第一ラウンド 第二、三試合
闘技場のスクリーンが別の試合映像に切り替わるたび、観客席からは割れんばかりの歓声が沸き起こる。しかし、ジークはそれを壁に寄りかかりながらぼんやりと眺めていた。
どの画面を見ても、規格外の何かが起きている。体が光に溶けるように消えながら背後へ回り込む男や、大地を引き裂いて相手を石の中に生き埋めにする女。この闘技大会に勝ち残っている千三百人は、全員が『深淵の五日間』を潜り抜けてきた猛者たちだ。強さのベクトルが一人ひとり違いすぎて、もはや比較する気にすらなれない。
開けた回廊になっている控え区画では、次の出番を待つプレイヤーたちが思い思いの場所に散らばっていた。壁に背を預けて目を閉じる者、静かにステータス画面を睨む者。誰も声を張り上げたりはしない。ここに残る人間には、死線を越えてきた者特有の静けさが自然と備わっている。
ジークは大剣を背負ったまま石壁に肩を預け、流れてくる映像を流し見していた。傍を通りかかったプレイヤーが無意識のうちに彼を避けて遠回りしていく。自分から近寄りたくない類の気配が出ているのだろうと薄々は分かっていたが、直す気もなかった。
「次、呼ばれてるぞ」
不意に声がし、振り返ると向かいの壁にロウが立っていた。くすんだ革鎧に身を包み、腕を組むいつもの立ち姿だ。
「見てたのか」
「さっきの試合な、スケルトン一体で沈めたのは見事だった。ただ、次は同じようにはいかないぞ」
「分かってる」
「なら問題ない」
それだけ言うと、ロウは視線をスクリーンへ戻した。自分の次の対戦相手を探しているのだろう。
ジークは壁から背を離し、呼び出し口へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
第二試合の舞台へ足を踏み入れた途端、観客席が再びざわめいた。「一試合目の骨使いだ」という声が、実況が開始を告げる前から飛び交っている。
向かいに立つ相手を見たジークは、微かに目を細めた。
長身で細身の男、長い手足の各関節には金と黒の装具が巻きつけられており、それぞれが微かに明滅している。腰に剣を佩いているが抜く気配はなく、両手はただ体の横にだらりと下ろされていた。
その立ち姿には覚えがある。強者が敵を前に余裕を見せる態度とも、戦意がなく無防備になっているのとも違う。何をしてきても対処できるという絶対の確信から来る、完全な脱力。これまで深淵で見てきたどのプレイヤーとも根本的に異なる構えだった。
名前は『カルタ』
スコアランキングの上位陣にはない名前だが、観客席のどこかで「あいつか」と短い声が上がった。
「知ってる奴がいるのか?」
「深淵の序盤で遭遇した連中が、口を揃えて逃げ回ってる相手だ。正面から当たった奴が一人もいないらしい」
「なんでだよ」
「当たらせてもらえないんだとさ。こっちの攻撃が届く前に、全部終わってるって聞いた」
スタンドでそんな会話が交わされる中、実況の声が闘技場に響き渡った。
『第一ラウンド、第二試合! 開始!!』
カルタは動かない。ジークも動かない。
先に動いたのは、ジークの足元の影だった。砂地に滲む漆黒の沼から、異形の巨躯がゆっくりと這い上がってくる。カルタはそのスケルトンナイトの出現をただ静かに眺めていた。驚くことも後退することもなく、骸骨の騎士が完全に立ち上がり、二振りの大剣を構えるその瞬間まで微動だにしない。
「なるほど」
カルタが初めて口を開いた。
「スケルトン……それも、ただの骨じゃないな」
言い終えると同時、彼の足元の装具が一瞬だけ強く発光した。次の瞬間、カルタの姿がブレて消失する。
消えたのではない、超高速で移動したのだ。
スケルトンナイトの背後に出現したカルタは、右腕の装具に蓄積していた魔力を一息に解放した。肘打ちのような鋭く短い動作。だが、そこから放たれた衝撃の密度は異常だった。空気が弾けるような破裂音と共に、スケルトンナイトの右肩の装甲が内側から陥没する。
ドンッッ!!!!外から叩き割ったのではない。衝撃を装甲の内側へ直接浸透させたのだ。
「衝撃を通した! 外側じゃなく、中を壊してるぞ!」
「骨の装甲が内側から砕けてる!!」
それでもスケルトンナイトは倒れない。砕けた右肩に黒い霧が纏わりつき、即座に修復を始める。しかしカルタはその完了を待たず、再び姿を消した。
今度は左、次は真正面、次は真上。目で追える速度ではない。装具に蓄えた魔力を足場にして空間を跳ね回りながら、着地のたびにスケルトンナイトの装甲の内側へ浸透打を叩き込んでいく。
ガツン、ガツン、と硬質で鈍い音が連打されるたび、骨格のどこかが内側から弾け飛ぶ。霧による修復が追いつかず、肩の形が崩れ、胴体の一部に深い亀裂が走り始めた。
だが、スケルトンナイトは止まらない。
崩れながらも前進し、圧倒的な質量の二振りの大剣を振り回し続けている。カルタの移動軌道はほぼ予測不可能なはずなのに、骨の剣先は次々と彼の着地点を正確に殺しにいっていた。
「おい、あの骨……予測してるのか?」
「当たっちゃいないが、軌道が読めてる。毎回ギリギリで避けてるぞ」
「あれ、わざと動かされてるんじゃないか?」
観客席が騒然とする中、ジークは壁際に立ったまま静かに試合を見つめていた。腕を下ろし、視線だけが冷静に戦況をなぞっている。
カルタの動きは速く、そして賢い。スケルトンナイトとの正面衝突を徹底して避け、内側への浸透打だけで崩し続ける戦術は対アンデッドとして極めて有効だ。ただ、一つだけ足りないものがある。
「火力がないな」
ジークはポツリと呟いた。
カルタの手法は確実に効いている。しかし、スケルトンナイトが崩れた分だけ霧が補い、修復が追いつかない分は別の部位が肩代わりする。壊してもすぐ埋まり、埋まった先からまた壊す。泥沼の削り合いだ。
そして同時に、スケルトンナイト側にも『蓄積』がある。カルタが着地し、浸透打を通す刹那。装具の先端がわずかに骨に触れるその一瞬ごとに、腐食の靄が確実にカルタを蝕んでいた。
カルタはまだ、その真の恐ろしさに気づいていない。
スケルトンナイトが大きく踏み込んだ瞬間、カルタは間合いを取り直すために後方への瞬間移動を選択した。しかし、その着地点には既にスケルトンナイトの左腕の剣が待ち構えていた。
「っ!」
カルタが空中で軌道を変えようとする。だが、装具の魔力は底をつきかけていた。魔力の足場がない状態での無理な方向転換が、姿勢を大きく崩す。そのほんの一瞬の隙に、スケルトンナイトの右腕の剣が叩き込まれた。
理不尽なまでの質量を伴った横薙ぎ。カルタの細身の身体が大きく弾け飛び、砂地の上を何度もバウンドする。すぐさま立ち上がったものの、着地の際に装具の一部が砕け散っていた。
「入った! ついに直撃!」
「装具が壊れたぞ! あれがなきゃ移動できない!」
カルタは素早く自身の状態を確認すると、再びあの脱力した構えに戻った。ただ、今度は目つきが違う、余裕ではないが緻密に計算を巡らせる者の冷たい眼差しだ。
「一発でここまで持っていくか」
「お前の骨は、どう考えてもおかしいな」
感情の起伏を感じさせない、ただ事実を確認するような静かな声だった。
カルタは残った装具に最後の魔力を集め始める。左腕の装具だけが、危険なほどの輝きを放っている。
――この一手で決まる、お互いにそれが分かっていた。
カルタが地を蹴る。今度は奇を衒わない、最短距離の突進だ。最後の加速を乗せて正面から飛び込み、スケルトンナイトの胸の中央に装具の先端を押し当てる。浸透打ではない。全力の魔力解放。内側から爆発させるように全てを叩き込む、一点突破の捨て身の一撃。
装具が胸板に触れた、その瞬間……スケルトンナイトの右手の剣が、カルタの側頭部を真横から薙ぎ払っていた。
どちらの攻撃が速かったか、という次元の話ではない。
スケルトンナイトは、最初からカルタのこの最後の一手を待っていたのだ。腐食の蓄積が限界に達し、相手が勝負を急ぐタイミングで正面に引き込み、飛び込んできた瞬間を狩る。最初の交刃から、すべてはその一撃のための布石だった。
ドゴォッ!!という鈍い破砕音が響き、カルタの身体が吹き飛ぶ。胸への魔力解放も確かに放たれていた。スケルトンナイトの胸骨に深い亀裂が走り、黒い霧が一気に噴出する。しかし同時に、全身に爆発的な腐食の一波を受けたカルタは、砂地に沈んだまま二度と動かなかった。
息を呑むような沈黙のあと、実況が絶叫する。
『勝者、ジーク!!』
「あの骸骨が勝ったぞ……ジーク本人はまた一歩も動いてない!」
「二試合続けて戦ってないだと……」
「あんなの許されるのかよ。ルール上は問題ないんだろうけど」
「問題ないさ。ただ、無性に腹が立つだけでな」
砂地の上で、カルタがゆっくりと上半身を起こした。肩から煙を上げ、崩れかけた自身の装具を見下ろしている。
「強かった」
敗者からの素直な称賛だった。感情は薄いが、紛れもない本音だ。
「あの骨なら壊せると思ってた。中から壊してダメなら外から、外からがダメなら内側に通す。時間をかければ崩せると踏んだんだが……お前の骨は、崩れながら同時に俺を誘導していた。気づいたのが遅すぎた」
「そうだ」
「一つだけ聞いていいか」
「なんだ」
「お前は、いつ本気を出すんだ?」
ジークは少しだけ沈黙し、答えた。
「相手次第だ」
カルタは一度だけ静かに頷くと、光の粒子となって舞台から消え去った。
◇ ◇ ◇
回廊へ戻ったジークの耳に、他のプレイヤーたちのヒソヒソ話が飛び込んでくる。
「二試合目も動かなかったぞ」
「次もあの戦法で行けるのかね」
「上位陣は全員が規格外だ。スケルトン一体で押し切れる相手なんて、もう残ってないだろ」
「でもあの骨、どう見ても異常だぜ。ただのスケルトンじゃない」
そんな会話を聞き流しながら、ジークはスクリーンの一つに目を向けた。
別の分散闘技場の映像。画面の端から端まで、動きが速すぎて残像しか見えない。二つの影が何十回も交差し、そのたびに砂が舞い、石畳に亀裂が走る。どちらが攻め、どちらが守っているのかすら判別できない異常な密度の戦闘に、誰もが釘付けになっていた。
片方はロウだった。くすんだ革鎧に、一振りの短剣。彼は闘技場の上でほとんど地面を踏まずに動き続け、重心移動の気配すらない。ただ刃の軌道だけが空気に刻み込まれ、相手のあらゆる攻撃を捌き切っていた。
数秒後、映像の中で何かが爆発した。土煙が上がり、そこから先が見えなくなる。
ジークは視線を外した。ロウの試合がどう決着するかは、今は関係ない。
そう思った直後、別のスクリーンに映った異様な光景が視界に刺さった。
分散闘技場ではなく、中央の舞台に近い規模の大きな闘技場。そこに、双剣を背に納めたままの男がポツンと立っていた。舞台の反対側には誰もいない。さっきまで対戦相手がいたはずの場所に、一切の気配がなかった。
試合が終わっている。観客が今の状況を理解し、どよめくよりも早く。映像が切り替わる直前、男の後ろ姿だけが一瞬映った。
ガロウだった。
背の双剣は抜かれていない、その状態で、既に決着がついていた。
「……おい、さっきの奴、三人同時だったよな?」
「ガロウの試合……誰も何も見えてなかったぞ。開始の合図と同時に終わってた」
「あいつ、何をしたんだ? 剣すら抜いてないのに」
その答えを出せる者は誰もいない。
ジークはその残像を脳裏に刻み込みながら、回廊の奥へと歩を進める。足元の影に沈んだスケルトンナイトが、主の背中を静かに追従していた。
背後で、実況の張りのある声が響く。
『続いて、第三試合の出場者をお呼びします!』
◇ ◇ ◇
第三試合の相手は、舞台に姿を現した瞬間から異質だった。
まず体積が違う。縦にも横にも分厚い。装備の上からでも規格外の筋肉の密度が伝わってくる体格だ。そして右手に握られているのは剣ではなく、人の背丈ほどもある『石柱』だった。先端に金属の縁が嵌め込まれており、それをそのまま鈍器として扱うらしい。
名前は『ヴィス』
深淵のスコアランキング上位に名を連ねる強者だ。観客席の何人かの顔が、明らかに強ばるのが見えた。
「あいつかよ……」
「スコア三位の化け物だぞ」
「魂源が重力系らしい。直接触れなくても、物体をスクラップみたいに圧し潰せるんだと」
重力系の魂源。ジークは歩きながらその情報を脳内で処理した。直接触れずに物体を圧し潰せるなら、骨の装甲を外側から強制圧縮してくるはずだ。カルタの浸透打とは真逆のベクトル。
ヴィスは舞台の中央で足を止め、持っていた石柱を地面に突き立てた。ただそれだけで、ドスンという轟音と共に周囲の砂地がすり鉢状に陥没する。物理的な重さではない。重力を一点に集中させた『圧』だ。
「お前が黒い鎧か」
「ああ」
「二試合とも、一歩も動いていないと聞いた。骨に全部任せているとな」
「その通りだ」
「俺の相手も、その骸骨がするのか?」
「そのつもりだ」
ヴィスは突き立てた石柱から手を離した。石柱は倒れることなく、重力操作によって地面に固定されたまま直立している。
「俺の圧縮が、その脆い骨に通じないと思うか?」
「やってみれば分かる」
『第三試合、開始!!』
開始のブザーが鳴り響く。ジークの足元の影が割れ、スケルトンナイトが這い上がる。それを見たヴィスは、右手を軽く持ち上げた。
瞬間、スケルトンナイトの身体に見えない巨大な力がのしかかった。
周囲の砂地がひしゃげ、ナイトの足元を中心にして円形に陥没していく。上から押し潰しているのではない。全方位から中心へ向けて万力を絞るような、逃げ場のない超圧縮だ。
スケルトンナイトの全身の装甲が、金属が悲鳴を上げるような低い音を立てて軋み始める。それでも骨格は崩れず、亀裂から噴き出した腐食の霧が修復を試みる。だが、ヴィスが指を少し曲げた瞬間、圧力がさらに一段階跳ね上がった。
メキッ、とスケルトンナイトの右肩の装甲が嫌な音を立ててひしゃげた。
ジークの目が細くなる。圧縮の速度が速すぎる。霧の修復が追いつかない。このまま力が強まれば、骨格の中枢ごと圧し砕かれる。
静かに、影へ向けて新たな思念を流し込んだ。
ジークの足元の影が大きく波打ち、そこから新たな二本の腕が這い出てくる。もう一体だ。
現れたのは、通常の人間と大差ない細身のスケルトン。しかしその手には、深淵の奥底で手に入れた禍々しい弓が握られていた。スケルトンアーチャーが出現した瞬間、ヴィスの視線が動く。後衛という存在への警戒から、意識が一瞬だけそちらへ割かれた。
そのコンマ数秒の隙を突き、スケルトンナイトが爆発的に踏み込んだ。
圧縮の力場を強引に引き剥がし、重力の向きに逆らうように全重量を乗せた突進。ヴィスが圧力を集め直すよりも早く、石柱ほどの太さがある腕が振り上げられた。ヴィスは地面を引き上げるように重力を操作して足元を隆起させようとするが、ナイトの脚がそれを容赦なく踏み砕いて前進して、止まらない。
ガガァァンッッ!!
スケルトンナイトの右手の剣が、ヴィスの盾代わりの石柱に激突した。石柱を固定していた重力の力場が乱れ、縛りが一瞬ほどける。すかさず左手の剣が横薙ぎに迫る。ヴィスは大きく後退して直撃を避けたが、石柱の表面を伝った腐食の靄が、彼の手首へ確実に這い上がっていた。
「……伝染するのか!」
ヴィスの声から初めて余裕が消えた。腐食がデバフとして確実に蓄積し始めている。このままでは、精密な重力操作に支障をきたす。
そこへ、スケルトンアーチャーの矢が間髪入れずに飛来した。ヴィスが左手を向けると、空間が歪んで矢の弾道が逸れる。重力による偏向。しかし二射、三射と矢は途切れない。異常な連射速度の前に、飛来する矢を捌き続けることへ意識のリソースを割かれ始める。
「おい、増やしやがったぞ!」
「相手に合わせて戦力変えてきやがった!」
観客席から驚愕の声が飛ぶ。
ジークは相変わらず、舞台の外に立ったまま腕を組んで戦況を見つめていた。スケルトンナイト一体のゴリ押しが通用した一、二試合目とは訳が違う。
ヴィスの圧縮力は、直接触れずとも装甲を粉砕できる。力任せに軍勢の数を増やすより、戦術そのものを組み替えた方が確実だ。ジークは思念でアーチャーへ指示を飛ばす。
スケルトンアーチャーの射撃のリズムが急激に変化した。一定だった間隔が不規則に崩れ、着弾点がランダムに散らばり始める。予測を外されたヴィスの対応が、ほんのわずかに遅れた。
その致命的な隙を縫うように、スケルトンナイトが地を蹴り砕いて肉薄した。
ヴィスは石柱に重力を集中させ、全方位の盾を展開しようとした。石柱が宙に浮き上がり、横向きに回転して分厚い壁となる。だが、その石柱ごと、スケルトンナイトの大剣が叩き割る。
爆音と共に石の破片が飛散し、もうもうと土煙が舞い上がる。煙の中でヴィスが重力を再構築しようとした瞬間、彼の中に蓄積していた腐食のデバフが、ついに閾値を超えた。
操作の精度が落ち、展開しようとした重力場の形が歪み、自身の足元の重力すらわずかにブレた。
その決定的な乱れを、骸骨の騎士は見逃さない。
土煙を裂いて、両腕で大きく振りかぶられた大剣が縦一文字に振り下ろされる。ヴィスはとっさに両腕を交差させて防ごうとする。しかし、腐食で強度が落ちた装甲が、あの理不尽な質量の斬撃に耐え切れるはずもなかった。
ドゴォン!!両腕ごと押し潰されるように後退させられ、ヴィスは砂地の上に力なく膝をついた。
眼前で、スケルトンアーチャーが冷たく矢を番える。
ヴィスは抵抗を諦め、静かに片手を上げて降参の意思を示した。
「……負けたか」
『勝者、ジーク!!』
「三試合連続!! 動かずに勝ったぞ!」
「あのスコア三位のヴィスが手も足も出なかった……!」
「ナイトとアーチャーの連携がエグすぎる。戦況を見ながら完璧にコントロールしてやがる!」
砂地の上で立ち上がったヴィスの腕の装甲には深い亀裂が入り、腐食の残滓が不気味な緑色に発光している。ジークを見遣るその目に怒りの色はなかった。自らの敗北をあっさりと認める、乾いた瞳だった。
「一つだけ聞かせろ。お前は本当に、自分で戦う気はないのか?」
「今のところはな」
「理由は?」
「まだ、その必要がない」
ヴィスは少しだけ考え込み、ふっと鼻で笑った。
「なるほどな。お前のその余裕が、一番腹立たしい」
それだけ言い残し、彼もまた光の粒子となって消えた。
ジークは砂地に残された足跡を一瞥すると、踵を返した。役目を終えたスケルトンナイトとアーチャーが、足元の影へと静かに沈み込んでいく。
次の試合の呼び出しまで、まだ少し時間があるはずだ。
無骨な兜の奥で、ジークの口の端がわずかに吊り上がる。
――これでどこまで行けるか、面白くなってきた。
読んでいただきありがとうございます。
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