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第115話 女神教って何?  その2

教祖たちのその後


転移魔法の光が消えると、教祖たちはそれぞれの元いた場所へと戻された。しかし、彼らはもはや以前のような自由な身ではなかった。『奴隷書』に刻まれた誓いの呪縛により、彼らは否応なく「信者の幸福を第一に考え、誰よりも質素倹約に努める」存在へと変えられていた。


〇宗主Aのその後

ギリシャ神話のアルテミスを崇拝していた宗主Aは、自らが築き上げた「アルテミス教団」の本拠地に戻った。かつては豪奢な神殿に住み、信者たちから集めた莫大な寄付で贅沢三昧をしていた彼だったが、戻ってすぐに異変に気づく。


「な、なんだこのボロボロの服は!? どうして私はこんなに質素な食事しか食べられないのだ!?」


彼が手にしたのは、わずかに水と乾パン。さらに、これまで豪華な宮殿で寝ていた彼の寝床は、信者たちが住む粗末な長屋と変わらないものになっていた。そして何より恐ろしいのは、誓いを破ろうとすると、体が動かなくなることだった。


ある日、信者が「新しい神殿を建てるために寄付を募りましょう!」と言ってきた。しかし――

「そ、それは、、できん!」


宗主Aは額に脂汗を浮かべ、信者の前で崩れ落ちる。無理にでも寄付を募ろうとすると、体が硬直し、耐えがたい苦痛が走るのだった。


彼はもはや贅沢を貪ることも、信者から搾取することもできず、『信者のために無償で奉仕する生き神』になってしまったのだ。


〇教祖Aのその後

ヒンドゥー教のパールヴァティーを信仰していた教祖Aもまた、自らの教団の元へと戻された。彼の教団では、多くの信者が彼の帰還を喜び、さっそく「寄付の儀式」を始めようとした。


「お布施を集めるんだ! 新しい寺院を建てるぞ!」

教祖Aは堂々と宣言しようとしたが――


「ぐぅぅぅっ、、!」

突然、激しい頭痛と共に、全身に稲妻が走るような苦痛が襲った。まるで、体の芯から焼かれるような感覚。


「な、なにが、、?」


彼は自分の口から違う言葉が飛び出していることに気づいた。


「わ、私は信者の皆様の幸せを第一に考えます、、」

「信者の誰よりも質素倹約に努めます、、」


信者たちは目を見開いた。「教祖様、、!? 一体どうしたのですか?」


教祖Aは苦悶の表情を浮かべながら、信者に対してこう告げるしかなかった。


「、、お布施はもう受け取りません。」


信者たちは騒然となったが、それでも教祖Aは逆らうことができなかった。誓いを破ろうとするたびに、恐ろしい苦痛が走るのだ。


「くそっ、、! あの異世界人め、、!」

彼は歯ぎしりしながら、「本物の神」としての振る舞いを余儀なくされることになった。


〇自称神様のその後

天照大神の娘を自称していた「自称神様」も、彼女の信者たちの元へと帰還した。


帰るなり、彼女は言った。


「お布施は禁止! 私は信者の皆を幸せにする!」


信者たちは驚愕し、泣き崩れた。「女神様が、、私たちのことを本当に想ってくださっている!」

「う、うそよ! こんなの私の本心じゃないのに!」


だが、彼女は誓いの呪縛によって、信者を騙すことも、搾取することもできない身体になっていた。

彼女はやむを得ず、信者の世話をする「聖女」として、無償奉仕の道を歩むことになった。


〇教祖たちの共通の苦しみ

誓いの呪縛により、全ての教祖は以下の行動を強制されることになった。


信者の幸せを最優先

  → お布施を要求すると、地獄の苦しみが襲う。

信者よりも質素な生活

  → どんなに贅沢をしようとしても、食べ物は最低限しか手に入らず、衣服も粗末なものしか着られない。

宗教から逃げることもできない

  → 信者の面倒を見続けることを強制され、自殺することすらできない。


彼らはもはや、詐欺師ではなく、『本物の聖者』として、信者のために尽くす存在へと変えられてしまったのだった。


・・・・・

リリィは教祖たちが転移していった空間を眺めながら、静かに微笑んだ。

「これで、彼らの信者たちは救われるわね。」


ジャックも満足そうに頷く。

「信者のために、誰よりも質素に生きる教祖、、皮肉な話だが、これほど『信仰に忠実』な者はいないな。」


コモンは冷静に言った。

「結局、彼らは自分の詐欺行為の報いを受けたってことだ。」


リリィは胸を張って、こう言った。

「宗教には自己犠牲がつきものよ。」


・・・・・・・

数年後――


世界各地では「新たな聖者」たちが誕生していた。かつて詐欺師だった教祖たちは、今や本当に信者のために尽くす者へと変わり、人々は彼らを崇拝し、感謝していた。


しかし、彼らだけが知っていた。

(本当は、あの誓いが呪いであることを、、)


彼らはもう、かつてのような贅沢を味わうことも、自由に生きることもできなかった。


それでも、信者たちの前では、微笑むしかなかった。

「この辛く苦しい生活が、本物の『神』の生き方か?」


彼らはまさしく、「本物の聖者」になってしまったのだった。

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