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 料理には満足できて良かったと思った。

 やはり外食にはない満足感があるのがわかって、高額な資金を払ってまでリフォームしたかいはある。

 こんなに嬉しい時間は人生でも初ではなかろうか。

 冷だけでなくみんなも食べてみて美味しいと言い合っていた。

 平和な時間が過ぎていたが、冷はあることを考えていたのだ。

 それは買い物に行った際に食料品とは別に購入しておいた縄。

 しかしこの縄は今度に取っておくことにして、また別の楽しみがあり、その楽しみは実は日本とも関係していた。

 日本の文化と密接な関係な物で多くの日本人が好きなものである。

 いくつかあるだろうが、その1つに温泉があるのを忘れてはいけない。

 温泉は冷にとっても好きなもの。

 冒険者ギルドから歩いている最中から疑問にぶち当たった。

 未だに、この地に来てから一度も温泉に入っていないのだった。

 毎日大量のトレーニングをし汗をかいていた後には、必ず温泉に入っていたのだ。

 温泉は毎日の日課でご飯を食べるのと同じであった。

 つまり冷にとっては数日間ご飯を食べてないのと同じとなる。

 苦痛ともいえた。

 

(う〜ん、もう限界だ、温泉に入りたい〜〜〜よ)


 そこでミーコに、きいてみることにした。

 アリエルとリリスはここの元々住人ではないし、ミーコが詳しいはずである。


「なぁここでは温泉はあるのかな。みんな入らないけど。俺は温泉が大好きで大好きでさ。この世界に来る前には毎日入ってたんだ。どうしても入りたいのだ。入る方法はあるかな」


「温泉に入る習慣はありますよ。私も好きですし入りたいなぁ。冷氏も好きなのでしたか。てっきり嫌いなんだとばかり思ってました。温泉嫌いな人はいますから、あえてききませんでした」


「それなら宿屋にいってみよう。入れるかもしれないぞ。設備だってあるだろうこれだけの大きな宿屋ならさ」


 温泉は存在すると聞き安心した。


(あるなら早く言って欲しかったぞ)


「それは無理なの。たとえ冷氏が入りたいと言われても難しいでしょう。温泉は入れません。入りたいけど入れないって言ったらいいかしら。いや無理矢理強引にスキルを使って水を温めるようなことをすれば入れなくもない。でも町の多くの人は入れません」


 ミーコは悲しそうであり複雑な表情をして言った。


「なぜなんだ。その言い方だと理由がありそうだな。確かに水を温めるスキルがあれば入れなくもないな。でも話はもっと複雑そうだな。俺達だけが入ればいいというわけじゃないのだろう」


「温泉はこの町でもみんな好きですし入っていた以前は。それがアレが来てからは温泉の源泉を牛耳られてしまい熱いお湯がこなくなったの」


「ということは、温泉の源泉がどこかにあり、源泉から引っ張ってお湯を配ってると。簡単な話だろう。源泉を止めてる奴を退かせばいいのだろう」


 冷には簡単な話に思えた。

 今すぐにでも行って文句の1つでも言ってやろうとした。


(とんでもない奴だ。許せんな)


「いいえ、退かせません。たとえ冷氏であろうと無理。源泉には魔人が居るからです。だからみんな温泉はあきらめている状態が長いこと続いてる。でも誰も不満は言わないの。相手が魔人だから」


 冷に向けた視線は厳しい目であり、あきらめの目であった。

 

「おいおい待ってくれ。なぜ俺には無理と決めつけるんだ。すでに中級魔人のオークを倒してる実績があるんたぜ。それを忘れられたら困るな。その魔人とやらに俺が直接言ってやるよ。勝手なまねして迷惑なんだとな」


 大好きな温泉を邪魔されてムカついてきていた。

 ひと言いわないと気が済まないのだ。

 誰だって文句を言いたくなるだろう。

 自分が好きなものを勝手な理由で拒まれたら。

 それと同じだと思えばいい。


「いつもは冷氏の凄さ、規格外さには驚くしかありませんが、今回は譲れません。相手はオークと同じく中級魔人でもあるサイクロプスです。サイクロプスはご存知でしたか?」


「いいや知らん。初耳だな。でもさオークと同じく中級魔人なら絶対に倒せない相手じゃないだろう。もちろんオークとの戦いは苦戦した。危なく殺されかかったのも否定しない。けど俺はあれから猛烈に強くなった。大幅にパワーアップしたわけだ。それに魔法スキルも使えるんだ。サイクロプスとか言うのも強いかも知れないが倒せる自信がある」


 事実、今の冷ならオークは確実に倒せるまで成長していて、言ってることは正論だったが。


「……残念ながら無理……かな。サイクロプスは本当の化け物なの。私も聞いた話だけど10万人の騎士団をひとりで壊滅させたと聞きました。そして温泉の源泉を独占しており、お湯が欲しけば金品を要求してきたのです。源泉は大きくて古くからいくつもの周辺の町に流れて来ていた。現在ピルトの町ではサイクロプスとの交渉で多額の要求が払えずに源泉は止められているわけです。他の町は要求に応じた為、現在も温泉が流れて来ている。しかしその負担は大きくて増税してまかなったため、人々の生活は凄まじく貧乏に変わり果てたとか。またサイクロプスに逆らった町もありまして町長は首をはねられて殺され、ギルド会員に登録した冒険者5000人は全員熱せられ溶かされたそう。サイクロプスが触れただけで溶けたと記録が残ってます」


「10万人!!」


 それまでは冷を信じていたアリエル、リリス、ネイルも驚いたようで、さすがに10万人となると人間技ではないし、どうやって倒したか知りたくもないのだ。

 

「そいつは魔人ていう名にふさわしい奴だな。だけどこれだけは言っておく。俺は温泉が好きだ。町のみんなが温泉に入れないで我慢してるのは許せん。サイクロプスに俺から言ってやろう」


「無謀です、いくら強くてもサイクロプスは化け物です。魔族のエリート中のエリート。今まではピルトの町は見逃されてきたのですが、オークの件もありどうやら取り立てに来るのではと噂が立ってます。冷氏を差し出せと言ってくる可能性もある。それなら隠れても無駄ですから、遠い町に引っ越ししましょう」


 ミーコは冷の身の安全を優先して引っ越しを提案したのは、勝てる相手ではないとわかっていたからで、1%も望みはないと思ったら放ってはおけない。

 

「俺が隠れたら町の人々は殺されるだろうな。責任を取らされて。だから隠れるわけにはいかない。正面から乗り込むつもりだ」


 ミーコから恐ろしい理由を聞かされても冷はビビることなくサイクロプスに会うことを選んで、納得してと言ったから、もうミーコとしては呆れるばかりで言葉も見つからない。


「わかりました、そこまでの覚悟があるのなら引き止めしません。私も協力します」


「ただ冷だけの問題じゃなくなると思うことよ。ピルトの町全体に関わる問題にまで発展するのだから、一度冒険者ギルドに行って伝えるのが先決だことよ」


 ミーコが頷くとアリエルが提案したのはとても重要なことで勝手に行動して迷惑を被るのは町の人々となるからだった。

 そこには冷は賛同して頷くのだった。


「わかった冒険者ギルドに寄ろう」


 冷がやっとのこと頷くので、ミーコはホッとしたいところだが肝心の冒険者ギルドが何というのかは分からないのが今の心境であり、ギルド店員のユズハが認めるかどうかは別の問題であった。

 ここはもう冷を止められないのがミーコの印象なので、ユズハには賛同してもらうしかないと思う一方、ユズハの性格は極めて真面目な性格をしているから、素直に冷を送り出すかは微妙なところ。

 

「お前の身勝手さにはあきれるが、もう今日は遅いだろ。明日にしたらどうだ」


「そうだな、確かに日は暮れてるしな。明日が妥当か。残念ながら」


「どんだけ温泉好きだお前は」


「好きなものは好きだ!」


 例えリリスに馬鹿にされても好きなものは好きだと胸を張って言えるし、誇りに思えるのが冷らしいとなって、この日寝ることになった。

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