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へスティの外見は言い終わると同時に変わり始めた。
まず手が足の様に変形ヒヅメが出来ると四つん這いになり顔は猛獣な顔に変わりだした。
まるで黒い巨大なライオンの様であった。
冷は見動きが取れない。
(変身するのは生まれて初めてみる。驚いてる場合ではないが)
生まれて初めて見る光景にド肝を抜かれたのだ。
強い武者とは戦っても姿をここまで変える相手は存在しなかった。
それももはや最初の姿の原型が無い程までに変形していた。
夢でも見てるかのようで、信じられない冷は呟いた。
(嘘だろ……ライオンてか)
へスティが変形した形は異様なライオンの魔物であった。
「俺様の真の姿がコレだ。普段は自分を抑える為に人の形をしてるが、真の姿は魔ライオン。もうこうなったら俺もどうなるかわからない。しばらくは暴れまわるしかない。キサマを殺した事も覚えてないかもな。全部キサマが悪いのだが」
「魔ライオンだと……。化け物だなこりゃ。だが俺も負けはしない」
「今のうちだ、その減らず口は!」
へスティは猛烈な勢いで突進してきた。
冷は反応するのがやっとで、横に避けたが服の半分を切り裂かれた。
爪は鋭くかすっただけでこのあり様で、冷は冷や汗をかかされた。
(見かけだけじゃない、速いぞ)
速度はダークタイガーの速度を遥かに超える速度で、冷だから反応出来た。
中級クラスの冒険者なら即死のレベルである。
冷は決めた。
半端は通用しないと。
この相手、へスティに遠慮はいらない。
(俺をここまで追い詰めるとは。相手として不足はない)
全力で勝負をのぞむしか勝ち目はないと直感した。
へスティは天高く頭を上げると遠吠えをした。
「オオオオ〜ン!!」
その後決意した顔に変わり突進した。
へスティもまた感じたのは次の手で勝負を決める必要があると。
次はない。
地面をかき上げるようにして突進してくるへスティに対して冷は、スキルで応戦。
(もう一発いくぞ)
「オメガラウンド!!」
まるで列車が突進してくる様に感じられた。
そこへいくつもの隕石を作り出し真っ向から炸裂させた。
轟音が天を引き裂くかのごとく鳴り響いた。
(……どう?)
炸裂したポイントは吹き飛び、森の森林が半径30メートル近く粉々になった。
砂塵が巻き起こり視界が悪くなる。
風が砂塵をさらうと視界が晴れていった。
(どうなった……)
炸裂した後には巨大なクレーターの穴が出来ていて、その中心にはライオンである魔物の哀れな姿が横たわっていた。
体は傷つき、見る影もない。
へスティはまだ息はあった。
「う、う、う、う…………。き、キサマの勝ちのようだ悔しいが。死ぬ前に教えてくれ、信じたくはない、信じたくはない、キサマは魔人オーク様を知ってるか?」
かすかな聞こえるか聞こえないかの小さな声で冷に言った。
「オーク? ああ、俺が殺した。ピルトの町で。始めに言っておくべきだったかな。そうすれば戦わなかったとか」
「や、や、や、や、やはりな〜〜〜。オーク様に勝てたのはわかった。だがサイクロプス様に何の用だ! 会いに行くのだろ、それならこの道を進んで行けば居られる。オレさま倒して敬意を表し忠告してやろう。キサマ程度なら瞬殺がいいところだろう。このまま下山しな。サイクロプス様の強さは異常だから。俺様などゴミ同然の扱いだろう。今のキサマは死にに行くようなものだ!」
「ご忠告ありがとう。サイクロプスが強いのはわかった。だが俺が上だ。俺は世界最強の武術マスター、冷だからな」
そこでへスティは気を失ってしまった。
(ふう〜危なえ相手だったな。サイクロプスは更に上のようだが……)
[ブレードソウル]を覚えました。
下級魔人へスティを倒してスキルを習得し、ダークタイガーからは猛獣の牙、へスティからはブレードソウルを習得した。
ヘスティは気を失っているのレベルアップはなかった。
殺すかどうか迷った。
(この場でヘスティを殺せるが生かしてやろう。使い道があるやもしれないし)
結局は生かしておくことにして、縄で縛る。
(縄縛りのスキルを使っておこう)
((見事じゃったぞ。私の血を引いてるだけはある))
(偉そうだな、まぁバアちゃんには感謝してるさ。産んでくれてな。あんまり実感ないけど)
((次こそ本番だろう))
(その時は頼むわ)
戦った後には森の木は数多くなぎ倒され、クレーターの様な穴は空いて自然破壊したかの風景が一変していた。
一方その頃アリエル達は魔族との戦いの最中であった。
魔族は女の子とみて余裕があった。
「へへ、この子らを確保して楽しいことしてやろうぜ」
「そうはいくか。このミーコがアイテムしてやろう!」
「おお!!! 可愛いらしい声だ。可愛がってあげるよ」
「ナメてます?」
ミーコが魔族の顔に聖剣ヴェルファイアを食らわした。
「ウウーーーーーーー痛い!!!」
「女の子だと思って甘くみるな!」
「お、お、女の子のクセに生意気だ。作戦変更だ!!!! 3人とも殺せーーーーーー!」
「私も殺せか。ならば相手してやろう!」
リリスも応戦する。
本気で来る魔族ははっきり言ってリリスにも強敵と言えた。
「リリス、この魔族はクエストの魔物よりも強そうよ」
「魔族だけあるわけか。だけど私も同じ魔族。負けてはいられない」
「そうよ、冷はもっと強い相手と戦ってるの。私達が足を引っ張るのは情けないわ」
アリエルも魔族の攻撃を交えながらも言った。
「アリエル、早いとこ風スキルでなぎ倒してくれ」
ミーコが聖剣ヴェルファイアで次々としかける。
「わかってる、任せておきなっ!」
「相手の方が数は多い。けど倒せないと思ったら負け。魔剣でも喰らえ!!」
リリスは魔剣で確実に剣を当てることに集中した。
「……こいつ。魔剣をつかいやがる……。それもこの魔剣は……グラム。キサマは魔族か????」
「そうよ。今頃気づいて! 魔族と言ってもお前らとは違う。淫魔の一族だ!!!」
「い、い、い、淫魔!! まさかあの一族がなぜ!!」
「教える必要ない!」
「嘘でしょ、教えて〜〜!」
「教えねぇ〜〜!」
「教えて!!!」
「死ね!!」
「ぐゎァーーーーーー!」
魔剣グラムが炸裂した。
魔族は最初は数でも優勢であって、有利であった。
しかし戦いは違う結果となり、魔族側は数が激減していた。
そこへアリエルがシルフィードを放つ。
「シルフィード!!!」
残りの魔族はダメージをかなり受けた。
ふらつく魔族はもはや聖剣ヴェルファイアと魔剣グラムの餌食となるには、もってこいとなった。
「やったぞミーコ、アリエル!」
「私達、勝ったのね!」
「そうよ! やればできるのよ!」
「冷の所に行きましょう。生きてるといいけど……」
「死んでるわけない。必ず生きてるわ」
「アレなら心配いらん。絶対に死なない。死んだら驚く」
アリエルらは心配して急いで冷の居場所へと向かった。
走って到着したら冷が立っていて無事なのを確認する。
「ま、ま、ま、またも魔人を倒したなんて」
「おお、君たち生きてたか!!!! かなり心配だったぜ。こいつは魔人だ。かなり手強かったが俺の敵じゃない。余裕って感じさ」
「さ、さ、さ、ささすが、サイクロプスを倒すとはお見事です!」
ミーコはてっきり今の魔人がサイクロプスだと思っていた。
それはアリエルとリリスも同様である。
誰でもサイクロプスだろうと思うのは無理もない。
「えっ……、違うけど。この魔人はサイクロプスの部下の魔人だった」
「ええつつつつつつ!!!」
「いやいや、俺はサイクロプスだなんて言ってないから!」
「普通はそう思うでしょ!」
「そんな勝手な」
「どうするのよ。このまま突き進むのか。引き返すのか?」
「決まってるだろ!」
「その言い方だと、突き進む気ね」
「うん。俺が引き返すなんて考えない。絶対にない」
「聞くのが無駄でした。行くならどうぞ」
「じゃあこのままサイクロプスを探しに行くのは続行だ。話だとこの先にいるかもらしい。コイツの話だからどこまで本当かはわからないが。それでも進むことに変わりはない」
(とりあえず先に進むしかない)
「ていうか、この魔人は誰かしら?」
「ああ、コイツは部下の下級魔人ヘスティ。今は俺のスキルをまともに喰らって気絶中。縄縛りしてあるから起きても見動きは出来ないさ。ここに置いて行くから帰りに拾う」
「お気のどくさま」
「さぁ行こう!」
「待てよ、これよりも強いのだろう。大丈夫か、勝てるか?」
「リリス、俺の実力は最強だ。今の戦いよりももっと凄い戦いになるかもしれないな。そうまでしても俺は温泉を取り戻してやろうと思ってる。最悪この山ごとぶっ壊してでもサイクロプスを認めさせるぜ」
「おい、それじゃ温泉が出なくなるぞ!」
「あ、そうか、それは困るな。山は壊さないように戦うよ、それなら大丈夫だろう」
(そこは俺も気付かなかった)
「言われて気づくって、ヤバイなお前」
「今度からは初めに忠告してくれ」
「偉そうに言うな」
森の山の半分を破壊した冷はそのまま突き進むか、引き返すかの選択を選べたが彼の中に引き返す選択はなかった。
あるのは、ひたすらやりたいようにやるだけと言うことだった。
(引き返すわけないよな)
自分のわがままを突き通すのを第一に考えた。
歩いて山の上を目指して行った。
斜面はなだらかであるが、女の子達にはキツイようであったため休憩を取ることにした。
「ちょっとここらで休憩としよう」
「そうね、かなり歩いたし」
その頃、山頂付近。
サイクロプスは下からけたたましい轟音が聞こえた為に住居から飛び出した。
その音はふもと付近からしたもので、異変があったのは直ぐに読み取れた。
「いったい何だ!」
その方向には村がある方向で先ほどへスティに向かわせたのと一緒なのが気がかりとなる。
へスティの魔力が急激に増大したと思ったら、減少していく。
へスティが問題を起こしたか。
そうとしか考えられない。
サイクロプスが自分で確かめに行くのも考えたが、信頼する側近であるへスティを信じることにし、住居に留まることにした。
サイクロプスは椅子に腰掛けてひと息ついた。
そこで脳裏をよぎったのがあの人族であった。
ピルトの町で偶然に出くわした人族。
へスティは気付かなかったがサイクロプスにはただならぬ気配と素質を感じた。
なぜあの人族が思い浮かんだのか不思議であり、どうしても落ち着かないときが過ぎた。
温泉はすこぶる好調に湧き上がっており、周辺地域への配給は順調であった。
へスティを向かわせたのは、その町の長に源泉の徴収料金を上げると伝えさせるためだ。
つまりは同じ温泉量で入る金額が増えることを意味した。
今以上にであるから、王都も動くかもしれないが、そしたら王都軍ともまた戦う用意はあった。
むしろ王都軍側が恐れて近づかないくらいだ。
他の中級魔人の仲間はサイクロプスの様な目立つ行動はしない。
金を集めるなんてのは一番最後目立つ行為でもある。
仲間からは注意を受けたが無視した。
それは強力なスキルがあるからで、王都軍10万人を地獄に落としたのもそのスキルである。
インフェルノを使い魔人として恐れられら存在となったサイクロプスは、いずれは全人族を支配的することを考えていた。
そして現在は上級魔人の手下という扱いであるが、いつかは上級魔人にまで成長したいという支配欲にみちてもいた。
戦いは面倒だが恐怖で人族を支配する計画であった。
サイクロプスはその計画を仲間の魔人、ガーゴイルに相談した。
たちどころに怒ってしまった。
ガーゴイルは上級魔人たちの恐ろしさを知っていたからで、もし上級魔人たちの機嫌を損ねれば死を招くのは必死であろう。
そのためサイクロプスを抑えるために監視していた。
サイクロプスは普段はおとなしい魔人の性格だが、心の奥底では何を考えてるのかわからないのだった。
魔人でさえ不気味と感じる性格であり、強さも持つそれがサイクロプスであった。




