19:風雲ゴブリン城
最上階にある王の間に近づくにつれ、ゴブリンに職持ちが多くなってくると共に、各階層がボス部屋のような作りに様変わりしてきた。つまり、扉を閉めると敵が湧き、全て倒すことによって上への階段が出現するという、必ず戦闘をしなくてはいけない作り。
「小僧見ろ、見取り図があるぞ」
「何言ってんだネコ、迷宮にそんなのあるわけ、あったぁぁ!」
なんじゃそりゃ!
戦士の間:勇敢なゴブリン戦士が待機中
魔術の間:頭脳派のゴブリン逹が待機中
死霊の間:倒されたゴブリン逹が復活中
近衛の間:近衛師団の部屋
王の間:ゴブリン王の間
「オオゥ、詳しく説明書きまであるじゃねーか」
「じゃあ、フジワラから始めて交互でやるのだ!」
「オオゥ、俺に死霊の間をやらせる気満々だな、ネコよ」
「うむ、ガンバレ!」
「ハッ、別にいいけどな、つまり王の間も俺ってことでいいんだよな」
「はっ!」
「今ごろ気づいたか、遅いなネコ」
「ぐぬぬ!」
いえい、ネコにグヌヌと言わせてやったぜ!
スキル強奪が、スキル強奪改になり、ユニークスキルまで盗れるようになって考えたことがある。
人の根本にあるひとつの思考。
【もったいない】
誰しも持つであろうこの当然の思考。
これが最初の落とし穴。
魔物を倒すとき、スキル強奪を発動していないのは【もったいない】と思っていた。そして、スキル強奪改になったことでその【もったいない】はさらに大きくなった。
そしていつの間にか魔物よりも人を見るようになり。そしてそいつがなんのスキルを持っているのだろうと思うようになった。特に高レベルまで行ける冒険者は必ず何かしらの優位なユニークスキルを持っていることが多い。
そして、ソイツを殺してみたいと思うようになった。
終わってるよな。
ある時その気配に気づく。偶然なのか、よくおれ自身鑑定されてたからなのか、いつ鑑定されてもいいように自分自身を気配察知スキルの対象に置くように心掛けていた。
そして、気配察知に反応した異様な気配。今まで何人か会ってきた殺人鬼の気配、気狂いの気配。それが、人を見ているときの俺の気配だと理解するのは簡単なことだった。
スキル強奪について考える。
これがなければ俺はすでに死んでいたか、誰かの手駒として精神を使い潰されていただろう。
スキル強奪というのは、持ってるだけでどうしようもない状況から一発逆転が狙えるほどの強力なスキル。本来ならば何十年かけて取得できるかどうかというスキルを一瞬で相手から奪ってしまえるチートな能力。
火魔法を強奪することで、火魔法5の最大レベルになり、さらに火魔法を強奪し続けることで上位魔法の炎魔法になる。そしてその後も火魔法を強奪し続けることによって炎魔法のレベルが上がっていき最大レベルの5になる。
本来ならば才能のあるものが一生をかけて辿り着けるかもわからない境地に簡単に辿り着ける能力。
ならばと思う。この上もあるのではないか?
才能あるもの逹が何世代もかけて辿り着けるかもしれないこの先の景色が存在しているのではないか?
その可能性を試せるのはこのチート能力を持っている自分だけではないか?
試さない手はない。
そんな【もったいない】事など出来ない。
【もったいない】
【もったいない】
【もったいない】
【もったいない】
思考が支配される。そして辿り着く先が、殺人鬼、気狂い、人をモノとして認識する感覚。
既に魔物をスキルの餌としか見ていない自分に気づく。
そして、たとえ軽い気持ちであったとしても、自分の心の拠り所までも強奪の対象として思考したとき。その恐ろしさに気がついてしまう。
スキル強奪に対する恐怖ではなく、そのレベルまで心が壊れてきている自分に対して恐怖を感じる。
俺は気づかないうちに壊れていたのか?
こんな考えを持つ俺はここにいるべきではないのではないか?
ならば、いっそのこと……
背後で扉が閉まり、フロアの奥にゴブリン戦士逹が湧き出る。
気配察知スキルでゴブリン共を識別する。鑑定がなくても気配察知スキルで相手のジョブくらいならわかる。そこから所持スキルの予想をする。
ゴブリン戦士
ゴブリン戦士
ゴブリン狂戦士
ゴブリン狂戦士
ゴブリン戦士
ゴブリン闘士
ゴブリン闘士
ゴブリンリーダー
ゴブリン戦士
ゴブリン騎士
ゴブリン騎士
ゴブリン騎士隊長
エリートゴブリン
ふむ。
戦士、狂戦士、闘士、リーダー、騎士、騎士隊長、エリートの七種類か。
騎士隊長とエリート以外はどうでもいいな。そいつらも、耐えられたらの話だな。いくぜ。
「月下、、影月!」
飛燕のような斬撃がゴブリン逹に飛んでいく。
「ギャヒッ!」
何も出来ずに斬撃を喰らう者、剣で防ぐ者、盾で防ぐ者、躱す者とその実力によりそれぞれだが、影月の真の斬撃は目に見える斬撃の影に隠れているもうひとつの斬撃が本来の力。
全てのゴブリンが影の斬撃を躱すことが出来ず、首が飛び、胴が切り裂かれ、足がもげる。
死んだゴブリンには、スキル強奪が発動しスキルを取得していく。
足がもげたり腹を切られても生きているゴブリン逹に近づく。騎士隊長にエリートも生きている。それに防御力が高いからか騎士逹も何体か生きている。
「……」
睨み付けてくるゴブリン逹の眼を見る。
特別な雰囲気を持ったのは居ないな。
止めを刺す。
「小僧、やってることがエグいな」
と、ネコが言ってくる。
「まあ、仕方がないだろ。背に腹は代えられないって奴だ」
「もしかして、スキル強奪の発動制御が出来るようになっているのか?」
するどいな、ネコ。
「まあな、発動しないことの制御だけは出来るようにしたぞ」
「むう、たった一日でか!」
「おう、死活問題だからな。不審者とすれ違った程度で諦めたりしないで頑張ったからな」
森蘭丸とすれ違った件だ。あれもやばかったが俺にとってはスキル強奪の制御が最優先事項だったからな。
「具体的に」
ネコが抽象的な要求をしてくる。
「そっちこそ何を説明してほしいのか具体的に言え」
「やだ」
「じゃあ、俺もやだ」
「むぅ!」
具体的に説明するとこうだ。
俺の経験則になるが、魔物の場合、何か特別なスキルを持ったものは醸し出す雰囲気が明らかに他と異なる。それは鑑定や魔眼がなくても見ればわかる程度に他の魔物と一線を画すものがある。
そういう魔物がいた場合は止めを刺すまえに鑑定の巻物を使って持っているスキルを確認してから殺すか、スキル強奪の発動をしない状態にしてから殺すことにしている。イレギュラーで普通の魔物にそういうのが隠れている場合も考慮して気配察知スキルで全体を把握してから行動に移す。強い魔物、ここでいうところの俺の攻撃を耐えた魔物にも特別なスキルを持ったやつがいる可能性も考慮して今のような行動をした。というところだ。
「そうか、小僧の癖に考えているのだな、感心したぞ」
「まてぃ! 俺はなにも話していないだろうが、どういうことだ!」
「くくく、」
「何がクククだ、ザケンナ」
ネコがこちらを窺うように見ている。
なんだ?




