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20:グ、グレ……いえ、やっぱりいいです

 神眼。

 その目で見た魔法陣を、一瞬にして記憶し発動することが可能になる。


 魔法には全て属性が存在する。地水火風、雷、氷、聖と闇。

 魔法が使える使えないを抜きにしても、人には適正不適正の属性を持っているの。

 ほとんどの人は、適正属性一つ、残りは不適正。

 つまり魔法が使えたとしても、一つの属性のみってこと。


 たまーに複数の属性に適性がある、賢者と呼ばれるような人はいるけどね。

 それでも全属性に適性がある人は、これまでの歴史では存在したことがない。


 ただし──


「適正はなくとも、全ての魔法を網羅出来る方法はございます」


 そう言って司祭様が一冊の本を私に見せてくれた。


「ここです。まず大前提として鑑定眼の持ち主であることが絶対条件でございます」

「鑑定眼……私、ずっと自分のは鑑定スキルだと思っていました」

「仕方ございません。鑑定スキルと鑑定眼の能力は、まったく同じものですので。

 そして鑑定スキルに鑑定眼、どちらかを所有している方は意外と、ご自身を鑑定なさらない方が多いようですので」


 自分のことは自分が一番よく知っている。

 そんな感じで鑑定することはないものね。


 鑑定スキルは、もちろんスキルのこと。だけど鑑定眼はスキルではなく、特異体質みたいなものだってこと。

 神眼は鑑定眼の上位覚醒版なので、もちろん特異体質に入る。


 鑑定スキルもレアだけど、鑑定眼はもっとレア。

 今の時代だと、鑑定眼を持っている人物はこの国には私ひとりだけ。

 他の国を見ても、一国にひとりいるかどうかなんですって。


 私、チート級!

 そのうえ神眼にも覚醒している。

 この神眼の持ち主こそが、全属性の魔法を使える唯一の人だってこと。


 そう……この私が、全属性、全ての魔法の使い手となったのだ。

 オーッホッホッホッホ!


「ここに最強の悪役令嬢が爆誕したのよ!」

「ル、ルシアナ様?」

「あ、なんでもございません。ほんとなんでもないの。それよりエリーシャさんは……」


 エリーシャは先ほど、急に眩暈を起こして休んでいる。


「ご心配ございません。あれほど巨大な魔法陣を作った上に、初覚醒でしたので、今になって疲れが現れたのでしょう」

「そう。それならいいんだけど」

「しかし私はなんと幸運なことか」


 そう言って司祭様が興奮気味に修練の間にある女神像に祈る。


「幸運、なんですか?」

「はい! 数十年にひとり現れるかどうかという神眼の覚醒と、そして聖女の誕生に立ち会えたのですから!」

「せい、じょ……ぁ、エリーシャさん!?」


 そうだ。エリーシャって、原作二巻の中盤から聖女と呼ばれるようになってたんだった。

 でも今はまだ、原作一巻の後半手前。

 早すぎる……けど、そうか、私が彼女に祝福の魔法が使えるって教えちゃったから流れがズレちゃったんだわ。


「そっかぁ。エリーシャさん、聖女様なのね」

「えぇ。あれほど大きな祝福の魔法をお使いになられるのは、聖女ただひとりですから」


 女神に愛されし娘。

 そんな彼女の力が、この国を救うことになる。

 

「聖女様! お加減はもうよろしいので?」


 休んでいたエリーシャが起き上がって、私たちの所へとやって来た。

 まだ足元はおぼつかないみたい。


「エリーシャさん、大丈夫?」

「はい。ご心配をおかけしました」

「ううん。あんな凄い魔法だったんだ。疲れて当然よ」

「そうです、聖女様。ささ、お座りになって、ゆっくりなさってください」


 司祭様にそう言われ、私の隣に腰を下ろす。だけどその顔はどこか寂しげだった。


「どうしたの、エリーシャさん」

「……あの、私」

「うん」


 ちらりとこちらを見て、それから顔を伏せて言葉を続けた。


「私、聖女がなんなのかよく分かりません。私はただ、魔法を使いたかっただけで、誰かの役に立てたらいいなって、そう思っただけなんです」

「その結果が、あれだったのよ」

「でも私っ。私……聖女だなんて……」


 エリーシャは眉尻を下げ、不安そうな表情を浮かべた。

 不安。そう、不安なんだね。

 確かに聖女って、具体的になんなの? と問われると、なんなんだろう。

 行き成り「あなたは今日から聖女です!」と言われて「はい、わかりました!」と言える人はそういないと思う。


「エリーシャさんは、エリーシャさんよ。あなたがやりたいと思っていたことを忘れず、その為に自分の力を使えばいいだけ」

「ルシ……アナ様。私、私……聖女だなんて呼ばれたくありません」

「うん。あなたはエリーシャだものね」

「はい。はい。ひとりの人間として、見て頂きたいです」


 それが彼女の願い。


「司祭様。エリーシャさんは神のように崇め奉られたくないんですよ。この子はエリーシャ。聖女という壁を作ってしまわず、これまで通り、親しみを込めて名前で呼んであげてください」


 私がそう話すと、司祭様は目を丸くした後、頷き、優しい笑顔を見せてくれた。


「分かりました。ではこれからも、エリーシャ様と、お呼びさせていただきます」

「はい、司祭様っ」


 エリーシャも嬉しそうに返事をした。






 別荘オークション当日。

 今回は帝都にある二つの別荘のうちの一つだけ。

 これが上手くいくかどうかで、残りの別荘をどうするか考えることにしている。


 私やカイチェスター家の使用人以外は、自前で用意して貰った仮面を着けて貰うことにしているんだけど……。


 馬車から降りてくる方々は、見事に全員、仮面を装着していた。

 

 くふふ。ちょっと面白い。


「ようこそお越しくださいました。広間にみなさまお集まり頂いておりますので、そちらへご案内させていただ──ぶっ」

「……おい」


 馬車から下りて来たのは、つま先から頭まで全身黒づくめの男性。

 着用している仮面まで黒いなんて……。

 目元はサングラスようになってて、瞳の色までは分からない。

 だけど分かる。


「グ、グレ……いえ、やっぱりいいです」

「んなっ。なぜ」


 分からないとでもお思いか。

 それに、その反応でグレン卿確定じゃない。


 だけど参加者リストにグレン卿の名前はなかったはず。

 飛び入り?


 じぃーっと見ていると、彼がそっぽを向いてぼそりと呟いた。


「リュグライド公爵の……代理」

「あぁ、なるほど。そういえば公爵のお名前はありましたねって、何故分かったんですか? あなたがここにいるの、どうしてだろうって考えていたこと」

「……なんとなく」


 なんとなくか。

 まぁいいけど。


 彼を広間に案内して、これで参加者が全員揃ったわね。


「お集りのみなさま、本日はオークションへのご参加、ありがとうございます。ここで長々ご説明するよりも、邸宅内をご案内しつつお話させて頂こうと思いますがよろしいでしょうか?」


 意義を唱える方はおらず、頷く人ばかりだった。

 ご夫婦でお越しの方もいれば、おひとりの方もいらっしゃる。

 ご年配のかたもいるし、時々休憩を挟まなくちゃね。


 私の鑑定眼の結果を交えつつ、絵画や家具の説明もしていく。


「ちなみに、邸宅内のものを一通り鑑定すると、お恥ずかしながら数点ほど偽物がございました」

「お買い求めになるときに、鑑定書はご覧にならなかったのですか?」

「買ったのはお父さまですが、その鑑定書も偽物でした。四年前に購入したものですので、私の鑑定能力も覚醒前でしたし」


 しおらしくそう言うと、集まった列席者からも同情する声が上がる。

 ふふ。さぁ、ここからよ。


「ですが、邸宅以外でしたら、実はその偽物が今回の目玉となっております」

「偽物が? ご令嬢、まさか偽物と分かっていて我らに売りつけようというのでは」

「はい。その通りでございます」


 私はニッコリ微笑んで、みなさんを見渡した。

 目が見える仕様の仮面と、そうでない仮面とがあるけど、みなさん驚いているみたい。

 中にはちょっとだけ不快感を表している方もいる。


「その偽物というのがこちらの絵画になります」


 階段を上った踊り場に、バーンっと飾った絵画の前でそれを紹介する。

 花が咲き乱れる庭園に舞い降りてきた天使──を描いた、有名な画家の絵。


「ゴッゴの絵画でございますが、実際の画家は──」


 ここで溜める。この溜めが大事なのよ。


 こほんと咳ばらいをして、それから全員を見渡してから画家の名を口にする。


「ロジック」


 ──と。

 その名を口にした瞬間、列席者の八割ほどの方がざわつき始めた。

 グレン卿は……興味なさそうね。


「この絵を鑑定したところ、ゴッゴの『庭園に舞い降りた天使』の贋作だと分かりました。そして実際に描いた画家の名前がロジックだということもです」

「そ、それは、ご令嬢の言葉を信じるしか証拠が……」

「ご安心ください。帝都の有名画廊の店主による、鑑定書付きです」


 鑑定スキルではなく、肥えた目と経験による鑑定だ。

 その鑑定書を取り出し、実際にみなさまへお見せする。

 再びざわつく。


「ロジックの素晴らしさは、残念ながら彼の死後になってから認められるようになりました。

 その彼は若い頃、生活費を工面するために贋作依頼を請け負っていたことをご存じの方もいらっしゃるのでは?」


 そう言うと、頷く方が数名いた。


「この絵画は贋作です。しかし描いた画家は、今やオリジナルのゴッゴを凌ぐほどの人気画家となっております。

 この絵画も合わせて、入札金額をお考えくださると有難く存じます」

「その絵画だけ買い取らせていただくことは出来ないのですか!?」


 そう言われることも想定済み。

 だけどそれは出来ない。何故なら──


「みなさま、二階にお上がりください。そうすれば、この絵画込みだという理由が分かります」


 みなさんを案内して二階へと上がる。上がった先にはバルコニーがあって、そこから見える庭園こそが、


「あの絵画の舞台となる、庭園なのです」


 感嘆する声が上がった。

 好感触だわ。


「確かにこれでは……」

「別荘と絵画、分ける訳にはいきますまい」

「ふふ。ご理解頂けてよかったですわ。それでは別のお部屋もお見せいたしますので、どうぞこちらに」


 ぐるりと別荘を一周したのちは、大広間でオークションを開始した。


まだ・・・ダメ、ぽ・・・

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