)
「持て!って言われても、当たるかわからない!」
「訓練を思い出せ」
「……こうなったらもう一度打ってやる。この小うるさい鷹め……ディープスピン!!」
リリスはディープスピンを放つ。
それはシーホークと激突する直前であった。
まるで爆発するかのように破裂した音だった。
アリエル、ミーコはどちらが先に与えたのか、わからない。
シーホークが先か。
それともディープスピンが当たったか。
冷はわかっていた。
他の2人と動体視力が違い過ぎたのもある。
どちらが先に与えたを見きっていた。
(……リリスはよく怖がらなかった。それが決定的に影響した)
冷はリリスのディープスピンが一瞬速く的確にシーホークに命中させるのを見た。
シーホークは轟音とともに、吹き飛んでいった。
そして遠く離れた地に落ちた。
「やったぞ。ディープスピンが命中したぞ! どうだみんなみたか、凄いだろ!」
「やったわね」
「確かに凄いぜリリス。俺からも褒めてやろう」
(マジで凄いよ)
「ありがとう」
「私からも褒めてあげます」
「なぜかアリエルだと上から言われてるみたいなんだよな」
「気にしないで」
「助かりました。もう少しでシーホークに殺られるかもと思いましたから。それにしても破壊力はいい感じでした」
「ミーコが無事で良かった。まぁ私のスキルが強力だったからなんだけど」
感謝の気持ちを込めて言った。
普段はあまり感謝を言うことはない。
恥ずかしいのもあるが、お互いにライバルでもあるからだ。
それにそれぞれ特殊な経歴、血筋を持つだけに、負けたくないのもあった。
「さっきまでは怖がってたことよ」
「打った私も驚いたんだ。かなり威力は、あるようだ。これも淫魔の実力。やっとみんなは理解したのか。これからはリリス様と呼びたまえ」
勝ち誇るように言い出したリリスは、魔剣グラムをかかげ決めポーズ。
「あれれ、さっきは、無理だろ無理だろとか言ってたのは、誰でしたか?」
アリエルがそこに一撃の言葉を入れる。
「えっ……。誰だろうなぁ……。そんなこと言ったのは……」
「リリスさん、完全にバレてます」
ミーコが言うとリリスは魔剣グラムを静かに降ろした。
シーホークはスキルのディープスピンを受けてボロボロになりかわっていた。
破壊力は相当なものであり、魔物程度なら十分に通用することがわかる。
リリス本人も驚いていた。
このスキルはかなり使えるなと冷も確信して見守る。
ギリギリまで助けることをしなかった。
あえてリリスに託したのだった。
それは冷が手助けをするのは簡単である。
このピンチを難なく逃れられたであろう。
しかしそれではリリス達の為にならない。
訓練の成長を妨げることになるのである。
冷もつらいがここは我慢して見守るのに徹した。
結果は良い結果になる。
1番ホッとしていたのは冷であった。
(けっこう、危なかったけどな)




