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救世主

最近、脇役を脇役じゃなくて『作者に目を向けられなかった方の主人公』って思うようになってきた。

「よく来たねぇ! あんたらがビャクヤの言ってた客かい!?」


と、その時、ワニの背中から威勢のいい女性の声が響いた。

遠すぎて容姿はわからない。ていうか、目よすぎだし声でかすぎだろ!!


ワニが近づくにつれ、女性の姿も見えてきた。

褐色の肌に、整った顔立ち、腰まで届いている長い髪は顔の右半分をおおっている。服装は、黒っぽい十二単(じゅうにひとえ)といった感じだ。重くないのか。


「お、おっす」


ようやく会話出来る距離まで近づいたため、とりあえずハルマが声をかける。


「あははは、そんな固くならなくていーって!! ビャクヤの紹介なら迎えてあげないとねぇ」


ワニから馬車に飛び移った女性は、ハルマの肩をバンバンと叩く。女性とは思えない高身長に、ものすごい力だ。でも、一応手加減をしてもらっているのはなんとなくわかった。


…ハルマも身長が低い方ではない。それよりも高身長な女性ってなんなんだよ。ハルマの頭が肩くらいにしか届いてねぇじゃねぇか。僕なんか胸くらいにしか届かねぇんじゃねぇの?


…まて、十二単着て跳ぶとか身体能力やばすぎないか。


「にしても、ワニが潜ってたように見えたんすけど…どうやってアレに乗ってたんすか?」


「敬語じゃなくていいよ…」


女性は露骨に顔を顰める。敬語を使われるのが苦手なタイプの人なのだろうか。


「アレに関しては背中だけ出してもらって、そこに乗ってたんだよ、三角座りで」


「最後いらないと思う」


「いやぁそのツッコミを待ってた!!」


女性は両の手の人差し指をハルマに向ける。

見た目に反してそれはそれはお茶目な人らしい。


「まぁ、いいや。とにかくアタシの店を紹介してくれるなんて、ビャクヤにも見る目がついたもんだねぇ」


「あ、そうだ、これなんだけど、なんなのか分かるか?」


そう言ってハルマは、ポケットからあの紙を取り出す。ビャクヤがくれた何も書いていないあの紙だ。


「んー? あぁ、ビャクヤらしいや。でも、なんであんたらこれがなんだか分からなかったんだい?」


女性は不思議そうに首を傾げる。

だが、直ぐに手を打ち、思い出したようにあぁ、と言う。


「あんたら、もしかしてウィザードいないな!?」


「いやいるけど」


「あれぇ!?」


ハルマの答えを聞き、女性は愕然とする。


「あ、もしかして日が浅いとか!!」


「そうだな、だって一昨日だし」


「一昨日!?」


そう。一昨日である。


「あー、そりゃわかんないわ。これね、ウィザードのあいだで重宝されてる連絡手段なんだよ」


「そうなのか?」


「そーそー。アタシとビャクヤは元々ウィザードだったからねぇ」


「マジか!?」


目の前の女性はなんとなくそれっぽい雰囲気があるが、ビャクヤがウィザードというのは驚きだ。


「まぁ無理ないよ、あの子の場合、護身術的な意味合いが強いから」


そう言って女性は、その紙をポケットにぐしゃっとねじ込む。とくにそういうところにこだわりはないらしい。


「あぁ、自己紹介がまだだったね! アタシはメシア。よろしく」


「メシア? たしか救世主って意味じゃ…」


「そーそー。アタシが産まれたのってニンゲンからの差別が激化してきた頃だからさ。アタシと同年代には『きっと救ってくれる』って意味合いで、こういう名前のやつが多いのさ」


「…差別?」


どこかで聞いたワードだ。


「そう、差別」


「…おい待て、お前獣人なの!?」


「しーっ!!!!! アタシ表向きでは一応ニンゲンって事になってるからさ、頼むよ」


女性、もといメシアは、両手を合わせて頼み込むポーズをとる。いつの間にか街も近くなっていた。気づかなかった。


「…そうか、てか、人間にしか見えねぇけど」


「うーん、この服装のせいだろうねぇ。まぁ、こうすれば分かるんじゃないかい?」


そういうとメシアは、おもむろに袖をまくった。


メシアの腕の肘より上は、皮膚ではなく鱗に覆われていた。


「それと、ほらこれ」


そう言って、メシアはさらに服の裾をめくる。


そこから出てきたのは、爬虫類を思わせる尾だった。


「…リザードマン?」


「そう。それのかなり人間に近い形だよ」


そういうとメシアは裾を下ろし、袖も元に戻した。

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