表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/16

プロローグ

 かつ、と。

 空を、音を立てて剣が舞った。

 それが、決着だった。


 帝都魔導院、野外演習場。

 それは、入学に際しての儀礼として行われる、新入生同士の模擬戦、その一幕。


 そのシンシャ・ランドバーク。

 魔導の大家に生まれ落ちた、本期生の星。

 幼年学校より魔導の才を如何なく発揮し、成績優秀にして眉目秀麗な少年。性格は快活にして人望厚く、公的な記録において、立ち合いにおいては無敗。


 その天才と相対するのは、同じく今日の魔導の隆盛の立役者となったクロノ家。その分家の裔たる、グレア・アンティキラである。

 家格は低い。当人自身には、少なくとも外部においては、悪評も無い代わりに勇名も耳にしない。

 魔導院には、本年より編入された。

 そんな、男子生徒だった。


 注目は、自然前者に集まった。

 誰もが、シンシャ・ランドバークの勝利を疑わず、彼との縁作りのため、それがための話題やきっかけ作りのため、諸先輩や教師などが見守っていた。


 その見立てが、覆る。

 全試合中、最長最多の応酬の末に、弾き飛ばされた剣――もとい魔力出力装置『クラドス』は、シンシャのものだった。


 それが地に落ちてくるまで、場は静まり返っていた。

 誰もが呆然としていた。

 観客も、シンシャも。

 そして、刃を跳ね上げた、グレア自身も。


「やっべぇ〜……」

 その彼は、思いがけず拾った勝利に喜ぶことなく、むしろ気まずげに頬を引き攣らせ、目を伏せた。周囲や自らに宗家が求めていたものを、知っていたればこそ。

 誰も、己の勝利など望んでいないことを知っていたからこそ。


 伏せた先に、シンシャの姿があった。

 瞳を閃かせて、じっとグレアを見つめていた。


 空の蒼さを普く写し取ったかのような、美しい瞳。

 思わず取り込まれそうになる、深い色味を、しばし忘我したまま、見つめ返していた。


「うん、負けた」

 他人事のようにあっけらかん、シンシャは言った。

 裁定役の教師でさえ言葉を失っている中、敗北を認めたのは、他ならぬ本人だった。


「君、強いね。それに、面白い」

 そして嬉しげに頬を緩め、好奇に目を輝かせて、グレアの周囲を巡り、あるいは顔を覗き込む。

 意外に、身長差のある二人であった。対すればシンシャはグレアの懐中に余裕で潜り込め、シンシャが背に回り込めば、目いっぱい爪先立ちしてようやく肩を並べられる。

 

 ――駄目だ。

 この目と笑みを見ていると、訳も無く胸がざわめく。

 グレアは、軽い一礼の後、逃げるように足早に、その場を後にする。


 一体、どちらが勝利者なものやら。

 停まっていた時が一気に動き始めたように、グレアの背ではどよめきが広がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ