第116話 新素材開発 その1 2021.2
勇者ギルド星への転移
リリィ、ジャック、ガルド、マーガレット、コモンの五人は、勇者ギルド星に転移した。リリィ達パーティの所属する勇者ギルドの事務所へと向かった。事務所の中に入ると、カウンターに立つ受付嬢が明るい声で迎えてくれた。
受付嬢:
「リリィさん、ようこそお戻りくださいました!地球でのクエストは順調ですか?」
リリィは軽く笑みを浮かべて応じる。
「ただいま戻りました。至急、ギルド長に報告したいことが出来たの。」
受付嬢は真剣な顔になり、すぐに手続きを進めた。
「かしこまりました。ギルド長は現在、執務室にいらっしゃいます。すぐにご案内しますね。」
勇者ギルドの執務室に通されると、ギルド長が5人を出迎えてくれた。応接セットに皆が座る。
「リリィさん、お疲れ様、報告とは何かな?」
リリィが冷静な口調で報告を始める。
「ギルド長、今回、地球の拠点の一つに、闇将軍なるものが襲ってきました。もう少しで全滅するところでした。恐ろしい相手でした。」
ギルド長
「闇将軍、知っている。おれが会ったのは数百年は前のことだが、そうか、奴が地球にいるのか。あいつは、勇者ギルドの精鋭パーティをいくつも全滅させている強敵だ。」
リリィ
「闇将軍は、私たちの魔素を全て吸い取るという技を持っていました。手も足も出ずに、苦しめられました。」
ギルド長
「よく助かったものだ。」
リリィ
「幸い、地球人の仲間に助けられました。魔素を吸われても影響なかったのです。」
ギルド長
「そうか、それは運がよかったな。」
リリィ
「やつの正体は分かりますか。」
ギルド長
「あいつは、強さを求め、自分の体を改造していく、弱点を常に無くしながら強くなっいくのだ。以前のあいつは、クモのような多足の姿だった。」
リリィ
「今は、甲殻類のような固い甲殻のある体をしていました。昆虫系であることは間違いありません。殺虫剤を吸って苦しんでいました。」
ギルド長
「そうか、昆虫系の姿か。しかし、次も同じ弱点があるとは考えない方が良い。やつは、自らの体を強化して、リベンジしてくるぞ。」
リリィ
「そうですか、もっと強くなって襲ってくるんですね。何かアドバイスはありますか。」
ギルド長
「殺虫剤がまた効くとは、考えない方が良い。魔法による攻撃はダメだ。物理攻撃で、ゴーレムではなく、機械のロボットによる攻撃は有効かもしれない。それから、柔らかいネバネバしたものにも苦手意識があるらしい。」
リリィ
「機械ロボットによる物理攻撃とネバネバ攻撃ですね。準備します。アドバイスありがとうございます。」
それから、いくつか進捗報告をして、勇者ギルド星の拠点に戻った。
・・・・・・
ここは、グネルの研究所。
最近、ホムンクルスの培養神器のボードがよく話しかけてくる。
「グネル、お前が作ろうとしているものは、どんなものだ。」ボードが問いかける。
「宇宙エレベーターのワイヤーにする新素材で、張力がこの素材よりも強いものだ。」とグネルがナノチューブを指さす。
「ワシの溶液に入れてみろ。解析してみる」とボードが促す。
「ああ」とグネルが、ホムンクルスの培養神器の中に、カーボンナノチューブの粉を入れる。
「ああ、なるほど、炭素素材の、こういう構造の物か。」とボードがいう。
「培養したことがあるのか」とグネルが問う。
「無いが、もっと強いものなら培養したことがある。はるかに昔だが。」と簡単に言う。
「えーと、確か、何とかという、ワームの内臓にシリコンとミスリルを加えたものだったな。」とグネルが言う。
「それは、いまもどこかにあるのか?」とグネルが尋ねる。
「今もあるか分からんが、はるかに昔だ。」とボードが答える。
ホー博士
「ホムンクルスの培養神器が見つかったところに行ってみれば、何か分かるかもしれないな。」
「ホムンクルスの培養神器が見つかったところなんて、分かるのか」とグネルが聞く。
ホー博士
「博物館の探査局に記録が残っているかもしれない」
グネル
「よし、すぐに行こう。」
グネル、ホー博士、コンの3人は、博物館の探査局に急いだ。
・・・・・
博物館の受付でホー博士が尋ねる
「こんにちは、博物館の探査局に行きたいのだが。」
受付嬢
「ホー博士、探査局は初めててしたか。ご案内します。こちらへ」
グネル、ホー博士、コンの3人は、博物館の受付嬢に連れられて、探査局に案内された。
受付嬢
「ユリン局長、お忙しいところすみませんが、失礼します。」
ユリン局長
「なんだい。」と狐の尻尾のある真っ白い髪の可愛い女の子が振り向く。
「狐の尻尾だ。可愛い。」とホー博士が呟く。
ユリン局長
「おろ、私を口説いているのか?」とフサフサの狐の尻尾を振る。
ホー博士
「こほん、失礼した。私はホーと申します。少し教えてほしいことがあります。」
ユリン局長
「なんだ、私の尻尾のことか?」
ホー博士
「こほん、その件はいずれということで、別件です。この博物館にあったホムンクルスの培養神器を今、お借りしているのですが。」
ユリン局長
「なんだ、あのおしゃべりの容器が何かしたか。」
ホー博士
「その容器、名前はボードというらしいのですが、ボードが発見された場所について、教えてほしいのです。つまり、座標です。」
ユリン局長
「そのボードいう名は、私が付けてやったんだ。いいだろ。」
ホー博士
「はい、よい名前と思います。ユリン局長は、名付け親でしたか。それで発見場所は分かりますか。」
ユリン局長が魔道具の玉に手を置いて、言う。
「少し待っていろ」
ユリン局長
「座標は、ここだが、今は存在しない宇宙だな。」
ホー博士
「存在しない宇宙とは?」
ユリン局長
「破裂してしまった宇宙のことさ。宇宙の終焉だ。」
ホー博士
「宇宙が破裂した?宇宙の終焉?」
ユリン局長
「なんだ、そんなことも知らんのか。勉強不足だね。」
ホー博士
「す、すみません。そのとおりです。お教え願いたい。」
ユリン局長
「破裂してしまっては、座標があっても、そこには何もない。空間も時間も存在しない。虚無空間の座標ということさ。行くことはできん。」
ホー博士
「そうなのですね。残念です。」
ユリン局長
「そうか。気の毒にの。でも、ホムンクルスの培養神器が見つかった辺りの瓦礫なら、別の宇宙に保存されておるぞ。この宇宙のボイド空間にある。」
(ボイド空間は宇宙空間の中で、ほとんど物質が存在しない広大な領域)
グネル
「本当ですか。素晴らしい!」
ユリン局長
「座標はこれだ。」と言って、メモを渡された。
ホー博士
「ユリン局長、ありがとうございました。また、今度、お礼に来ます。」
「なんだ、もう行くのか。またな。ホーさん。」ユリン局長が可愛い笑顔で手を振っている。
・・・・・