プロローグ
かつ、と。
空を、音を立てて剣が舞った。
それが、決着だった。
帝都魔導院、野外演習場。
それは、入学に際しての儀礼として行われる、新入生同士の模擬戦、その一幕。
そのシンシャ・ランドバーク。
魔導の大家に生まれ落ちた、本期生の星。
幼年学校より魔導の才を如何なく発揮し、成績優秀にして眉目秀麗な少年。性格は快活にして人望厚く、公的な記録において、立ち合いにおいては無敗。
その天才と相対するのは、同じく今日の魔導の隆盛の立役者となったクロノ家。その分家の裔たる、グレア・アンティキラである。
家格は低い。当人自身には、少なくとも外部においては、悪評も無い代わりに勇名も耳にしない。
魔導院には、本年より編入された。
そんな、男子生徒だった。
注目は、自然前者に集まった。
誰もが、シンシャ・ランドバークの勝利を疑わず、彼との縁作りのため、それがための話題やきっかけ作りのため、諸先輩や教師などが見守っていた。
その見立てが、覆る。
全試合中、最長最多の応酬の末に、弾き飛ばされた剣――もとい魔力出力装置『クラドス』は、シンシャのものだった。
それが地に落ちてくるまで、場は静まり返っていた。
誰もが呆然としていた。
観客も、シンシャも。
そして、刃を跳ね上げた、グレア自身も。
「やっべぇ〜……」
その彼は、思いがけず拾った勝利に喜ぶことなく、むしろ気まずげに頬を引き攣らせ、目を伏せた。周囲や自らに宗家が求めていたものを、知っていたればこそ。
誰も、己の勝利など望んでいないことを知っていたからこそ。
伏せた先に、シンシャの姿があった。
瞳を閃かせて、じっとグレアを見つめていた。
空の蒼さを普く写し取ったかのような、美しい瞳。
思わず取り込まれそうになる、深い色味を、しばし忘我したまま、見つめ返していた。
「うん、負けた」
他人事のようにあっけらかん、シンシャは言った。
裁定役の教師でさえ言葉を失っている中、敗北を認めたのは、他ならぬ本人だった。
「君、強いね。それに、面白い」
そして嬉しげに頬を緩め、好奇に目を輝かせて、グレアの周囲を巡り、あるいは顔を覗き込む。
意外に、身長差のある二人であった。対すればシンシャはグレアの懐中に余裕で潜り込め、シンシャが背に回り込めば、目いっぱい爪先立ちしてようやく肩を並べられる。
――駄目だ。
この目と笑みを見ていると、訳も無く胸がざわめく。
グレアは、軽い一礼の後、逃げるように足早に、その場を後にする。
一体、どちらが勝利者なものやら。
停まっていた時が一気に動き始めたように、グレアの背ではどよめきが広がり始めていた。




