第43話 インドネシアの火山で金儲け その2 2019.1
◆溶岩資源工場の交渉
ジャカルタの官邸は、夜でも明るい照明に包まれていた。エキゾチックな彫刻が飾られた会議室の中央に、リリィたちは着席していた。
部屋の奥、インドネシアのジャヤ大統領が威厳ある面持ちでリリィを見つめ、その隣ではスジャナ内閣官房長が緊張を隠さず控えていた。
スジャナが口火を切った。
「さて、リリィさん。今日はどんな話を持ってきてくれたのですか?」
リリィはにこやかに微笑むと、鞄からホログラム装置を取り出してテーブルの上に置いた。
「今回は、インドネシアにとって新しい産業を提案しに参りました。御国の火山、それ自体を富に変える計画です」
ジャヤ大統領の眉がわずかに動いた。
「新しい産業、とは?」
その合図でギルスが前へ出て、手元の箱から複数のサンプルを机に並べた。金属光を放つ塊、滑らかに磨かれたレンガ、そして光沢のある黒い鉱石。
「これらは、アナク・クラカタウ火山の溶岩から生成した鉱物と建材です」
ジャヤは興味深そうに一つの金属片を手に取る。
「これは、まるで鉄のようだな。本当に、火山から得られるのか?」
「はい」ギルスが即答する。「溶岩には二酸化ケイ素、鉄、アルミニウム、そして微量のレアメタルが含まれています。我々の錬成魔法を使えば、それらを分離・精製できるのです」
リリィが立ち上がって続ける。
「そして、そのための工場群を、インドネシアに建設したいと考えています」
スジャナが身を乗り出す。
「工場群の具体的な規模と構成を教えていただけますか?」
◆工場群の全容
ジャックがホログラムを操作し、大型の立体設計図を浮かび上がらせた。火山の周囲に円を描くように、いくつもの施設が配置されている。
「我々が提案するのは、以下の機能を持つ複合工業ゾーンです」
・溶岩採取・精錬施設:高温溶岩から鉱物を安全に抽出
・建築資材生産ライン:高強度耐熱レンガ、ガラス、断熱材の製造
・金属精錬プラント:鉄、アルミニウム、チタン、レアメタルの抽出と精製
・地熱発電所:施設の電力を自給、余剰は近隣へ供給
・環境保護ユニット:火山活動の制御と二酸化炭素の排出抑制装置
リリィが真剣な口調で続けた。
「このプロジェクトのメリットは4つあります」
① 雇用の創出:地元の労働者や技術者を多数雇用し、地域経済を活性化
② 建築・インフラの革新:耐火・耐震性に優れた資材の供給でインドネシアの建築基準を刷新
③ エネルギーの自給と分配:地熱によって工場群を自給型にし、余剰電力を周辺地域に供給
④ 環境への配慮:火山の噴火制御により、自然災害リスクを低減しつつ持続可能な開発を可能にする
◆インドネシア政府の反応
ジャヤ大統領とスジャナ内閣官房は、長く資料に目を通していた。やがて、大統領が静かに問いかける。
「この技術の安全性について聞きたい。火山の力を使う以上、暴走の危険は?」
ギルスが自信を持って答える。
「既にアナク・クラカタウ火山での噴火抑制実験を成功させています。ダンジョンコアの封印結界を使い、エネルギー放出を段階的に制御する技術を確立済みです」
コモンも資料を広げながら補足した。
「火山周辺住民への安全対策として、溶岩の流れを予測し、結界魔法で誘導するシステムも導入します」
スジャナが目を細めながら言った。
「なるほど、魔法技術を活用するとはいえ、よく考えられている。これならば、国民の安全も確保できそうだ」
ジャヤ大統領はゆっくりと立ち上がった。
「この話は、我が国にとって非常に価値ある提案だ。リリィさん、あなた方の協力を心より歓迎する。工場の第一期建設を許可しよう」
リリィは深く一礼し、力強く応えた。
「ありがとうございます、大統領閣下。このプロジェクトが、インドネシアの新たな繁栄をもたらすと信じています」
・・・・・・・
◆火山の国で交わされた約束
場所はインドネシア、ジャカルタの大統領官邸。豪奢だがどこか素朴な装飾が施された会議室に、リリィたちとインドネシア政府の高官たちが集まっていた。テーブルの上には、火山由来の新素材のサンプルが整然と並び、窓の外からは柔らかな南国の光が差し込んでいた。
リリィが静かに口を開いた。
「本日お時間をいただき、ありがとうございます。私たちは、御国に溶岩由来の新素材工場群を建設する構想を持っております」
ジャヤ大統領は深く頷き、慎重な表情で言葉を返した。
「では、問題は投資と土地の確保だな。このプロジェクトには、どれほどの資金が必要なのか?」
リリィは一度視線をジャックと交わし、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「資金については、私たちが開発した核融合発電技術により得られた収益を、今回のプロジェクトに投資します。したがって、インドネシア政府に大きな財政的負担が生じることはありません」
ジャックが続けて、プロジェクターに設計図を表示した。
「ただし、土地の提供や、インフラ整備、環境規制の緩和など、法的な調整については、御政府の協力が不可欠です」
数秒の沈黙の後、ジャヤ大統領は手を組んで笑みを浮かべた。
「なるほど、リリィさん、これは非常に魅力的な提案です。環境負荷を抑えた資源活用に加え、インドネシアに新たな産業基盤をもたらす。我々としても、もし実現すれば未来にとって大きな一歩となるでしょう」
隣にいたスジャナ内閣官房長官が、すかさず提案を出した。
「では、具体的な土地の選定や法的手続きを迅速に進めるため、政府側に専門チームを設置し、リリィさんたちのチームと常時連携する体制を整えましょう」
リリィはすぐに立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いいたします。私たちも最大限協力いたします」
◆住民説明会の準備へ
こうして、『溶岩資源工場群プロジェクト』は、インドネシア政府と冒険者ギルド株式会社の正式な共同事業として動き出すことが決まった。
その日の午後、リリィたちはジャカルタ郊外の臨時オフィスに戻り、早速次のステップに取りかかった。
「まずは、住民説明会の準備が必要だな」 ジャックがモニターに候補地の地図を映しながら言った。
「工場群の建設地は、スンダ海峡に近い山岳地帯が最適だと思います。地盤も安定していますし、近くに火山もある」
「うん、それに、この辺りなら転移魔法でアクセスも容易だニャ」 マーガレットが尻尾を振りながら地図を眺めている。
「ただし、住民の生活圏に干渉しないようにしないとな。説明会では安全性と利益をきちんと伝えた方がいい」 コモンが端末を開き、住民構成と地元の反応を分析しながら提案する。
「私が現地の村長さんたちに事前に挨拶に行ってくるわ」 リリィが立ち上がり、行動を決める。
その声には揺るぎない信頼と覚悟があった。




