第114話 女神教って何? その1 2020.10
ニューヨーク拠点の静かな夜、マモルは緊張した面持ちでスマホを握りしめていた。
「リリィさん、友達から女神教の信者に自殺者が出たって情報が入りました。」
その言葉に、リリィが振り向いた。
「女神教って何?」
マモルはため息をつき、スマホの画面を見ながら説明を始めた。
「新興宗教で、女神を唯一神として崇拝する団体らしいです。しかも世界中に広がっているとか。中には悪質なものもあって、入信者の財産をすべてお布施として巻き上げ、家族まで生活できなくなっているケースもあるみたいです。」
リリィの眉がピクリと動く。
「詐欺ね!」
その場にいたコモンが、さらに調べた情報を付け加えた。
「それだけじゃありません。その女神教の神様、どうやらリーダーのことらしいですよ」
「なんですってーーーー!!」
リリィの叫び声が、部屋に響き渡った。
「そんなの認めないわ。即刻辞めさせる! その国の政府は何をしているの?」
ジャックが苦笑しながら答える。
「新興宗教ってやつは、どれも法の抜け道をうまく突いているからな。なかなか簡単には取り締まれない」
「いいわ、全部捕まえて、締め上げる!」
「「「「おう!」」」」
洞窟の中
某国のとある洞窟の奥深く、暗闇の中で、何人もの男たちが次々と目を覚ました。
「おろ、ここはどこだ? なんでワシはここにいる?」
「うぅ……よく寝た……あれ? なんだこれ?」
「キャー! 誰か助けてーー!」
驚きの声が響く中、ジャックが冷静に立ち上がり、男たちを見下ろした。
「私たちは、異世界から来た宗教関係の取り締まり機関の者だ。素直に質問に答えれば、元の場所に帰す。」
男たちはざわめき、互いの顔を見合わせた。
「あなた方が広めている宗教のせいで、多くの人々が苦しんでいる。自覚はあるか?」
ジャックの問いに、一人の宗主が堂々と答えた。
「ワシはギリシャ神話のアルテミス様を崇拝している。国連におわすリリィ様こそ、アルテミス様の現世の化身なのだ! ワシはリリィ様と懇意にしておる。罰が当たるぞ。」
「私はヒンドゥー教のパールヴァティー様を信仰している。母性と優しさの象徴だ。リリィ様こそパールヴァティー様が現世に顕現したお姿なのだ! 私もリリィ様と友達だ。神罰が下るぞ。」
「私は天照大神の娘よ! 天照大神を信仰しなさい。他の神なんてグズよ!」
次々と、彼らは自らの信仰を正当化する言葉を並べ始めた。
ジャックは頷きながら、意地の悪い笑みを浮かべる。
「国連のリリィ様は素晴らしいお方だ。まさに女神がこの世に顕現された存在と言っても過言ではない。皆さんもそう思いますよね?」
「もちろんじゃ!」
「神罰が下るぞ!」
「リリィちゃんとはマブダチよ! ここから出して!」
「では、もしリリィ様が宗教上のお願いをすれば、聞き入れますね?」
「当然じゃ!」
「なんでも許す!」
「友達だからね。本当よ。」
ジャックは満足げに頷いた。そして、コモンが手渡した厚い本を開きながら言った。
「では、ここに異世界の聖書がある。この上に手を置いて、次の言葉を繰り返せ。」
洞窟の壁には大きな紙が貼られ、そこには大きな文字が並んでいた。
「私たちは、リリィ様を神と信じ、そのお言葉に従います。」
「「「「私たちは、リリィ様を神と信じ、そのお言葉に従います。」」」」
「私たちは、信者たちの幸せを第一に考えて行動します。」
「「「「私たちは、信者たちの幸せを第一に考えて行動します。」」」」
「私たちは、信者たちの誰よりも質素倹約に努めます。」
「「「「私たちは、信者たちの誰よりも質素倹約に努めます。」」」」
その瞬間、彼らの持つ聖書が発光し、魔法陣が展開された。
「うわわわわ、消えていくぞ! 死ぬのか~!」
「大丈夫ですよ。元の場所に戻るだけですから。」
ジャックは微笑みながら、淡々と答えた。
その後
リリィは、洞窟の消滅した光景を眺めながら、冷静に言った。
「魂がみんな灰色ね。中には真っ黒なのもいたわ。」
ジャックが肩をすくめる。
「新興宗教を利用した詐欺師たちだ。リリィリーダーが活躍すればするほど、彼らが力をつけ、法が追いつく前に多くの被害者が出る。だからこそ、この方法が必要だった。」
リリィは静かに頷いた。そして、手元の厚い本を開きながら、冷笑を浮かべる。
「あの聖書、本当は『奴隷書』よ。誓いを破った瞬間、彼らは地獄の苦しみを味わうことになる。」
ジャックは肩をすくめながらも、特に気にした様子はなかった。
「誓いの内容は至極真っ当だがな。」
・私たちは、リリィ様を神と信じ、そのお言葉に従います。
・私たちは、信者たちの幸せを第一に考えて行動します。
・私たちは、信者たちの誰よりも質素倹約に努めます。
コモンがニヤリと笑う。
「信者の誰よりも質素倹約に生きるなら、もはや贅沢もお布施の搾取もできないからね。」
ジャックが腕を組みながら問う。
「新興宗教、続けられるのか?」
「いや、辞めても信者の面倒は見続けることになる。しかも奴隷だから自殺もできない。」
リリィは、堂々と胸を張って言った。
「宗教に自己犠牲は当たり前よ。」
夜の静けさが広がる中、彼女たちは次なる任務へと向かっていった。