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第120話 フィリピン タイフーン対策 その3 2020.10

【フィリピン・大統領官邸】


 二週間後、リリィたちは転移魔法を使い、フィリピンの首都マニラにある大統領官邸に降り立った。すでに待ち構えていた大統領とその補佐官たちは、緊張した面持ちで迎えた。


大統領「リリィさん、こんにちは。いよいよですね。」


リリィ「はい、タイフーンの発生する時期になりました。すでに対策は開始していますが、最終確認をお願いしたいと思います。」


大統領「もちろんです。リリィさんたちの対策が成功することを心待ちにしています。その様子を確認しましょう。」


【フィリピン・スービック港拠点】


 スービック港の一角には、タイフーン対策の最前線となる拠点が設置されていた。桟橋には最新の高速艇が整然と並び、隣接する格納庫では整備士たちがエンジンチェックを行い、出動準備を整えていた。


 フィリピン海溝、マニラ海溝、ネグロス海溝、コタバト海溝——その各海域では、緑色にカラーリングされたクジラゴーレム300体が回遊していた。


 指令センターでは、巨大なモニターに海洋データとクジラゴーレムの位置が映し出され、AIゴーレムとオペレーターが分析を続けている。


 フィリピン、日本、中国、ベトナム、台湾、韓国、香港・マカオ、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー、インドネシア——これらの気象機関が連携し、人工衛星を活用してタイフーン発生の兆候を監視していた。


リリィ「準備はできているわね。」


気象観測官「はい。昨日、洋上で熱帯低気圧が発生しました。現在の進路では、明日にはタイフーンへ発達し、フィリピン北部に上陸する可能性があります!」


リリィ「了解。すぐに対応を開始するわ。クジラゴーレムに指示を出して。」


【作戦計画】


 コモンが透明なタッチパネルを操作し、海域のマップを示した。


コモン「熱帯低気圧が発生した海域の海水温は現在27℃。このままでは、確実にタイフーンへ発展する。」


リリィ「私たちの目標は、海水温を26.5℃以下に下げること。」


ジャック「作戦を確認する。


①人工衛星からのデータを元に、最も効果的なポイントを算出。

②そのポイント近くに回遊するクジラゴーレムを誘導。

③クジラゴーレム300体を指示座標へ配置し、深海2000mに潜行後、泡を発生させる。


 我々は、クジラゴーレムが対応できない事態に備え、ここで待機する。」


【作戦開始】


 洋上で発生した熱帯低気圧の進路にクジラゴーレム300体が配置され、泡の放出が始まった。深海の冷たい水が海面へと運ばれ、海水温度が徐々に下がり始める。モニター上の温度データにも、その効果がはっきりと表れていた。


リリィ「クジラゴーレムの効果、大きいわね。」


【翌日昼——異常発生!?】


ガルド「なんだ? また、同じ場所に熱帯低気圧が発生している!」


コモン「海水温が下がった後、周囲の暖かい海水が流れ込み、再び温度が上昇したようだ。」


 熱帯低気圧は思った以上に粘り強く、1週間が過ぎても状況は変わらなかった。その間に、クジラゴーレムの魔石電池の残量が減り続け、泡の放出を維持するのが難しくなってきた。


リリィ「クジラゴーレムたちの魔石電池の入れ替えが始まったわ。順番に基地局へ戻っていく。」


ジャック「大丈夫だ。台湾の南と日本の南に配置しているクジラゴーレムを100体ずつ合計200体をこちらへ回している。」


【1時間後】


 フィリピン沖の全ての熱帯低気圧が勢いを失い、ついに沈静化した。


リリィ「作戦会議を開くわよ。」


ジャック「現状を確認する。フィリピン近郊の熱帯低気圧はすべて抑え込んだ。現在、フィリピン沖には日本と台湾からの応援を含め、合計500体のクジラゴーレムがいる。」


コモン「ただし、問題は別の国で新たなタイフーンが発生した場合だ。応援のクジラゴーレムを返さなければならないが、そうするとフィリピン沖の海水温が再び上昇する可能性がある。」


リリィ「もとの数が足りないのかしら?」


ガルド「300体に戻せば、大丈夫じゃないか?」


コモン「いや、油断は禁物だ。周囲の海域にも高温の水域が多い。」


【マモルの提案】


マモル「ひとつ、思いついた。」


リリィ「マモル、待ってたわ。ここでプランBが欲しいのよ。」


マモルは頷きながら、説明を始めた。


マモル「コンテナゴーレムを固定配置しよう。海水温が常に高い場所は決まっているはずだ。」


コモン「なるほど、回遊型のクジラゴーレムだけを使う必要はないな。定点配置で泡を出すコンテナゴーレムを使えば、安定して海水温を管理できる。それに、コンテナゴーレムはハリケーンやサイクロンの抑制に使っていたのが、クジラゴーレムと置き換わって、余っているからちょうどいい。」


拠点の大型モニターには、過去のタイフーン発生データが表示された。その情報を元に、コンテナゴーレム300体を固定配置する座標を算出する。


リリィ「今のうちに、コンテナゴーレムを設置しましょう。」


スービック港のタイフーン対策拠点から30隻の高速艇が出発。


ジャック「目標ポイント到達! イルカゴーレム、放て!」


高速艇1隻当たり6体のイルカゴーレムが放たれ、総数180体のイルカゴーレムが各自の座標へと、荒れた波に負けずに泳いでいく。イルカゴーレムがコンテナゴーレムの配置先で止まる。


コモン「コンテナゴーレム転移、沈降開始!」


約30分後


コモン「コンテナゴーレム、水深2000m地点に到達。泡の放出、開始!」


約30分後


しばらくすると、あちこちで白い泡が立ち上り始めた。


 コンテナゴーレムの魔力電池の交換はイルカゴーレムが担当できるよう改良を加えてある。


気象観測官「警戒区域の海水温が25℃を下回りました。周辺の海水温も低下し、熱帯低気圧は完全に消滅しました。」


リリィ「やったわ! 成功ね!」


ジャック「借りていたクジラゴーレムを返そう。日本の南方面、台湾の南方面で回遊モードに戻す。」


 スービック港の指令センターには歓声が響き渡り、タイフーンの脅威は未然に防がれた。

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