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VRMMOで『■■■の龍騎士』になった俺、世界を蹂躙する~ドラゴン×クトゥルフの異質な力は、ただ立っているだけでプレイヤーを狂わせる~  作者: 旅路


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異端の騎士

 俺は別に英雄になりたいわけじゃない、世界を救いたいとか弱い者を守りたいとか、そういうのはない。ただクールでカッコいい、憧れのような人になりたいんだ。


 放課後の教室でスマホをいじりながら、ぼんやりそんなことを考えていた。


 窓の外では運動部が走っていて、教室の後ろでは誰かが笑っている。


 いつも通りの放課後だ。


 俺は鞄を持ち上げると、誰にも声をかけずに教室を出た。友達がいないわけじゃない、ただ寄り道するほど仲がいいわけでもない。


 なにより一人の方が好きだった。家に帰って、適当にゲームをして、寝ていつものように過ごす。


 平凡な生活、それが一番楽だった。


 ただ一つだけ昔から好きなものがある、ファンタジーに出てくる騎士。


 理由は単純でカッコよくて見た目がいいから。

 鎧と剣と靡くマント、あれを着て立っているだけで、なくとなく強そうに見える。


 それにシルエットがずるい!重そうなのに格好いいし、顔が多少微妙でも雰囲気で誤魔化せる。というか八割くらい装備の力だろう。


 英雄とか忠誠とかはどうでもいい。

 ただ写真で見たとき「あ、これ着たら俺でもそれっぽく見えるな」と思った。


 だだそれだけ。


 家に帰ると、玄関に置きっぱなしの段ボールが目に入る。黒い箱の中央に銀色のロゴ、フルダイブ型VRMMO買ったのは初めてだった。


 全世界待望の完全新作VRMMO『エターナルクロニクル』。

 剣と魔法、そして広大な未開拓の大地。

 しかし、カイがこのゲームに求めているものは、世界を救う勇者になることでも、トッププレイヤーとして名を馳せることでもなかった。

 彼の目的はただ一つ。


「最高でクールな『騎士』になること!」


 自室に入って制服のままベッドへ倒れ込み、説明書も読まずに機器を接続し、ヘッドギアを頭に固定して電源を入れ、視界が暗くなった。


『ジジッ…接続を開始します』


 不思議な声がし、意識を失った。


 ◇ ◇ ◇


 気付けば白い空間に立っている。ただ白くて何もない、しかし自分の手が見えしっかり動き、指先まで感覚があった。


「ようこそエターナルクロニクルの世界へ。あなたの魂の形を、ここに刻みましょう」


 どこからともなく響く、女神のような透明なアナウンス。

 目の前にはプレイヤーネームを設定してくださいと、半透明のシステムウィンドウが、初期状態ののっぺらぼうなアバターと共に浮かんでいた。


「名前か……騎士ぽくてカッコいい名前……ジークにしよう!」


「外見の設定は、まあ中身はどうせ全身鎧で隠れるから無難な感じでいいか、でも体格は良くしとこう」


 身長は自分よりも高く設定し、体格は重い鎧を着こなせるよう筋肉質に調整する。顔の造形にはこだわらず、数分でデフォルトの青年モデルを完成させた。


「次は初期装備と職業の選択だな。ここからが本番だ」


 ウィンドウにずらりと並ぶ職業『剣士』『盗賊』『魔術師』『狩人』

 それらを全てスワイプで弾き飛ばし、彼は迷わず『騎士』の項目をタップした。


 さらに初期装備の選択肢から、動きやすさを重視した革鎧や鎖帷子を一切無視し、最も重量があり、機動力が最低になる『フルプレートアーマー』と『グレートソード』を選択する。


 システムから「重量オーバーによる初期ペナルティが発生する可能性があります」という警告文が出たが、ジークは迷わず「はい」を押した。


「重さこそがロマンだ 金属の重みを感じられない騎士なんて、ただのコスプレだからな」


 満足げに頷く。

 そして、キャラメイクの最終工程。この『エターナルクロニクル』最大の目玉である『魂源アニマ』《固有能力》


 プレイヤーの精神波、深層心理、行動の傾向、そして「何に強く惹かれているか」をシステムがスキャンし、数万種類の中からそのプレイヤーに最も適した能力を自動生成するという、運営が誇る目玉システムだ。


「さあ、来い!俺の魂の形。俺の求める絶対的な『強さ』と『カッコよさ』……!」


 ジークは祈るように手を組んだ。

 彼の脳裏に浮かんでいたのは、強大な力を持つドラゴンのような圧倒的な威圧感と、何者にも揺るがない鋼鉄の騎士の姿。


 システムウィンドウが激しく明滅し、解析のプログレスバーが急速に伸びていく。


 98%……99%……100%。


 その瞬間だった。

 ピピッ、という軽快な電子音が鳴るはずの場面で、鼓膜の奥を直接引っ掻くような、ノイズ混じりの「ザガッ……」という異音が響く。


「ん? 今の音、なんだ?」


 目の前のウィンドウが一瞬だけ、赤と黒のノイズに塗れた。文字化けしたような文字列が滝のように流れ落ち、空間全体が奇妙に歪んだように一瞬見えた気がした。


 しかし、瞬きをした次の瞬間には、ノイズは嘘のように消え去り、澄み切った青色のウィンドウが結果を表示していた。


【解析完了】

【あなたの魂源アニマは『■■■の龍騎士』に決定しました】


「……なんだ?大丈夫か?このゲーム」


 眉をひそめた。

 龍騎士という名前はカッコよく、ロールプレイのしがいがある。だが、■■■の文字化けがひどく気になった。


「まあいい、俺の求めていた騎士路線であることには変わりない!よし、これで確定だ!」


【初期地はランダムで選ばれます】

 細かいことは気にしない性質のジークは、迷わず決定ボタンを叩いた。

 再び光の奔流が彼を包み込み、いよいよ本物の大地へと降り立つ。


 ◇ ◇ ◇


「おおおお……! すげえ、風の匂いまで完璧じゃないか」

 のどかな街『アステリア』。

 中世ヨーロッパの城塞都市を思わせる石造りの街並みが、朝陽に照らされて美しく輝いていた。


 周囲にはジークと同じようにログインしたばかりのプレイヤーたちが、あちこちで歓声を上げている。


 まず、自身の体を見下ろした。

 鈍く光る鉄の鎧、関節部分を覆う鎖帷子、歩くたびにガシャリ、ガシャリと鳴る金属音。背中には、彼がオプションで追加した濃紺のマントが風に揺れている。


「完璧だ!たまらないな、この重量感」


 彼は両手で鉄の籠手を打ち合わせ、その硬質な感触に酔いしれた。


 周囲のプレイヤーの中には、初期から重いプレートアーマーを着込んでいる物好きはおらず、身軽な格好の者たちからチラチラと奇異の視線を向けられていたが、ジークにとってはそれすらも快感だった。


「さて、街の案内NPCの話なんか聞いてる暇はないな。さっそく、この大剣の試し斬りといこうじゃないか」


 ジークはチュートリアルクエストを無視し、大股で街の東門へと向かった。


 彼の歩みは力強く、まさに威風堂々たる騎士のそれだった。ただ、彼自身は気づいていなかった。

 街に落ちる彼の『影』が、鎧のシルエットとは全く違う、巨大な鱗翼のような、あるいは無数の蠢く触手のような形に、時折不自然に歪んでいることに。


 ◇ ◇ ◇


 街を出て数分歩いた場所にある『風凪ぎの草原』

 初心者が最初に戦うモンスターである『ホーンラビット』が、のどかに草を食んでいる。


「標的発見。よし、行くぞ」


 ジークは背中に背負ったグレートソードの柄に手を掛けた。ズシリ、とした重み。


(ん……?)


 剣を引き抜こうとした瞬間、奇妙な感覚があった。

 鉄の柄を握っているはずなのに、一瞬だけ、微かに脈打つ「生肉」を掴んだような、生温かい感触が掌を這ったのだ。


「……気のせいか。VRの触覚センサーのバグかな」


 首を振って気を取り直し、一気に剣を鞘から引き抜いた。

 ジャキィィィン! という、金属が擦れ合う美しい音が響き渡る。


 しかし、その高く澄んだ音の裏側で、這いずるような低い唸り声――「グルルゥ……」という、爬虫類の喉の奥から漏れるような音が混ざっていたことに、ジークは気づかなかった。


「はぁッ!スラッシュ!」


 ホーンラビットに向かって突進し、大剣を上段から振り下ろした。


 VRMMO特有のシステムアシストが働き、彼の身体を最適な軌道へと導き、剣の軌跡に沿って剣を振り抜く。


 その瞬間、ホーンラビットがこちらを向く。

 普通のゲームなら、敵対行動を取られたモンスターは向かってくるか、逃げるかのどちらかだ。


 しかし、ホーンラビットの反応は異常だった。

 それはジークの姿を見るなり、全身の毛を逆立て、まるで『この世の終わり』を見たかのように完全に硬直し、ガタガタと激しく痙攣し始めたのだ。


「うおおおっ!」


 ズガンッ!!


 大剣がホーンラビットに直撃し、地面ごと深く抉り取った。普通の初期武器の威力ではない。凄まじい破壊力だ。


 ポリゴンの破片となって消え去るホーンラビット。


 だが、ジークの目には、ポリゴンが四散する直前、ウサギの身体が「内側に向かってブラックホールのように吸い込まれて消滅した」ように見えた。


 剣を振り抜き、肩で息をしながらその威力を噛み締めた。直後、視界の隅にシステムメッセージが浮かび上がる。


【戦闘終了:ホーンラビットを討伐しました】

【対象の精神崩壊を確認。追加ボーナス経験値を獲得しました】


「精神崩壊……? なんだそれ」


 思わずウィンドウを凝視した。

 普通の物理攻撃で倒したはずなのに、奇妙なログが残っている。


「……あ、そうか!」


 ジークはポン、と手を打った。


「これ、『威圧』とか『龍の覇気』みたいなパッシブスキルが隠しで発動してるんだな!? だからウサギが動けなくなったのか。騎士っぽくて最高じゃないか。いや、龍騎士かな? どっちにしろ、このプレッシャーで敵をすくみ上がらせる戦い方……俺にピッタリだ」


 彼は完全に勘違いしていた。

 それが、敵を畏怖させる威厳などではなく、ただ純粋な『生物としての絶対的な恐怖(狂気)』を与えた結果であることに。


「ふふっ……ははは! いいぞ、これ。この調子でガンガン狩っていくぞ!」


 ジークは嬉々として大剣を肩に担ぎ、次の獲物を探して草原の奥へと歩き出した。

 その背中で、陽の光を浴びているはずの銀色の鎧が、ほんのわずかに、深淵のような漆黒のグラデーションを帯びていた。


 誰も知らない、そして彼自身も気づいていない。

『異端の騎士』の物語が、今ここに幕を開けたのだった。


やっと騎士になれたのでテンションが壊れてます。


読んでいただきありがとうございます。

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