閑話 アメリカ大統領の悩み ダンジョン刑務所の誕生 その1 2020.10
ホワイトハウス ― 大統領執務室
アメリカ大統領は深いため息をついた。
「リリィさん、国際警察官の活躍が素晴らしいです。しかし、刑務所が満杯で困っています。何か、いい方法はありませんか?」
リリィは首をかしげた。
「地球の刑務所は待遇が良すぎますね。衣食住すべてが保証され、健康管理まで徹底されています。」
ジャックが資料をめくりながら頷く。
「そのための資金はすべて税金で賄っている。しかし、税金をきちんと払っている善良な市民は、仕事を掛け持ちしてもまともに生活できない。」
コモンも腕を組んで考え込む。
「刑務所の維持費は莫大です。犯罪者を養うために重税に苦しむ市民が増えるのは、確かに理不尽ですね。」
リリィは軽く指を鳴らした。
「異世界では、悪人は凍結します。」
アメリカ大統領は目を丸くした。
「凍結?」
リリィは頷いた。
「異世界では輪廻転生が証明されています。悪しき魂の持ち主は、輪廻転生の流れから外すため、魂ごと体を凍結し、存在を止めます。」
アメリカ大統領は眉をひそめた。
「アメリカでは冷凍睡眠は認められていません。人道的な観点からも実現は難しいですね。」
リリィは考え込みながら、ふと閃いたように笑った。
「では、ダンジョン刑務所はどうですか?」
アメリカ大統領は不思議そうに聞き返した。
「ダンジョン刑務所?それは何ですか?」
リリィは説明を始めた。
「異世界には、魔物が生息するダンジョンがあります。そこに犯罪者を収容すれば、食糧と住居は自力で確保するしかありません。ダンジョンの構造上、外に出ることは不可能です。」
大統領は考え込んだ。
「しかし、地球人は魔法が使えないので、そんな環境ではすぐに死んでしまいます。」
ジャックが補足する。
「武器を持たせれば、生存の可能性はあります。 それに、ダンジョンコアの機能を使って復活の首輪を装着させれば、死んでも復活できます。」
アメリカ大統領は驚いた。
「死んでも生き返る?それは、まさに地獄だな。」
リリィは微笑む。
「人を殺して喜ぶような殺人鬼には、お似合いの罰ですよ。」
アメリカ大統領は大きく頷いた。
「よし、希望者を募ってみよう。 リリィさん、ダンジョン刑務所の準備をお願いします。」
リリィは即答した。
「いいですよ。洞窟が適しています。どこに作りますか?」
首席補佐官は地図を広げた。
「じゃあ、アラスカのこの洞窟にしましょう。この周辺に町はありません。」
アメリカの刑務所 ― 無期懲役囚たちへの選択
刑務所長が、収容者たちを集めて演説した。
「お前たち、無期懲役の者は一生この刑務所の中だ。毎日、退屈しているだろう。」
囚人たちは不満げにうなずく。
刑務所長は続ける。
「そこで、選択肢をやる。 ダンジョン刑務所という場所がある。魔物を狩って自由に暮らせる洞窟だ。洞窟からは逃げられないが、そこではすべてが自由だ。どうだ、希望者はいるか?」
「「「うおおおおお!!」」」
刑務所中から、歓声がわいた。多くの希望者が手を挙げた。
やがて、無期懲役囚の中で希望者が選ばれ、転移魔法陣のある部屋に集められた。
刑務所長は彼らを見渡し、ニヤリと笑う。
「それでは行ってこい。お前たちは自由だ。」
無期懲役者たちは、光に包まれ、ダンジョン刑務所へと転送された――。
ダンジョン刑務所 ― 自由と絶望の始まり
転移した無期懲役者たちは、薄暗い洞窟の中に立っていた。
地面にはオノ、ナタ、マサカリなどの刃物が10本ほど並べられている。
囚人の1人、チャールズがオノを拾い上げた。
「薄暗いな、お、あそこは明るいぞ。」
別の囚人、アンデルスはナタを取る。
「よし、行ってみよう。」
ミシェル
「おう」
洞窟の奥へ進むと、店があった。
「コンビニみたいだな。」チャールズが呟く。
ピンコーンピンコーン♪
彼らが店に入ると、軽快な入店音が鳴った。しかし、
「、ん?見えない壁に当たった?」
店員が冷静に告げた。
「お客様、お金をお持ちではありませんね。入店はお断りします。」
チャールズはキレた。
「刑務所なんだから、食い物はタダだろ!」
店員は淡々と答える。
「ここはダンジョン刑務所。自由な方には働く義務があります。」
アンデルスは叫んだ。
「うるせぇ!食い物をよこせ!」
店員は冷静に答える。
「皆様が持っている武器は有料です。すでに手に取っているので、借金が発生しました。」
「はぁ!?」
そこへ、ピンコーンピンコーン♪
別の囚人たちが入ってきた。ロバート、ジョアン、ペドロ、彼らはすでにここで生活している先輩囚人だった。
ロバートがウサギのような魔物を店に差し出しながら言った。
「ここで生き残りたければ、魔物を狩って売るしかない。」
チャールズはナタを振り上げ、ロバートを睨んだ。
「お前を殺せば、その金を奪えるんじゃねえのか?」
プシューッ!
突然、彼の首輪からお花畑魔法麻酔が展開、チャールズは倒れた。
ロバートは肩をすくめた。
「ここでは、人から金は盗めない。ルールを学ぶんだな。」
アンデルス
「チャールズ、おい、チャールズ、ダメだ。眠っている。仕方ねぇ。分かった。あんたの言う通り、魔物を狩ってくるよ。」
ロバート
「ここの魔物は凶暴だからな。死ぬなよ。あははは」
アンデルスとミシェルは店を出て、洞窟の奥に入っていった。
しばらくして、洞窟の奥から、悲鳴が聞こえた。
「「ギャアアアア!!!」」
ロバートは笑った。
「最初はみんな死ぬ。でも、復活の首輪があるからな。死に慣れることだ。」
ジョアン
「今日は、どの弁当にするかな。焼肉がいいな。」
ペドロ
「俺は、スープを付けるぜ。美味いんだ。これ」
そんな3人の先輩囚人は、床で寝ているチャールズを見下ろした。
店員はレジで会計をしている。
ダンジョン刑務所の店、コンビニボーソンは今日もそれなりに繁盛していた。