第131話 宇宙エレベーター建設 その1 2021.2
宇宙エレベーター建設計画 - 建設地の選定と政治的交渉
発見された巨大隕石群を迎撃するためのには、宇宙空間に物資を運び、迎撃用の高出力レーザ-光線の衛星や核搭載のロケットを多く建設する必要がある。そのため、宇宙エレベーターの建設が急務となった。
菱紅商社・三田部長との会談
都内の高層ビルにある菱紅商社の本社。リリィ、ジャック、ギルス、ガルド、マーガレット、マモルは三田部長のオフィスを訪れ、宇宙エレベーターの必要性について説明した。
「巨大隕石が12個来る。ニュースになっていましたね。」と三田部長は腕を組む。
リリィは冷静に語る。
「ATLASでその姿は確認されているの。迎撃体制を構築しないと、人類が存亡の危機に瀕します。」
三田部長は少し考えた後、静かにうなずいた。
「分かりました。菱紅商社としても全面支援しましょう。資材、物流、すべて調整します。」
マモルが安堵の息をつき、「さすが三田部長!」と軽く笑う。
「宇宙エレベーターの建設には時間がかかる。すでに計画があるなら、そこと連携するのが最適よ。」リリィは、丸林組の宇宙エレベーター構想を説明した。
「丸林組はすでに研究を進めており、地球軌道上に建造物を作る計画もある。ここに私たちの技術を組み合わせれば、実現は可能です。」
「よし、それなら丸林組の専務と直接会談を取り付けましょう。」
丸林組・専務との交渉
数日後、リリィたちは丸林組の本社を訪れる。
応接室には、50代半ばの精悍な顔立ちの男、丸林組の専務・丸林英次が待っていた。
「宇宙エレベーター計画に関心を持っていただき、ありがとうございます。」
リリィが巨大隕石の危機の詳細を伝えると、丸林専務の表情が引き締まる。
「なるほど、しかし、我々の計画だけでは迎撃体制の確立には無理があります。」
ジャックが前に出る。
「我々は、核融合炉の高出力レーザーの技術を持っています。巨大隕石を破壊することが可能です。」
丸林専務はしばらく考えた後、ゆっくりと頷く。
「我々も宇宙エレベーターの構想を進めていましたが、資金や工期の問題が大きかった。だが、あなた方がそれを解決できると?」
ジャックが前に出る。
「ええ。我々には転移魔法がある。この技術を使えば、資材の輸送や作業効率が飛躍的に向上し、通常10年以上かかる計画を2年で完成させることができます。」
丸林専務が興味深そうに目を細める。
「さらに、資金の問題もありません。冒険者ギルド株式会社が全額負担します。」コモンが腕を組みながら言う。
会議室内に驚きの静寂が訪れる。丸林専務は目を見開いた。
「宇宙エレベーターの全額負担とは。冗談ではないですよね?」
「もちろん、本気です。」リリィがきっぱりと言う。
「なるほど。では、建設予定地は?」
「エクアドル沖の海上です。」
ジャックがモニターに地図を映し出しながら説明する。
「赤道直下であるため、地球の自転の恩恵を最大限に活かし、最も効率的に軌道エレベーターを運用できます。」
丸林専務は顎に手を当てながら考え込む。
「場所は理想的だ。だが、高張力ワイヤーの問題は解決できますか?」
リリィは黙って、ひとつのケースを机の上に置いた。
「すでに完成しています。シリコンナノチューブワイヤーです。」
ケースを開くと、中には半透明の特殊なワイヤーが収められていた。
「このワイヤーは、従来のカーボンナノチューブ技術を超え、強度・柔軟性・耐久性のすべてにおいて最適化されています。」
ジャックが補足する。
「従来のワイヤーでは宇宙エレベーターを実現するには強度が不足していましたが、我々の技術ならそれを克服できます。」
丸林専務はワイヤーを手に取り、じっと見つめる。そして、重々しく口を開いた。
「よろしい。我々も全力で協力しましょう。」
「このワイヤーは、お預かりして、強度等を調べてもよろしいでしょうか。」
リリィたちの顔に笑みが広がる。こうして、宇宙エレベーター建設計画が正式に始動した。
リリィ「次はエクアドルで、お会いしましょう。」とリリィは丸林専務と握手した。
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エクアドル政府と交渉
宇宙エレベーターの建設地として選ばれたのは、エクアドル沖の海上。
赤道直下に位置するこの地は、地球の自転を利用して宇宙へ物資を送るには最適な場所だった。
しかし、国の領海内に巨大建造物を建てるには、エクアドル政府の許可が必要だ。
エクアドル、キト。標高2,800メートルに位置するこの都市は、雲の上に浮かぶように広がっていた。歴史ある石畳の道を進み、大統領府へと向かうリリィたち。彼女たちは、地球に宇宙エレベーターを建設するための重要な承認を得るために、この国を訪れていた。
リリィたちは、首都キトへと向かい、エクアドルのホセ経済大臣と交渉の場を持った。
キト・大統領府会議室
高地に広がる美しい街、キト。政府の会議室で、リリィ、ギルス、ジャック、そして三田部長、丸林専務が待つ中、ホセ大臣が姿を現した。
「宇宙エレベーターの計画について、詳しく聞かせていただきましょう。」
リリィが立ち上がり、静かに語る。
「我々は、エクアドル沖の海上に宇宙エレベーターを建設したいと考えています。目的は、宇宙への物資輸送を効率化し、地球の防衛力を強化して、巨大隕石群を迎撃することです。」
ホセ大臣は慎重な表情で尋ねる。
「なぜエクアドルなのですか?」
ジャックがモニターを操作し、地図を映し出した。
「赤道直下であるエクアドル沖は、宇宙エレベーターに最も適した場所です。これにより、最小限のエネルギーで宇宙へ物資を送ることが可能になります。」
「しかし、それが我々の国にとってどのような利益になるのか?」
ホセ大臣の質問に、コモンが笑顔で答える。
「当然、エクアドルにとってもメリットは大きいです。」
彼は手元の資料を示しながら説明を続けた。
・経済的な利益
エクアドル政府には、毎年莫大な使用料をお支払いします。
宇宙関連の新たな産業が生まれ、雇用が増加します。
宇宙エレベーターの建設・運営により、地球全体の技術革新が加速します。
・防衛と国際的地位の向上
このプロジェクトにより、エクアドルは世界の宇宙開発の中心地となります。
国際的な宇宙条約に基づき、エクアドルは宇宙開発の主要プレイヤーとなり、世界的な影響力を増します。
宇宙エレベーターには迎撃兵器を設置し、地球防衛の一翼を担うことができます。
ホセ大臣はじっと考え込んだ後、静かに言った。
「確かに、これは歴史的なプロジェクトです。しかし、国民の理解を得る必要があります。」
リリィは即座に応じた。
「国民への説明会を開き、必要ならば公聴会も行います。また、地元企業との協力も積極的に進めるつもりです。」
ホセ大臣は椅子にもたれ、ゆっくりと深呼吸した後、ニヤリと笑った。
「分かりました。至急、大統領および議会に、はかりましょう。」
リリィたちは顔を見合わせ、静かにうなずいた。
エクアドル政府の決断
翌朝、ホセ大臣から連絡が入った。
「大統領との会談が設定されました。キトの大統領府にお越しください」
リリィ、マモル、マーガレット、ジャック、コモンの5人は、政府の迎えの車に乗り、宮殿のような大統領府へと向かった。
広大な会議室には、エクアドルのアンドレス大統領が待っていた。その隣には、ホセ経済大臣が座り、政府高官たちが並んでいた。
「このたびは、我々の国に宇宙エレベーターの建設を考えてくださり、ありがとうございます」とアンドレス大統領が口火を切った。
「こちらこそ、我々の提案に耳を傾けてくださり、感謝します」リリィは落ち着いた声で答えた。
「エクアドルは赤道直下にあり、宇宙開発の拠点として理想的な立地にあります。しかし、国内には経済的課題や社会不安も抱えており、大規模プロジェクトに慎重にならざるを得ません」とアンドレス大統領が率直に述べた。
ジャックが前に出て、計画の詳細を説明する。
「我々の技術は、エクアドルの経済を大きく発展させる可能性があります。宇宙エレベーターはただの輸送手段ではなく、新たな産業を生み出し、雇用を創出し、エクアドルを宇宙時代の中心地へと押し上げるでしょう」
コモンが続く。「このプロジェクトでは、現地の人々を雇用し、技術教育を提供します。また、宇宙開発で得られる利益の一部を国内のインフラ整備や福祉に還元する仕組みを作ります」
アンドレス大統領は考え込むように顎に手を当てた。ホセ大臣が隣で資料をめくりながら言う。
「確かに、エクアドルにとってこれは歴史的なチャンスです。ですが、政治的なリスクもあります。国民の理解を得られるかどうかが鍵になります」
ジャックが静かに言った。「我々は軍事目的ではなく、人類の未来のためにこの技術を提供します。貴国がそのビジョンを共有してくれるなら、我々は全力で協力します」
アンドレス大統領は椅子に深く腰を掛け、数秒間目を閉じた後、決意を込めた声で言った。
「エクアドル政府は、宇宙エレベーターの建設を承認します」
その瞬間、ホセ大臣の表情が緩み、政府関係者の間にも安堵の空気が広がった。
「ただし、一つ条件があります」と大統領は続けた。「国民の理解を得るため、まずは大規模な説明会を開き、透明性を持って進めてほしい」
「もちろんです。我々も同じ考えです」とリリィが答え、満足げに頷いた。
こうして、エクアドルにおける宇宙エレベーター建設の第一歩が踏み出された。大統領府の外には、南米の青空が広がっていた。
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