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「そなたはボニータか!」


 国王の前に現れたのは3人の人族であった。

 Aランク冒険者であるボニータは神風の団の団長である。

 団長とは言え女の子。

 スタンダール国内では名のしれた人物であり、類まれな能力で魔人討伐に招集されていた。

 もうひとりはBランク冒険者ナーベマルであり稲妻の聖者の団長をしていてる女の子。細身の体をしているが強力な魔法スキルで有名な人物で、普段は好きなときにだけクエストを討伐している自由放浪な性格でもあるが、国王の勅命とあって駆けつけたしだいである。

 最後はCランク冒険者ラジッチで鋼鉄の騎士の団長をしている大男で、スタンダールで1番の怪力で知られ大型の金ずち持ちとしても有名であった。

 名のしれた冒険者3人がハンマド国王のいる間に現れたところで、サイクロプスをにらめつける。


「はい、ボニータです。お呼びにかかり参上しました」


「ナーベマルです。僕も協力しますハンマド国王」


「おお、そなたは魔法使いのナーベマルか、頼もしい限りだ」  


「俺も忘れないでくださいハンマド国王」


「そなたはラジッチか。来てくれたか」


 ハンマド国王は魔人対策として国内にいる有名な冒険者ギルド登録した者を集めることにした。

 自分達だけではどうにも出来ない。

 だから他人の力を借りようてわけだ。

 他力本願てやつだ。

 その姿をみた兵士らも歓喜が起こる。


「おお! あの3人がいれば無敵だろう!」


「特にボニータまで来るとはな。魔人など怖くないぞ!」


 笑顔で喜ぶ衛兵。

 Aランクというだけはある。

 つまりは最高の能力を秘めた冒険者だということであるので、衛兵も死ぬ人数が減ると思ったのだろう。


 軍師コロナもホッとして、


「君たちを呼んだのは言うまでもない。ここにサイクロプスがいるだろ。魔人を捕まえたことが今後世界に広まる。つまり我々と魔人、魔族との間で争いがきられたとも言える」


「他の魔人は現在どうされてるのでしょう?」 


 ボニータがきき返す。

 

「現在は静かにしている。特に動いた形跡はないし情報もない。だが油断は禁物。いつこの王都に牙を向けてくるかわからない。頼むぞボニータ、ナーべマル、ラジッチよ」


「わかりました」


 ボニータが返事をして冷の方に来ると、

 

「君が冷かい。話は聞いてるよね。私達の仲間として魔人対策のメンバーに加わるのは。その指揮を取るからよく私の指示を聞くのよ」


 いきなり会って冷に上からの物言い。

 私はAランクなんだから当然私が偉い。

 だから私の指示をあおげ。

 つまりは冷にサイクロプスを倒してもリーダー振るなということだ。

 世の中には上下関係を押し付けてくる連中はいる。

 まさにボニータはその典型的な者。


「……俺は冷です。わかりましたボニータさん」


 冷はいきなり現れて、この言い方にちょっと頭にきた。

 このタイプは逆らうとキレる。

 それは小学生の時からあるパターンだ。

 よくあるガキ大将の異世界バージョンてとこか。

 逆らうよりもおとなしくしてれば被害は少ない。

 面倒くさいのもある。

 冷はここは自分を抑えて、ボニータの意見に従うことにした。


「それでいい冷。それと隣の幼女3人は仲間か。そんなわけないよね。幼女は足手まといなら以後は連れてくるな!」


「ボニータさん、僕は幼女ていうより奴隷じゃないかとおもうよ、あはは」


 ボニータから見て幼女と映ると、隣にいたナーベマルからは単なる冷の奴隷にしか見えないらしく、どちらもミーコ、アリエルとリリスの存在はきいていなかったわけで、そこらにいる女の子とみていた。

 

「それって、私の事?」


 リリスが今の会話で気がついて、幼女?奴隷、つまりは邪魔者扱いされて、この場の笑い者とされて、魔族を前にしてジョークを言うのも程があるのだし、怒りが頂点に達した。


「そうだよ、聞こえたよね?」


「お前なぁ、絶対に……」


「なんだ、もしかして僕と戦う気かい。僕は構わないけど」


 ナーべマルは女の子だが自分のことを僕と呼んでいる。


「僕、僕って、お前は男なのか女の子なのかわからないだろっ!」


「そんなの決まってる。女の子に! 見てわかるでしょう!」


「私の方が胸は大きいがな」 


「なに! そ、そ、それを言うか!」


 事実、ナーべマルは女の子と見てわかるが、普通のサイズの胸をしていた。

 

「ゴメン、ゴメン、私のサイズと比べてしまうのは悪かったよ」


「むむむむ、ムカつくわねこの子、単に冷の補助的な冒険者っぽいけど」


「補助的ですって? 私が誰だか知らないの?」


「知らないわよ!」


「まぁまぁリリス、落ち着こうか、国王の前だしな」


「うう……ちくしょう」


 ここは無駄な争いは避けたい冷は、新たな敵を作るのも面倒くさいてのもあるし、リリスは押さえつけられる。

 特に淫魔を職業とするリリスに奴隷とは、警察に泥棒というのと同じ、侮辱的な言葉となろう。


「ナーべマルよ、落ち着きなさい」


「申し訳ありません国王。つい熱くなってしまい……」


「冷の仲間なのだから、仲良くして欲しい。リリスと言ったな、ナーべマルとは仲良くして。アリエル、ミーコも同じだ」


「はい、そうします」


 アリエルは国王に頭を下げる。

 神だという話は、この王都には届いていないと思ったから。


「はい国王様」


 ミーコも従った。

 ミーコは初めて会う国王に大変な思いで返事をした。

 なにせ生きて国王に会えると思ってもみなかったからだ。


「ボニータよ、冷達とは一緒に魔人からの攻撃を防ぐ最前線に立ってくれ」


「はい、国王。私がいれば魔人の好きにはさせません」

 

「よし冷も魔人対策メンバーに加わった、これでいつ魔人が来ても万全の体制が整った。スタンダール国内も不安が解消されることだ」


 今の話を聞いていたサイクロプスが、


「それで本当に防げると思ってるのか笑ってしまう」


「何が言いたいのだい?」


 斧を使うことで有名なラジッチが尋ねる。


「この程度のメンバーで魔人と戦うのかと言ったのだよ。もし本当に思ってるのなら、幸せ者だ。特に上級魔人に会ったこともないのに。会ったら後悔するよ」


「うるせえヤロウだ。お前は捕まってるじゃねえかよ」 


「俺は上級魔人ではないからな。まぁ言ってもわからないだろう。どうなるか楽しみにしてるよ。君たちの泣いてる顔が浮かんでくる」


「負け惜しみだろ、どうせ!」


 ここでサイクロプスは連れて行かれる楽しい牢獄に。

 ハンマド国王とビジャ姫は別室に消え、要はサイクロプスはご苦労様、次の魔人も頼みますということで、国王はたいていは気楽な生き物、苦労は全て他人に任せればいいし、そして良い結果には褒美を出し、それだけで国王の名声は上がり、気楽な人生であろうと冷は、無駄な争いは好まなかった。


(まぁ今日は争う為に来たわけしかからな)


 ボニータとは仲良くしておくのが好判断と踏んだ。


「それではボニータさん、よろしくお願いします」


 握手を求めて冷は手を出す。

 

「おい、勘違いするなよ。お前は私と対等の立場? 握手なんて要らないわ」


 冷の手を退けるという、何とも失礼な態度でおられるお方であって、自信満々な傲慢な態度は、嫌われないのか、強いものはこの様な態度をとっても嫌われることはないのが通説だが、冷には酷く嫌味に映った。


「……そうですか。失礼しましたボニータさん。俺は帰りますのでまた会う日まで」


「その時にはその幼女は、ちゃんと家に置いてきてね、あはは」


「またね……リリスちゃん!」


「こっちは会いたくない!」


 どこまでも人を馬鹿にする言い方で冷の前から去っていく3人の冒険者である、ボニータにとっては冷など要らなく、まぁハンマド国王が仲間に加えるというから、いたしかたなく、丁寧に握手を断って仲間としてやった。

 

「なんか態度がデカイです、私達の目的はサイクロプスを連れてくることでしたから、達成はしたのですし、気にしなければいいわ」


「アリエル、お前も馬鹿にされてるのだぞ、あんな偉そうな冒険者ごときに。私はムカついた。あんな奴、殺ってしまえばいい」


 リリスはアリエルと違い我慢が出来ずイラついていた。


「冷はボニータを相手にしてないのよ。だから受け取るものだけ受け取って帰りましょう」


 ミーコはリリスと違って腹を立てずに落ち着いて、冷とリリスを扱う。

 そうは言っても多少は腹も立つが、それよりも賞金であるマリを貰う方が大事なことだと思ったのもあり、もし争って国王から嫌われてでもして、大事な1億マリがキャンセルされたら大変な損である。


「そうするか、じゃあ1億マリを頂いて帰ろう、ってもどこで貰えるのか訊いてないな」


(1番大事な事を聞くの忘れてた)


「早く訊いて来な!」


「そうですよ!!!!!!!」


 リリスにドヤされ気味であるが冷は、困っていると衛兵がひとり近づいて来た。


「冷さん、これでサイクロプスの件は終わりですので、1億マリの説明をしておきます。冷さんに与えられる1億マリはいったんは商業ギルドに預けられます。冷さんならいつでも引き出し出来ますから、その時は受付けに言ってください」


 あまりの多額のマリだけに直接渡すのではなく、商業ギルドに預けられる形を取って、引き出すように説明された冷は、この場で1億見れるのかと思ってドキドキものであったので、やや残念がる。


「そうでしたか。商業ギルドはどこの町のギルドでも引き出し出来ますか。俺の住む町はピルトの町なんですけど、例えば王都の町とかも出来ますか?」


「はい、スタンダール国内なら問題ありません。どこのギルドからも引き出し可能です。1億も直接渡すのも可能ではありますが、持って歩くのも不便でしょうし、最悪盗難にでもあったら困るでしょう。失礼しました、冷さんに盗難する奴など居ないでしょうが」


「そりゃそうだろうなあ。これで俺達はピルトの町に帰ります」


(用事は済んだから、帰るとするか)


「いつ国内が危険な状態になるかわかりません。その時は直ぐに冷さんに連絡します」


「それでは俺達は帰ります」


 城を出ることに決めた。

 城内を歩いていた時に兵士から声が、


「冷さん、ちょっとお待ちを」


「はい、なんでしょう?」 


「ちょっとお時間を頂けますか。冷さんだけ」

 

「えっと……俺だけですか。まぁいいですよ。君たちはここで待っていて」


「うん」


 アリエル達はその場で待機させて冷は兵士の歩く後ろをついていく。

 すると誰もいない通路に案内されて柱の影に人影が見える。


「呼んだのは私です……」


「あれれ、ビジャ姫?」


「なぜ呼んだのって顔ですね。そうなりますよね。特に呼んだのは理由はないの。ただお礼を言いたくて。その、私は応援してますから冷さんを」


「あ、ありがとう」


(めちゃめちゃ可愛いな。さすがに姫って感じ)


「騎士団や冒険者にはあなたのことを良く思ってない者がいるのはわかりました。でも私は応援してますよっ!」


「ええ、ありがとう。俺もビジャ姫の喜ぶように頑張って来ます!」


「嬉しいですわ! それでは私はこれで……」


 ビジャ姫は兵士に言って冷を呼んだのであった。

 呼んだ理由は冷にひと言言いたかったから。

 ひと言告げると消えていった。

 残された冷は顔が真っ赤になる。

 

「ま、待たせたな、じゃあ帰ろうか」


 何もなかったかのように振る舞う。


「あれれ、冷氏ったら顔がもの凄く赤い。何かあったの?」


「な、何もない!」


「それなら私の勘違いですか」


「そうだよ。ミーコの勘違いさ」


「怪しいです」    


「怪しくない!」


(う〜ん、やはり顔に出ていたか……)


 冷たちは城を出るとピルトの町に帰ることにはなっているが、このまま帰るのではなく、王都の町を探索してみるのもいいだろうとなった。

 町の規模が違う為に人の数、お店の数は桁違いに多く、都会に来たって感じで、色んなお店を見ながら時間を過ごした。

 また町を歩く女の子の可愛さも段違いにレベルが高い、それも思わず目がいってしまう程に。


(さすがは都会ってとこか)


「さすがに王都だよな、女性がみんなキレイに見える」


「そこしか見てないの!」


「冗談だよ」


「冗談には聞こえない。一度冷の頭の中を覗いてみたい」


「やめとけアリエル。覗いてみて衝撃を受けるのに決まってる!」


「でも、覗いてみたい!」


「きっと裸の女の子しかありませんよ」


「……それなら見ないほうがいいか……」


「そうしてください」


「おいおい、君たちは俺も何だと思ってるの?」


 要件は済んだが、アリエルに説教されて王都の初日は終わった。

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