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【後日談】 人間に恋した竜

後日談というか、補足というか、蛇足というか。

 人界殲滅のおどしをまえになすすべなく屈服してから、数日経ちました。

 あれからトントン拍子に話がすすみ、今では私、ハシュルスルビスクルス様の正式な婚約者としてめでたく認定されてしまいました。

 誰かうそだと言ってください、おねがいですから!


 …なんて訴えたところでどうにかなるはずもなく、ついさきほど近日中に挙式をあげることが決定したのです。

 ひー、確実に土俵ぎわに追いつめられてますよね、これ!







 ――とまあ、そんなこんなでとうとう明日が結婚式です。

 自暴自棄の一歩手前です、はい。


「真っ白なウエディングドレスに身をつつんだリセ……きっとかわいいだろうな」


 例のごとく私を膝抱っこしたハシュルスルビスクルス様が、どこかとおくに視線をとばしながら、うっとりとつぶやいています。

 じゃっかん鼻のしたが伸びているような気もしますが、やはり美形はどんな表情をしていても美形です。


 ――想像している内容はとてつもなくいただけませんが。


「そうだ、子どもはどれくらい欲しい? ぼくはできるだけたくさん欲しいな。にぎやかで愉しそうだから。

 …確かリセ、五人兄弟だって言ってたよね。やっぱり兄弟が多いほうがいいでしょう?」


 おいおいおい、いきなり飛躍しすぎじゃありませんか。

 てか、そんなこと考えてたんですか、あんた。すこしばかり失望しましたよ。


 ああ、純粋でヌイグルミのようにかわいらしかった子竜から一転、成人してむちゃくちゃ見目うるわしい人型の青年になってからというもの、すっかり欲にまみれた一匹の雄になってしまわれて……。

 こんなおかたにお育てしたおぼえはないのですが、かなしいかぎりです。


 ほおを引きつらせていると、紅茶を用意していた有翼の御仁がしずかに口を開きました。


「ずいぶんとお気の早い」


 整ったおもてはいつものとおり無表情ですが、微妙な声のトーンの変化で少しばかりあきれ気味であることがわかります。

 ええ、そうですよね、まったく。


「…そういえばアウゼス、おまえ、これまでにしょっちゅうリセにちょっかいを出していたようだな。ぼくの気持ちを知りながらやっていたとしたら不愉快だ。――いいや、知らなかったとしても許せない」

「これは異なことを。わたしはただ、この国に不慣れなリセ・リアルデが、少しでもこちらの環境に馴染む手助けになればと思い行動していたまで」


 不機嫌丸出しでするどくにらむハシュルスルビスクルス様ですが、御仁はみごとな能面顔であるじの怒りをさらりと受け流します。

 どこか余裕すら感じられてかっこいいです。これが成竜の貫禄ってやつでしょうか。


 感心まじりに見つめていると、ふと眼が合いました。


 …んん?


 御仁の青い眼はこちらを直視したまま、なかなかはずれません。

 それに何だか、眼の色がマジになってきているような……あれぇ? 


「――ただし、太子様のそのお言葉、あながち的をはずしてはおりませぬ。お察しのとおり、ウロコをさし出してもよいほどには好いておりましたゆえ」


 え。

 …そ、それって…。

 ……え、えええぇッ!?


 驚愕に眼を白黒させていると、ハシュルスルビスクルス様がいきなりギュッと抱きしめてきました。

 力任せに腕の中に囲われたかと思うと、御仁にギラギラした眼を向け、威嚇するようにひくくうなります。

 ひょお、怖ッ!


「おまえにリセはわたさない」

「承知しております。わたしとしても、太子様とあらそうつもりは毛頭ございませんので」


 冗談です、と抑揚なく答える御仁ですが、眼が笑ってませんよ。

 いや、もともと笑わないかたですが、それでも冗談には聞こえません。

 心臓に悪いのでやめてください。


「どうぞ」


 ムスッとしているハシュルスルビスクルス様のテーブルのまえにふたり分の紅茶を置いたあと、御仁はふかい青色の眼をわずかにほそめ、唇にゆるく弧をえがきました。


 …何だか、むしょうにいやな予感がするんですが。


「ここで身を引く代わりに、もしも姫君がお生まれになりましたらわが妻にいただきたい」

「!?」

「冗談じゃない! おまえにだけは絶対にやらないからな!」


 居もしない想像上の娘をめぐっての攻防は、それからしばらくつづきました。





 ――あぁ、本当に、このさき一体どうなってしまうんでしょうか?

 誰かたすけてください。


これにて完結です。

最後までおつき合いありがとうございました。

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