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オリジナルスキルを作り出した冷は、ぶっつけ本番でサイクロプスに使用の決断を迫られた。
(マジでキツイな、でもやるしかねえ)
((そのオリジナルスキルを使ってみるのだ。ただし私は寒くて仕方ないが))
(よし、バアちゃんに我慢してもらって、使ってみる!)
ナギナタに可能な限りの魔力を込める作業をする。
時間はない。
いつまでも潜れるいられる時間はない。
サイクロプスは冷を探し出す為に、暴れるようにしてインフェルノをぶちまけた。
よって城は内部崩壊寸前までいく状態となった。
(城ごと壊れるぜ、ムチャするな)
ナギナタに魔力付与が終わる。
運良くサイクロプスにその作業中は見つからなかった。
(大丈夫だろう。まだ見つかってなさそうだ)
ナギナタは以前にも増して水色に輝いていた。
まるで氷の槍のようにもみえる。
(サイクロプス待ってろよ)
サイクロプスが変わらず暴れる。
最初に出会った時とは大きく違った。
そこへ塞ぐようにして現れた冷。
「暴れすぎだぜ!」
「ふふ、もう山のふもとに逃げてしまったのかと思ったぞ。こうして現れたからには覚悟したようだな、死を。へスティは死んだか?」
「殺しちゃいない。気絶させた」
「いい情報だな。死んだら暴れまくってこの世界全て破壊してるところだった」
「やってみろ。俺は簡単には死なないぜ」
(どうなるか俺にもわからなくなってきたな)
サイクロプスは何か異変があるのに気づいた。
それがなんなのか、はっきりとはわからない。
魔人としての素質が、冷の変化に反応していた。
「早死にしたいようだな。お望み通りに殺してやろう」
サイクロプスが片腕を高く上げる。
片腕は深い赤色した色に染まっていた。
(来るか!)
冷はその動きに合わせてナギナタを上にし上段の構えへともっていった。
(俺から行くぜ)
冷から足は動いた。
間合いを詰める動きで、サイクロプスが反応するが予想以上に速かった。
片腕を振り下ろすタイミングを無くし、1度後方に逃れた。
冷がインフェルノを恐れずに間合いを詰めるのにサイクロプスは驚いた。
(引いたか……)
先ほどまでとの違い。
怖くないのかインフェルノがと思ったが、考える間もなく攻め入ってくる。
そこで片腕を振り下ろし、冷の息の根を無くしにいった。
振り下ろすと同時に城の床は、こっぱみじんに吹き飛び、大きな穴があいた。
(残念だったな。俺は捕まらないぜ)
しかしどこを見ても冷の死体はなく、スキを作ったサイクロプスは空中から冷が攻撃して来るのに感じとれなかった。
「あいにく俺は上だぜ」
「いつの間に!」
冷のナギナタがサイクロプスに向けて伸びる。
防御しか間に合わないサイクロプスはインフェルノ状態の片腕を掲げて防御した。
(俺のナギナタを防御できますか)
2つの武器が交差した。
爆風が巻き起こる。
爆風の勢いで壁がいくつも破壊された。
そこで城は支えを失う。
上の階の床が抜けて下に落下。
サイクロプスは素早く床の下敷きにならないように避難する。
(サイクロプス……強いのは認める。戦いの経験が俺が上だったな)
それがある意味命取りとなった。
冷は落下して来る床におくすることなくサイクロプスを見ていたからだ。
サイクロプスだけを見ていた。
床には目もくれず。
その差が攻防に現れた。
冷はサイクロプスに向かい突進。
もちろん冷の命からがら危ないのは言うまでもない。
床の下敷きになり得るからだ。
それでも冷は突進を選んだ。
「なにっ、まさか突進だと!」
意表を突かれた形となったサイクロプス。
そこにスキが生まれた。
「甘いなサイクロプスさん。俺のアイスドラゴンブレードを見てみます?」
(俺も凄さはまだわかってないけど)
冷はナギナタを一周させた。
サイクロプスは死の寒さを感じる。
凍りつくような寒さを。
サイクロプスの片腕は吹き飛んだ。
それもインフェルノが付与したある方の片腕。
あまりの速さに見えなかった。
アイスドラゴンブレードがインフェルノを付与した烈火拳を斬ったのだった。
(片腕もらいました)
冷の創作したオリジナルスキルであるアイスドラゴンブレード。
その威力は凄まじいものがあった。
使用した冷ですらその切れ味と破壊力に驚いた。
アイスドラゴンブレードなくしてサイクロプスには勝ち得なかったとも言える。
つまりは冷のスキルが今回も大活躍したということだろう。
(スキル様々だなホント)
「ぐゎぁ! 烈火拳が負けるなどあり得ない。あり得ない! アイスドラゴンなんとかなどに負けるなど」
「負けたんだけど。俺のナギナタは強いっしょ。あんたの腕より強いさ」
(認めたくない気持ちはわかるよ)
「インフェルノと烈火拳を斬る武器など普通では考えられない武器。それもレア物、いや超レア物と呼ばれる武器。まさかそこまでの価値のある武器だったのかそのナギナタとやらは?」
サイクロプスは斬られた片腕を抑えつつ言う。
その表情は厳しい。
「超レア物みたいだなコレ。だから最初に訊いただろあんたにさ。このナギナタと温泉の源泉を交換しようって、そしたらあんたはコレ馬鹿にして断ったから、戦う羽目になってそのあげくに腕は斬られるは、城は粉々になるはだろ。最初から俺の話を聞いてれば良かったのさ」
(だから最初から俺の話をきいておけば良かったのさ)
冷の言うとおりであった。
戦いを避けるのはサイクロプス次第でできたのだから。
「……そこまでの品だとは思わはないだろ普通。どう見ても見習い冒険者の持つレベルの武器にしか思えない。それに人族を超えた体術、槍術はどうやって身につけたのかも疑問だ。それとスキルのアイスドラゴンブレードとか言ったな。そんなスキルは聞いたことがない。俺の烈火拳とインフェルノを打ち斬るスキルなど数える程しか存在してないはずだ。それと、とても無名な冒険者と言ったらお前に失礼だが、この国では冷と言う冒険者の名は無名に近い。なぜだろうか。これ程の能力者が今まで無名でいたなんて。考えられるのはたった1つだな、お前は転生者だろ。それもつい最近になってこの世界に来たんだよ。だから俺たち魔人も知らなかったお前を。それしか理由はない。どうだ?」
サイクロプスは冷の能力を認めた。
その異常な体術と剣術、槍術の使いに。
あらゆる武術に精通してきた冷。
その努力をサイクロプスは知らない。
ただ圧倒的な強さに頭が思考停止したのだ。
そして辿り着いた答え。
それが異世界召喚によって来た人族。
それならば話が通じるのである。
なぜなら異世界召喚には歴史があった。
召喚の歴史はサイクロプスも聞いていた。
嫌と言う程に聞かされたといっていいだろう。
過去にも異世界召喚は行われた。
冷以外にも数多く送り込まれたのは周知の事実。
ある者は英雄と呼ばれた。
数多くの異世界召喚者にも格差があった。
そのほとんどは魔人の前に死した。
しかしわずか、ごくわずかの者は生き延びた。
生き延びた者は魔人を駆逐したと。
そしてその中の選ばれし者は魔王をも封印したと。
サイクロプスはその言い伝えを噛みしめた。
(転生したのバレてたか)
「バレてた? まぁ、その今頃言うのもなんだけど、俺は異世界召喚されて来たっつうのは当たりだ。あんた鋭いな。別に俺は名前を隠してたわけじゃねえけど。たまたま召喚された地がピルトの町だったつう理由さ。そしたらあんたが俺の好きな温泉を独占してたから俺と戦った。あんたの敗因は俺がめっちゃ温泉が好きだったっていうことだ。残念ながらあんたの負けは確定」
「殺せ。へスティも後でそうして殺しすのだろう。同じように殺せ」
サイクロプスは死を確定させられたのを悟った。
別段死を恐れていなかった。
ただ自分を倒した相手。
冷の正体を知りたかった。
一般的な冒険者、この世界に生まれた者に殺されたとなれば恥となる。
しかし、異世界召喚者が相手となれば話は変わる。
冷にはその召喚者の中でも超レア級な物を感じたのだった。
だから、冷に殺されるのなら後悔はないと思った。
「そう簡単には殺さねえよ。まだあんたには使い道があるんでな。これでおとなしくしててくれ」
(アレを使ってみるか)
意外な言葉がサイクロプスに返ってきた。
それは殺さねえと聞こえた。
どういう意味かわからないが、冷が殺すつもりがないのは理解できた。
「殺さないで何に俺を使う?」
「理由は教えねえ。とにかく縄で巻くけどいいだろ」
(通用するかどうかだ……)
[縄縛り]
魔力を縄に流すことで脱出するのが困難になる。
習得スキルの1つ、縄縛りを使う。
持っていた縄でサイクロプスの体を巻いた。
縄には冷の魔力が流れており脱出は困難な仕組みとなっていた。
イリサ先生のスキルを冷の豊富な魔力でより強力なものにしてある。
サイクロプスはたった1本の普通の縄に巻かれた。
(破られたら殺すしかないな)
抵抗してみたが、全く見動き1つ出来ない。
「なんだこの縄は……」
「どうやら見動きできないのだな、成功だ」
どういった仕組みなのかはわからないが、直ぐに冷のスキルだとわかり、抵抗するのをやめた。
(成功したようだ)
こうして中級魔人の1人、サイクロプスを捕獲に成功。
温泉の源泉も所有権は、サイクロプスではなくなる。
「結果は俺の勝ちだ。温泉は俺の物とする。俺の自由にさせてもらうがいいよな」
「……すればいいだろう」
冷はサイクロプスを引き連れて山を降りてガッパオ村に向かうことにした。
[烈火拳]を覚えました。
[インフェルノ]を覚えました。




