↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皮肉屋監査官 Fen (フェン)と異能の相棒  作者: Silvertiger
第15話  契約したらニューヨークに派遣されました その3

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/30

第15話  契約したらニューヨークに派遣されました その3

「シャドウ・ヴォルト( Shadow Vault)」

“影の収蔵庫/封印庫”― 聖域に眠る裏帳簿

(副本部長との密談と、総本部長の影魔術の胎動)


 ◆ 北米総本部・臨時会議室


 ――静かな火花が散る、最初の対面

 会議室の空気は、最初から張りつめていた。


 長机の片側には、

 北米総本部副本部長 Jonathan Reyes(ジョナサン・レイエス) とその秘書 ソフィア。

 反対側には、

 フェン(監査役)・ゴンタ・エマの三名。


 さらに、総本部の監査窓口である総務部から、

 係長クラスの担当者が一名、緊張した面持ちで同席していた。



 ◆ 開幕:探り合いの沈黙


 レイエス副本部長が口火をきる。

「……では、まず確認させていただきましょうか。

 本社監査部が“抜き打ち”で来訪された理由を」


「理由は後ほど正式に文書で提出します。

 ただし、現時点で申し上げられる範囲は限られています」


 副本部長は微笑を崩さない。

 だが、その目は明らかに“情報の量”を測っていた。


 総務部担当者がたずねる。

「そ、そもそも……監査対象は、どの部門なのでしょうか?

 当総務部は、事前通知を受けておりませんが……」


「通知を出す性質の監査ではありませんので」


 エマは横で緊張し、ゴンタは退屈そうに天井を見ている。

 ソフィアは一切表情を動かさず、フェンの言葉を逐一メモしていた。



 ◆ フェン、裏帳簿を提示する


 フェンは静かにタブレットを開き、

 復元した“裏帳簿”の一部を画面に映し出した。


「こちらをご覧ください。

 北米総本部の複数部署で使用されていたと思われる、

 非公式な支出記録です」


「!? ま、待ってください。

 当総務部は、このような帳簿の存在を把握しておりません!」



「ええ。あなた方が関与していないことは、

 この記録の“痕跡”からも分かります」


「……では、どこが……?」


「それを調べるために来ています」


 会議室に、重い沈黙が落ちた。



 ◆ レイエス副本部長、総務部担当者を退席させる


 副本部長は、しばらく裏帳簿の画面を見つめた後、

 静かに息を吐いた。



「……総務部の君。

 ここから先は、君の権限を超える内容になる。

 退席してもらえるかな」


「で、ですが……!」


 ソフィアが口を添える。


「副本部長の指示です。

 記録は私が引き継ぎます。どうぞ」


 その声音は柔らかいが、拒否の余地はなかった。


 総務部担当者は悔しそうに唇を噛み、

 深く頭を下げて退室した。

 扉が閉まる音が、妙に大きく響く。



 ◆ 二人きりの本音戦


 レイエス副本部長は、ようやく“本気の表情”を見せた。


「……フェン・ワイルド監査役。

 この裏帳簿、どこまで復元できています?」


「現時点で約七割。

 残りは暗号化と改ざんが混在しており、

 解析にはもう少し時間が必要です」



「なるほど。

 では――本題に入りましょう」


 ソフィアが静かにタブレットを閉じ、

 ゴンタがようやく姿勢を正す。


「この裏帳簿……“誰が作ったか”について、

 あなた方は既に“当たり”をつけているのでは?」


「……可能性は、あります」


「その“可能性”を、私にも共有してもらえますか」


 フェンは一瞬だけエマを見る。

 エマは緊張で肩をすくめたが、しっかり頷いた。


「では――ここから先は、

 北米総本部の内部統制に関わる重大事項として扱ってください」


「もちろんです」


 会議室の空気が、さらに重く沈む。

 副本部長の“本音”とフェンの探り

 会議室には、先ほどよりもさらに重い静寂が落ちていた。

 副本部長は裏帳簿の画面を見つめたまま、

 指先で机を軽く叩いて思考を整えている。

 フェンは、その“間”を逃さなかった。



◆ フェン、静かに踏み込む


「レイエス副本部長。

 この裏帳簿について、

 あなたはどこまで把握していたのですか?」


 ソフィアの手が一瞬止まる。

 ゴンタは興味深そうにフェンを見た。

 副本部長は、驚いたように眉を上げたが、

 すぐに穏やかな笑みに戻った。


「……率直ですね。

 さすが“本社監査役”だ」


「率直でなければ、

 ここまで来る意味がありませんので」


 副本部長は小さく息を吐き、

 椅子に深くもたれた。


 ◆ 副本部長、穏便に済ませたい“本音”を漏らす


「まず最初に言っておきます。

 私は、この裏帳簿の“存在”は知っていました。

 しかし――“中身”までは知らなかった」


「存在だけ、ですか?」


「ええ。

 総本部長一派が“何かを隠している”ことは、

 薄々感じていました。

 ただ、彼らは私に一切情報を共有しなかった」


「理由は?」


「簡単ですよ。

 私が彼らの仲間ではないからです」


 ソフィアが静かに頷く。


「私は北米総本部を守りたいだけです。

 派閥争いに巻き込まれる気はありません。

 だからこそ――

 この件はできるだけ穏便に済ませたい」


 フェンはその言葉を聞きながら、

 副本部長の“嘘の気配”を探る。

 だが、今のところ矛盾はない。



 ◆ 副本部長、裏帳簿の“背景”を語り始める


「裏帳簿の内容……

 あなた方はどこまで復元したのですか?」


「支出の流れと、

 複数部署を跨いだ“資金の移動”までです」


「なるほど。

 では、私が知っている範囲をお話ししましょう」


 ソフィアが資料を開く。


「総本部長一派は、

 北米総本部の予算を“別枠”で動かしていたようです。

 名目は“特別プロジェクト”。

 しかし実態は――」


「裏金作り、ですか?」

 

「それも一部でしょう。

 ただ、もっと厄介なのは……」


 副本部長は声を潜めた。


「“証拠の消失”に関わる資金があることです」


「ええ。

 あなた方が持ってきた裏帳簿の“前段階”で、

 大量のデータ消去が行われている。

 それも、通常の削除ではなく――」


「“痕跡を残さない”タイプの消去ですね」


「その通りです。

 そして、その作業を担当していたのは……

 総本部長の直属チーム」


 フェンの目が細くなる。



 ◆ フェン、核心に迫る


「レイエス副本部長。

 あなたは、その“消去作業”に関与していませんね?」


「断言します。

 私は一切関与していません。

 むしろ――

 止めようとして、排除された側です」



「副本部長は、総本部長一派から

 “情報遮断”されています」


 フェンは、ようやく確信した。

 ――この副本部長は“敵”ではない。

 ――だが、“味方”としても完全ではない。

 彼はただ、

 組織を守りたいだけの現実主義者だ。



 ◆ 副本部長、決定的な情報を渡す


「監査役。

 あなた方が追っている裏帳簿……

 その“本体”は、まだ別にあります」



「……本体?」


「ええ。

 あなたが復元したのは“コピー”。

 本物は――

 総本部長の私室金庫に保管されています」


 ゴンタが立ち上がりかけた。

「フェン、行こうよ。今すぐ取ってこよう」


 フェンが叱る。

「黙りなさい」


 副本部長は苦笑した。


「本物を押さえない限り、

 この件は終わりません。

 そして――

 あなた方が来たことは、既に総本部長に伝わっています」


 会議室の空気が一気に冷えた。

 ここから先は、

“監査”ではなく“戦い”になる。


 ――翌日の“面談”を前にして

 副本部長が裏帳簿の説明を終えたあと、

 会議室には、重い沈黙が落ちていた。


 フェンは、その沈黙を破るように口を開いた。



 ◆ フェン、核心に踏み込む


「レイエス副本部長。

 明日の総本部長との面談……

 私たちが無事に帰れる保証はありません」


 ソフィアが息を呑む。


「……そこまでのことを、彼らが?」


「裏帳簿の“本体”を押さえられたくない。

 そして、私たちが持つ“記憶”も邪魔になる。

 彼らにとっては、

 証拠も証人もまとめて消すのが最も効率的です」


 副本部長は眉間に深い皺を刻んだ。



 ◆ ゴンタ、静かに“現実”を突きつける


「副本部長さん。

 フェンに何かあったら……IRS(Internal Revenue Service:米国合衆国内国歳入庁)は黙ってないよ」


「……IRSが、そこまで?」


「IRSってね、税金のことだけ見てる組織じゃないんだ。

 “国家の信用”を守るためなら、企業一つくらい平気で潰す」


 ソフィアが息を呑む。


「フェンは今、裏帳簿の“一次証拠”を持ってる。

 これはIRSから見れば、

 内部告発者と同じ扱いなんだよ」


「内部告発者……?」


「そう。

 内部告発者が“監査直前に消える”っていうのは、

 IRSにとって最悪のシナリオなんだ。

 “証拠隠滅のために殺された”って判断される」


 フェンがゴンタの言葉を補足する。

「IRSは、内部監査担当者の失踪を

 “組織ぐるみの犯罪”とみなします」


「だからフェンが消えたら、

 IRSは“会社全体”を敵と認定する。

 北米総本部だけじゃなく、

 本社も、海外支社も、全部まとめて」


 副本部長の顔色が変わった。



 ◆ フェン、冷静に補足する


「レイエス副本部長。

 IRSは“監査官の安全”を最優先します。

 監査官が失踪した場合、

 FBI、国土安全保障省、連邦裁判所が一斉に動きます」


 ソフィアが声をあげる。

「そ、そんな……国家レベルの……」



「ええ。

 そして主任税務調査官のジョーンズ氏は、

 “不正を見逃した組織は存在させてはならない”

 という思想の持ち主です」


「フェンが消えたら、

 ジョーンズさんは“会社を更地にする”よ。

 あの人はそういう人なんだ」


 副本部長は震える手で眼鏡を押し上げた。


「……つまり、

 監査役が消されれば、

 我々は“国家の敵”になる……?」


「その通りです」



 ◆ ゴンタ、最後の一押し


「だから副本部長さん。

 フェンを守ることは、

 会社全体を守ることなんだよ」


「私たちは北米総本部を潰しに来たのではありません。

 守りに来たのです」


 副本部長は深く息を吸い、

 ゆっくりと頷いた。


「……分かりました。

 私はあなた方に協力します。

 総本部長の暴走を止めるために」


 ソフィアも同意する。

「副本部長……!」


「ありがとうございます。

 これで、明日の面談に臨めます」



 ◆ 同じ頃――総本部長室


 総本部長室の照明は暗く、

 机の上には乱雑に積まれた資料と、

 黒い“影”が揺らめくような気配が漂っていた。


 Alexander Crowley(アレクサンダー・クロウリー)総本部長が”影”の動きを見つめる。

「……まだ制御が効かんのか」


 Marcus Kane(マーカス・ケイン)秘書課長が悔しそうに答える。

「申し訳ありません……

 “影喰い”は、刺激を与えると暴走の恐れが……」


「明日の面談までに安定させろ。

 あれが使えなければ、

 監査役どもを消せんではないか」


「は、はい……!」

 クロウリー総本部長は苛立ちを隠せず、

 机を拳で叩いた。


「……フェン・ワイルド監査役。

 明日、お前の“影”ごと消してやる」

 黒い影が、かすかに震えた。



————————————————————————————————————


 ――同じ頃、ワシントンD.C.


 IRS主任税務調査官のジョーンズは、

 深夜のオフィスで缶コーヒーを開けた。


「……地球の企業は、今日も忙しいな」


 書類を一枚めくり、

 静かにため息をつく。


「ま、仕事だからな」


 淡々とした声には、

 怒りも焦りもない。

 ただ、職務を遂行する者の静かな重みだけがあった。

 彼は缶を置き、

 次の書類に手を伸ばした。

 ――それだけのことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。