第42話 インドネシアの火山で金儲け その1 2019.1
ニューヨーク拠点の研究室には、朝の陽光が差し込んでいた。テーブルの上には色とりどりの固形金属がずらりと並び、その前でギルスが白衣の袖をまくりながら語っていた。
「リリィさん、これを見て下さい」
並べられた物体は、まるで宝石のような輝きを放つ金属片だった。赤銅色、白銀、鈍い黒、自然界ではなかなか見られない純度と色合いだった。
「これは何? 金属みたいだけど?」
リリィが目を細めながら手に取る。
「溶岩から作り出した鉱物です。主に取れるのは二酸化ケイ素ですが、金属成分も多く含まれています」
ギルスはそう言いながら、一つの白いサンプルを手に取った。
「これが精製した二酸化ケイ素。見てください、この光沢。建築用のレンガに加工できます」
リリィがうっとりと見つめた。
「綺麗なレンガね。光沢もあって、まるでセラミックみたい」
「純粋な二酸化ケイ素です。添加物を加えれば、耐熱レンガや断熱材にもなります」
コモンが横から覗き込む。
「これ、売れるかもしれないな。火山のダンジョンから無限に溶岩を採れるから、コストもかからないし」
ギルスが頷く。
「しかも、通常の採掘では鉱石を熱して溶かす工程が必要ですが、これは最初から溶けた状態で採れる。つまり、精製コストが劇的に削減できます」
リリィが椅子を立ち上がる。
「面白いわね。菱紅商社の三田部長に相談してみましょう」
・・・・・・・・・
◆日本・菱紅商社本社ビル 会議室
ガラス越しに見える東京の高層ビル群を背に、三田部長はにこやかにリリィを迎え入れた。
「リリィさん、大歓迎ですよ。電話では『溶岩を使った新素材』と伺っていましたが」
リリィが微笑む。
「今日はギルスが説明を担当します」
ギルスは鞄からサンプルを取り出し、テーブルに並べた。
「これが、溶岩から生成された鉱物です」
三田部長はひとつずつ手に取りながら目を見開いた。
「これは、アルミニウム、鉄、チタン、そしてこれは二酸化ケイ素ですね」
コモンが説明を引き継ぐ。
「通常の精錬工程を経ずに、直接溶岩から錬成できます。高温状態ですでに液体になっているため、エネルギーコストがほぼゼロです」
三田部長は目を輝かせた。
「これは、革命的な技術ですよ。リリィさん、すべて買い取らせていただきます!」
「ありがとうございます。でも、話はそれだけではないの」
ジャックが鞄から大きな設計図を広げる。
「溶岩から得られる素材を生産する、専用の工場群を作りたいと考えています」
三田部長が眉を上げる。
「この工場群を全て、自前で作ると?」
リリィが首を振った。
「資金は出しますが、工場建設は複数の会社に分担してお願いしようと思っています」
「なるほど。それなら、建設場所の選定も重要になりますね。場所は?」
リリィは即答した。
「インドネシアに一つ作りたいわ。『アナク・クラカタウ火山』の近くよ」
三田部長が深く頷く。
「SNSでも話題になっていましたね。なるほど、今、あの国の大統領と懇意にしておられるなら、現地との調整もスムーズでしょう」
「ええ。そこも計算済みです」
「分かりました。関連企業に声をかけます。このサンプルは預からせていただいても?」
「ええ、よろしくお願いします」
商談は、静かだが確かな手応えを持って終了した。リリィたちはインドネシアでの新たな挑戦に向けて、また一歩を踏み出したのだった。
・・・・・・・
◆深海に眠る黒き鉱石 2019.1
菱紅商社・東京本社ビル、最上階の会議室。その窓の向こうには東京湾の穏やかな水面が広がっていた。
テーブルに並ぶ溶岩由来のサンプルに一息ついた三田部長は、そっと胸ポケットから一枚の写真を取り出すと、リリィたちの前へと差し出した。
「リリィさん、こちらからも提案があります。」
リリィは写真を手に取って、興味深そうに見つめる。
「これは、海底?」
そこに写っていたのは、海底にびっしりと広がる黒い球状の塊。
三田部長は頷き、説明を始めた。
「マンガン団塊です。深海底の堆積層で形成される鉱物で、コバルト、ニッケル、リチウムといったレアメタルが豊富に含まれているんです。」
ギルスが身を乗り出す。
「それって、電気自動車や蓄電池の素材として需要が急増しているあれですね。」
「はい。再生可能エネルギー産業には不可欠な素材です。しかし、問題は場所です。大抵は水深4000~6000メートルの深海底。通常の技術では、採掘コストが見合いません」
リリィが静かに笑う。
「でも、私たちには転移魔法とゴーレムがあるわ。問題ないわね」
ガルドが笑って腕を組んだ。
「海底にゴーレムを送り込んで、回収して転移させればいい。空気も酸素もいらねえ」
三田部長の目が一層輝いた。
「さすがです! もし、溶岩資源とマンガン団塊の両方を採掘できれば、世界最強の素材産業地帯が誕生しますよ!」
リリィは興味津々で尋ねた。
「このマンガン団塊は、どこに分布しているの?」
三田部長は即座に回答する。
「有名なのは、クラリオン・クリッパートン断裂帯。ハワイの南東からメキシコ沖まで広がる巨大な海底断裂地帯です。水深4000~5500メートル、長さ約7000キロメートル。ほかにはインド洋中央海盆、日本近海も有望です」
リリィは考え込むように腕を組み、やがて軽やかに言った。
「まずは、日本近海の団塊を回収してみるわ。採れたらすぐに連絡するから、採掘権の手配をお願いね」
三田部長は回答する。
「承知しました。資源部門が本格的に動き出すというわけですね」
リリィは一瞬目を丸くした。
「資源部門?」
三田部長は微笑んで言った。
「ええ。今までは、金塊取引が中心でしたから。今後は資源開発が主軸になるかと」
「そういえば、」 リリィがマジックバッグを持ち上げた。
「最近、金塊を取り出してなかったわね」
そう言うや否や、バッグから「ゴン!ゴン!ゴン!」と金塊が連続して飛び出した。机がどよめき、会議室が金色に染まる。
三田部長の目がさらに見開かれる。
「こ、これは、」
「たぶん100個くらい。勇者ギルド星の拠点から持ってきた分よ」
「100個! ありがとうございます!」
満面の笑みで頭を下げる三田部長に、リリィはひとつ頷いた。
「じゃあ、日本のマンガン団塊が採れたら、また連絡するわ」
そう言って、リリィ、ギルス、コモンは転移魔法陣に乗り、光の粒子となって消えた。
だが、次の瞬間、
「私は残ります。交渉をもう少し詰めておきたいので」
いつの間にか、コモンの分身体がテーブルの脇に座っていた。
三田部長は目を瞬かせた。
「え? さっき、戻ったのでは、」
「気のせいですよ」 コモン(分身体)は涼しい顔で答えた。
こうして、溶岩からの資源採取と深海資源開発という、二つの壮大な事業が静かに幕を開けたのだった。




