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48.マスコミ

 遅めのお昼はいつものテキトーお好み焼き。みんなでホットプレートを囲んで、焼きながら食べる。


「響~!なんかお前のスマホがうるさい」

「うん…ごめん…」


さっき、父さんが帰って暫くすると、母さんからの鬼電が始まった。母さんはたぶん、今日家に帰らせて、明日は学校の用意をさせるつもりだったんだろう…。


 あまりにうるさいので、俺は電源をそっと落とした。


「響~、お前も苦労人だな…」

「なんかソウマくんに言われると複雑だけど、そうかもね…」

「じゃあ響にはこれやるよ!」


ソウマがくれたのは、塩分チャージドリンクだった。500mlのペットボトルは、よく冷やされていて体に染み渡る美味しさ…!


「美味しい!」

「だろ…!」


階段から落とした時はもう飲めないかと思ったけど、ペットボトルは落としたとは分からないくらい、無傷だったらしい。


「……これ、他のやつもみんな無事だったよね?」

「ああ、結構派手に落ちたやつも!」


……ペットボトルって丈夫なんだ。あの日、 ソウマは階段の一番上から落とした。あれって、何メートルくらいだったんだろう…?

 

 あの日…。憲司のスタジオでレコーディングした日。俺の近くにペットボトルが大きな音を立てて落ちた時、ペットボトルが壊れていなかったから『上から落とされたんじゃない』って判断して、犯人を探さなかった。けど…。


 何だか急に背中がぞく、とした。あれって…もしかして…?


 あの時、周囲に人はいなかった。俺がいた道路はスタジオの三階の窓のちょうど真下で…。

 やっぱりあれは、聞き間違いじゃない。上から落とされた音だったんじゃないか?

 

 そう思いながら、食べた食器を洗っていると玄関のインターフォンが鳴った。


 画面を見ると、全く知らない人だった。


「またお隣さん?」

「違う、誰だろ…」


マコトは訝しがりながらも、通話ボタンを押した。


「週刊フォーカス24の者です。今よろしいですか?」

「はい…?!」


週刊フォーカス24って、あの…?芸能人のゴシップをスクープして断罪するみたいな記事を書く週刊誌だけど…。なぜ、ここに?!


「何で、週刊誌が?俺たちドマイナー地下アイドルだけど…」

「ついにババアの悪業がバレた、とか?!」

「いや…、俺たちもよく分かんないことを知らない思うけど、何だろ…?」


居留守を使うのも変なので、マコトは玄関を開けた。記者は二人だった。一人はカメラを持っていて、いきなり写真を撮られる。


「ちょ…、何?!」

「最近、うちの会社にも結構情報が来てまして。『YBI』って言う、過激なアイドルがいて、消費生活センターに目をつけられてるとか。特に『バッド課金で何百万』荒稼ぎしてるんでしょ?」

「何百万…?」


 なんで、そんな話になっているんだろう…。バッド課金で稼いではいるが、一人当たりは購入上限を設定しているから、消費者センターに指導なんてされた事もない。


「デート営業したり、メンバー間のイジメも陰湿だって聞いたよ。SNSでも『メンバーを蹴落とすために嘘の情報を流した』とかなんとか」


 シオンの部屋に生理用品しかけたってやつ?あれは完全に誤解なのに…!


「誰に聞いたんですか?」


 マコトは頭に一人の人物が浮かんだのか、強い口調で記者に尋ねた。顔もちょっと険しくなっている…!


「情報元は明かせないけど…。そういう逆ギレで躱そう、ってこと…?」

「違います。全く身に覚えがないことを言われたので、単純に誰が言ってるのか気になって。バッド課金は上限を設定しているし、投げ銭とも違って特典も付けてます。それに、消費生活センターから連絡が来たことなんてないです」


マコトは最後まで毅然とした対応をした。記者に通じたのか通じていないのかは分からないが、一旦記者は帰って行った。


「おおい…、なんだよ今の?!」

「…マスコミに情報流したやつ。どーせ、ババアだろ。俺たちがめちゃくちゃやって解散、ってことにしたいのかもな。『シオンはグループ内で虐められてたけど負けずにソロデビュー』みたいなシナリオでさ…」

「はあー?!ありえねぇな、あのババア!」

「でもまあ、完全にやられちゃったってこと…」


マコトはため息を吐いた。しかしまた、インターフォンが鳴る。


 嫌な、予感しかしない……。マコトは眉を寄せて、室内モニターの通話ボタンを押した。


「中央ネットワークテレビの者です。よろしいですか?」

「テレビ?!」

「俺テレビ出るの初めて…!どうしよう?!」

「どうしよう、って…。喜ぶような内容じゃねーだろ…」


マコトは仕方なく玄関で取材に対応した。内容は先ほどの週刊誌とほぼ同じ内容だ。


 取材に真面目に答えていると、廊下の方から騒がしい声が聞こえて来た。


「やって来ました!ここが話題のメンズ地下アイドル、YBIの事務所です!んー?思ったよりボロいですね…。あっあれが、実は陰険って噂のマコトくんだー!こんにちは~!」


真っ赤な髪で、おかしなテンションの男がやって来た。テレビ局の記者も面食らっている。何なんだ、こいつ…。


「どーも、人気YouTuberのよっちゃんです!今日はYBIマコトくんに凸でーす!マコトくん、実物イケメンだあー!かっこよ!」


 人気YouTuberのよっちゃんなんて全然知らないけど…。カナタは知っていたようで、少し顔が赤くなっている。


「よっちゃんて、迷惑系のやつだよ!記者会見に凸したりとか。でも結構おもしろいんだよなー!」


有名人らしいし、ビデオも回されていて『帰れ』なんて言えそうにない。


「SNSで話題になってるよね。ファンの子課金させ過ぎて捕まりそうとか…。今もテレビが取材に来てるってことは、あながち嘘じゃないの?」

「逮捕なんて有り得ません…」

「そうなんだ…。マコトくんかっこいーから俺も捕まってほしくないけど♡でも結構、SNSにデート営業とかメンバーいじめの証拠とか出ちゃってるよ?」

「絶対ないです!そんなこと…!」


我慢できずに、俺は後ろから叫んでしまった。すぐに、よっちゃんにマイクを向けられる。


「絶対ってどう証明するの?」

「そ、それを今、考えてるところで…」

「弱っ!」

「弱?!」

「現場からは以上でーす!またネタがありそうだったら凸します!」


よっちゃんはマイクを下ろした。もう『お前らなんか聞くことない』みたいな態度だ。テレビの記者も、逆によっちゃんを撮り始めてしまった。


 みんな、YBIの歌とか、どんなグループか、とかそんなのはどうでもいいらしい。それは少しどころじゃなく、かなり悔しかった。


「でもさ、アイツらに証明しなくたっていいよな?別にさ…」


マコトはよっちゃんや記者たちの後姿に呟いた。悔しくて眉間に皺が寄っている俺を見て、ニヤリと笑う。


「アイツらを利用して、ババアをやっつけられればそれでいいんだよ…!」

「利用するって、どうやって…?」

「記者会見する…」


 謝罪動画でもなく、記者会見……?!

 記者会見なんて、考えた事もなかった。たぶん過去一、間抜けな顔を俺はしていたと思う。マコトは俺を見て楽しそうに笑った。

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