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夢幻の住人  作者: 昼行灯
28/43

28:挑発

 使役(しえき)

 (かみ)(ほとけ)(おに)、そして魑魅魍魎(ちみもうりょう)の力を借り、行使される式術。


 古今東西、全てと言っていいほどの呪文はその相手を褒め称えておだてまくり、良い気分にさせ、その代わりに少しだけ力を貸して下さいという至極(しごく)真っ当な手順で行使される。

 「うんたらかんたら」と意味のわかっていない言葉の呪文を有難そうに唱えるより、「ああ、お願いします○○神さま、私のこの願いを叶えて下さい」と自身も意味のわかっている言葉でお願いする方が効果も高い。当然だ、その意味もわかってない呪文も結局は言っている内容に大差などないのだから。


 しかし、それ以上を求めるならば、対価が必要になる。

 神や仏は、信仰。常日頃からの正しい手順に則った祈りと、感謝。これが供物となり人を超えた力の行使が可能となる。

 鬼や魑魅魍魎はもっと即物的だ、その力を鎮めるためにも使われるが、使役する時にも使われる。


 (にえ)だ。

 金銀財宝も贄のひとつ。酒や御馳走も贄のひとつ。そして贄の中でも最高級の贄、生け贄。命を持ちたるものを贄として捧げる行為。


 贄に、手垢に汚れた金貨では価値がない、酒も馳走も丹精込めて専用に作られるものであるほど贄としての価値がある。


 そして当然命も厳選される。

 神に仕える巫女などは、素晴らしい御馳走である。

 更に言えば、鬼に食べられるためだけに育てられた巫女などは、鬼にとっては至高の御馳走である。


 ましてやそれが力ある巫女ならば、その身を喰らいし鬼は、鬼本来の力を現世で振るう事さえも可能になる。


 巫女の全てを喰らうことができたならば、鬼神の力さえ振るうことも可能になるかもしれない。




 貴重な御馳走だ。欲に任せ一気に喰らうか、大事に少しづつ喰らうか、鬼にとっても悩みどころではある。






 酒呑童子(しゅてんどうじ)茨木童子(いばらきどうじ)

 以前呼び出した時と違い、今回は私自身の腕を触媒として使った。当然本来の鬼としての力を取り戻した状態で召喚されている。

 前は触媒も魔力も未熟だったため鬼というより人としての意識が大分残っている状態だったけど、今回はもうその様な感情などない、完全に鬼として顕現(けんげん)している。


 彼等から見たら私はただの御馳走でしかない。

 酒呑童子が私の顔を舐める。痛い、ザラザラどころではなくヤスリの様な舌だ。

 腕を食べ終わった茨木童子が、私の血の出ている肩を舐め、そしてガブリと噛み付く。すごい痛い。


 しかし不思議と嫌悪感は無い。おそらく連綿(れんめん)と続く生け贄の儀式の中その様な負の感情は削り取られてきたのだろう。


 安心感と幸福感、その様な感情が湧き上がるのを俯瞰視(ふかんし)している冷静な私。


 気を失いそうになる。


 そうなったら全てが終わってしまう。


 それでも良いかと思ってしまう。意識が弱ってきている証拠だ。


 (リン! 我を()べ!!!)

 クロの念話で意識が覚醒する。念話が繋がるという事は、どうやらあのおかしな場所から自力で脱出出来たようだ。


 力が湧いてくる。


 (クロ、まだ大丈夫だから)

 (ウソなのだ! 死にそうではないか! 我を喚べ!)

 

 そうもいかない。

 まだ、何も始まっていないのだから。



 信長を見る。


 ここは第六天ではありませんが、天魔は存在しますよ、悪魔のような姿の魔物も然り、神さえも実在します、ほら、目の前には何が居ます?


 御伽(おとぎ)話に出てきた、鬼ですよ、ご存知ですよね、知らぬものなどいないこの悪鬼羅刹(あっきらせつ)を、探していた魔人よりも強い鬼が二体。


 天魔の王よ、


 この鬼の退治、


 貴方に出来ますか?



 挑発的な私の視線に応え、不敵に嗤う信長。

 【是非も無し!】

 火筒(ひづつ)を取り出し、酒呑童子を狙い撃つ。それと同時に茨木童子に攻めの三左の槍が襲い掛かる。



 ガギンッ!

 硬い音を立てて弾が酒呑童子に当たるが、全くダメージを与えられていない。

 三左の槍も茨木童子の硬い皮膚を貫けずに元の位置へと戻って行く。


 「ウルァァァゥゥァァゥァ!」

 闘いの雄叫びか、酒呑童子が天に向かい吠える様な歌う様な声を発する。


 酒呑童子が私の頭を乱暴に掴み、後ろへ投げ飛ばす。その大きな手の鋭いツメが頬に首に簡単に刺さり肉を抉り血が出る、もの凄く痛い!


 壁に向かって飛んで行く私。このままだと頭から壁に激突し死んでしまう。彼等にとって今の私は生きていても死んでいてもどちらでも構わない存在になったのだろう。全てを破壊し蹂躙する。それが鬼の鬼たる所以。闘いの後に美味しく頂ける様に部屋の端に生死に関わらず置いておく。その程度の価値。


 両腕も無く、糸も使えない。


 わけではない、自分の左腕を切った糸を口で操り体勢だけは変えて背中から激突する。ドンっと凄い音と衝撃が全身に響く!


 パキャッと変な音を立てて(あばら)の骨がほとんど全て一瞬で砕け散る。無茶苦茶痛い、というか息が出来ない。というか死にそうだ。


 「ハァハァハァ、カハッ!」

 血を吐く。最悪だ。

 (リン! リン!!)

 クロの叫びでなんとか意識だけは繋ぎ止められる。

 (大丈夫、こちらはひとまず危機は乗り越えたんで、クロはフジワラくんをお願いね)

 (…………)

 うぅ、クロが無言で怒ってる。



 けど、クロがここに居なくて良かった。

 ここまでの事は私一人でなくては達成出来なかった。クロはこんな状況絶対に許すわけないからね。


 ムチャをして、ムリをして、私よりも傷ついてしまっていたかもしれない。クロが居なくなるという最悪の結果になっていたかもしれない。


 本当に、クロがここに居なくて良かった。

 こんな姿は見せられないしね。両腕も無く惨めに地に這いつくばるこの姿。


 腕は鬼に完全に食べられてしまった事で、徐々に再生してきている。ここは無理に光魔法を使って回復するより魔王のローブの回復効果だけで再生しよう。体勢もこのまま地に這いつくばった、気にするに(あたい)しない蚊帳の外の置物として、この闘いを傍観しよう。


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