諦観
まさかの2日間連続更新
メシアはひとしきり泣くと、もう大丈夫、とハルマに向けて笑って見せた。目は赤く腫れていたのだが、ハルマはメシアの意思を汲むことにした。
ハルマはメシアの向かいの椅子に座り直す。
「少し気になったんだけど、あんたの世界でこういうの…あったりするのかい?」
メシアは弱々しい声で尋ねる。こういう問題にはデリケートなのだろうに、彼女は首を突っ込んでくる。
「…無いわけないだろ」
ハルマは大きなため息と共に小さく言った。
「…で、でも、ハルマの世界では、アタシたちみたいな獣人はいないんだろ…?」
「同じ種族同士でやってんだぜ? バカみてぇだろ?」
ハルマは皮肉混じりに苦笑する。
皮肉と言うより、自虐的、と言うべきか。
「やれ肌の色が違うだ、やれ考え方が違うだ…ましてや性別が違うってだけで始める始末だ。生まれちゃいけねぇのかよって話だ」
ハルマの口調からも、段々彼らしさは消えてゆく。
表情からも、光は失せていく。
「どうせ俺みたいなやつは、そうやって蹴落とされて、見下されてくだけなんだよ。救いなんて、あるわけねぇんだよ」
それは、普段の彼からは想像もつかない、ハルマの「深層」だった。ハルマは元々明るい人間だった訳では無い。たしかに、人並みの明るさはあるが、それだけだ。
自分を諦めたからこそ、今の俺があるんだよ。
ハルマは限りなく冷たい声で、聞いたものの心を凍てつかせるような声で、そう言い放った。
「…ごめん」
「…なんだ? お前が謝ることじゃねぇだろ」
ハルマは、何も見ていない目でメシアを見た。
「いや、なんか、辛いこと思い出させちゃったのかな…って」
「それはお前もだろ。気にしないでくれ」
その言葉を最後に、2人の間には会話がなくなってしまった。雰囲気に耐えられないのか、メシアはもぞもぞと、椅子の上で動き続けている。
ハルマはそれを気にも留めず、窓の外を死んだように眺め続けていた。
窓の外は赤く染まり、1日の終わりも近づいていた。
「…どうするんだい? 今日は」
ようやく会話の糸口を見つけたとばかりに、メシアは切り出す。
「どうする…って?」
「いや、この時間になっちゃ帰るにも危険があるだろう? 宿とか、こっちでとってあるのかい?」
メシアは必要以上に慌てて、早口に言葉を紡ぐ。あの空気に戻したくないのだろう。
「…そうかぁ…たしかに宿とかはとってねぇな」
対するハルマは、いつも以上にゆっくりと思考を動かす。それを見ているメシアのかかとはだんだんと地面を打ち始める。いわゆる貧乏ゆすりと言うやつだ。
「…ほんとに、どうするんだい?」
今にも、会話を途切れさせたくない、とでも言いそうな勢いで、メシアはハルマに尋ねる。
「………ほんとに、どうすっかなぁ」
もはやハルマの思考は動いていなかった。
「ほ、ほんとにごめんって! アタシが悪かったよ!!!」
空気に耐えられないメシアが、ハルマに謝る。
「…? だから、お前が謝る事じゃねぇって…」
「いや、アタシがあんな話するから……ほんとにごめん」
メシアはそう言うと、ハルマに頭を下げる。そこでようやく目が覚めたのか、
「い、いやいや、頭まで下げなくていいって!」
と、ハルマは慌てて、机に頭突きを食らわしそうな勢いのメシアの頭を押し上げる。
「…じゃ、じゃあ今日はここに泊まることってできるか?」
「…うん、できる。部屋はこっちで用意するよ」
先ほどとは全く別の意味で思考がまとまらなくなってしまったハルマは、勢いで言ってしまったのだが、メシアは意外にも、すんなりと受け入れてしまった。




