第123話 フィリピン タイフーン対策 その6 2020.10
【国連での報告】
フィリピンでの作戦成功後、リリィたちはニューヨークの国連本部へと向かった。タイフーンを未然に防いだ成果を報告し、国連の災害対策会議で公式発表を行うためである。
国連の会議室には、各国の代表や国連防災機関の要人が集まっていた。壁一面に広がるスクリーンには、フィリピンでの作戦映像が映し出され、クジラゴーレムが泡を発生させる様子が流れている。
アンサ事務総長「リリィさん、あなた方のチームが成し遂げたことは、災害対策の歴史において革命的なものです。」
リリィは壇上に立ち、深呼吸をした後、落ち着いた声で語り始めた。
リリィ「今回の暴風対策はさらにレベルアップしました。世界中の暴風対策に応用できます。」
しかし、その言葉を待っていたかのように、各国の代表が次々に意見をぶつけてきた。
中国代表「台湾方面のクジラゴーレムをフィリピン側に回したのは、実にけしからん。我が国への配慮が足りん。」
日本代表「日本方面のクジラゴーレムも、勝手にフィリピン側に融通している。これは国際的に許されることではない。遺憾だ。」
韓国代表「我が国向けのクジラゴーレムは何体いるのか? 明らかにしてほしい。研究目的でクジラゴーレムのデータ提供を希望する。」
会議室は不満の声でざわめき始めた。
アンサ事務総長「これらのタイフーン対策は、リリィさんたちの善意で行われています。国連の費用ではありません。皆さんには、その点を考慮して発言していただきたい」
中国代表「善意だろうが関係ない。事実を明らかにせよ。我が国への配慮が足りん」
日本代表「金の問題なのか? 我が国も多く出している。その点を配慮してほしい。遺憾だ」
韓国代表「我が国にも技術供与があるべきだ。クジラゴーレムを導入してほしい。韓国はクジラゴーレムに関する独自の研究を進めており、情報共有の協力を求める」
リリィ「皆様のご意見はよく理解しました。では、タイフーン対策は、公海上だけで行うことにします」
中国代表「なんだ、その態度は! そんなことを聞いているのではない」
日本代表「公海上のことでも関係ない。遺憾だ」
韓国代表「技術供与を求めるのではなく、共同開発のパートナーシップを希望する。研究しなくてはいけない。技術は世界で役立てるべきだ」
リリィ「どうも、話になりませんね。仕方がありません。みなさん、お疲れのようなので、回復してさしあげましょう。拒否される方は退席ください」
やがて、リリィは両手を広げ、回復魔法を展開する。温かい風が会議室全体を包み込み、全員の怒りが静まっていく。
リリィ「それぞれの代表と1対1で話し合いましょう。できる限り、各国の要求に配慮します」
【韓国代表と会議】
別室でジャックとコモンが対応した。
コモン「韓国代表、あなたの問いに答えます。韓国向けのクジラゴーレムは1体もありません」
韓国代表「クジラゴーレムの研究のためにデータ提供を求める。改善を要求する」
コモン「韓国向けのクジラゴーレムがいない理由は、韓国の近郊でタイフーンが発達する海域がないからです。それに、中国と日本がタイフーンの対策したら、あなたの国にタイフーンは上陸しません。」
韓国代表「いや、それでもクジラゴーレムの研究のためにデータ提供をしてもらわないと研究ができない。国際社会で生き残れない」
コモン「クジラゴーレムはアーロンの会社の特許技術です。それを盗むつもりですか。特許技術を一方的に研究されることは、企業の利益や安全性に関わる問題です」
韓国代表「いや、盗むのではない。詳しく研究するのだ」
コモン「韓国の代表。今後、あなたの国との取引はすべて停止します。核融合炉の建設、原子力発電所廃炉処理、コンビニボーソンを含む全ての契約を無効にします。これは我が社の特許技術を守るためです」
韓国代表「な、なんだと!! いきなりなんだ。その態度は!!失礼だろ」
コモン「お引き取りください。」
ジャック「あれはダメだな。特許技術を盗むのを当然の権利だと思っているようだ」
【日本代表と会議】
別室にて、ジャックとコモンが日本代表と交渉した。
コモン「日本代表、フィリピン側へ勝手にクジラゴーレムを融通したことを謝罪します。今後は、日本方面のクジラゴーレムは他国に移動させません」
日本代表「了解した。それであれば納得する。ただし、日本は雨の多い国だが、暴風雨や豪雨はいらない。適度な雨を降らせるようにコントロールしてほしい」
コモン「了解しました。日本方面のタイフーン対策拠点の運用を日本政府に委託します。自由に運用してください」
日本代表「それはありがたい。クジラゴーレムの運用方法を詳しく教えてほしい。」
コモン「もちろんです。ただし、貸出費用は発生します。ですが、貴国の税金ほどは高くありません。沖縄のタイフーン対策拠点の譲渡については後日、行いましょう。維持管理費の負担とか、事故が発生したときの責任とか決めないといけません」
少しの沈黙ののち、
日本代表「えっと、……持ち帰って返答することにしたい」
【中国代表と会議】
別室にて、ジャックとコモンが中国代表と交渉。
コモン「中国代表、台湾方面のクジラゴーレムを勝手にフィリピン側に融通したことを謝罪します。今後は、台湾方面のクジラゴーレムは他国に移動させません」
中国代表「了解した。それであれば納得する。中国東部では適度な雨が望ましい。暴風雨や豪雨はいらない」
コモン「了解しました。中国方面のタイフーン対策拠点の運用を中国政府にお任せします。自由に運用してください」
中国代表「それはありがたい。クジラゴーレムの運用方法を詳しく教えてほしい。ゴーレム技術についてデータ共有を求める」
コモン「もちろんです。ただし、貸出費用が発生します。貴国の要求ほどは高くありません。なお、上海のタイフーン対策拠点の譲渡については後日行いましょう。維持管理費の負担とか、事故が発生したときの責任とか決めないといけません」
中国代表「うむ、……分かった。費用面は問題ない。他は今後の話し合いとしたい」
【会議後】
アンサ事務総長「魔法で感情を操作して、交渉するのは誤解を生むのではないですか」
リリィ「強制的に感情を抑えたわけではありません。会議を建設的にするための手助けです。それに事前に退席する選択肢も言いました」
リリィ「他の周辺国とも、個別に交渉して、うまくまとまったわ」
ジャック「あれほど気難しい国々と付き合うのは、もうこりごりだ。今後も自分たちのことは自分たちでやってもらおう」
コモン「よかった。拠点の譲渡をしたら、高い固定資産税を払わなくてもよくなる。我々がその国を救うために建設した建物に固定資産税で税金を課す国を、私は許せない」
アンサ事務総長「リリィさん、これでよかったのですか?」
リリィ「もちろんです。中国と日本は一方的に助けられるのはプライドが許しません。自分の国のことは自分でするということを重視しています。それを尊重したのです。アンサ事務総長。ご助力ありがとうございました」
アンサ事務総長「韓国とは関係が壊れたようですが」
リリィ「知的財産権を尊重しない国とは取引しない方針です」
こうして、世界中の暴風対策が着々と進められていった。