41.保科 勇気6
父が探偵に依頼をしているから、報告が来るまで待つようにと言われている。
ただ部屋でじっとしているつもりはなかった。
しかし、何一つとして状況は進展していない。
薄暗い部屋の中で、俺はベッドの上に胡座をかいていた。
手の中にある異質な塊から、どうしても目を離すことができない。
橋田の携帯だ。
液晶画面に表示されたアドレス帳には、数日前から明らかな異変が起きていた。
感染者の名前が連なる不気味なリスト。
そこに記載されている『小林真希』、『黒田健太』の名前が、黒色から赤色に変わったのだ。
こんな現象は今まで見たことがない。
一体、何が起きているんだ。
そして今日になって、『黒田健太』の名前だけが赤から黒へと戻っていた。
まるで、画面の向こう側で持ち主の生死や状態が書き換えられているようだ。
それだけではない。
リストの最下部に、『川端敦』、『仁科海斗』という見知らぬ二人の名前が新しく追加されていた。
どうなっている。
じっとりとした嫌な汗が、首筋を這い下りていく。
感染者が増えれば増えるほど、すべての携帯を同時に回収する計画が難しくなる。
これ以上呪いが広がったら、本当にどうしようもなくなるかもしれない。
ぐう、と腹が低く鳴った。
飯を食うか。
こんな状態じゃ、頭もまともに回らない。
俺は立ち上がり、冷凍のパスタをレンジに放り込んだ。
プラスチックの容器から立ち上る湯気を浴びながら、フォークで麺を口に運ぶ。
それでも視線は、テーブルの上に置いた橋田の携帯に釘付けになっていた。
特に変化はない。
そう思って画面をスクロールさせていた親指が、ピタリと止まる。
何度見返しても、そこにあるはずの名前がない。
細山翔太。
あいつの名前が、アドレス帳から完全に消え去っていた。
まさか。
六枚目の写真を、撮られたのか。
一瞬で血の気が引いた。
俺はフォークを放り出し、急いで自分のスマホを手に取った。
震える指で発信履歴を開き、翔太の番号をタップする。
耳に押し当てたスマホから、無機質な呼び出し音が鳴り響く。
長い。
いつまで経っても、電子音は途切れない。
頼む、出てくれ。
祈るように待ったが、つながることはなかった。
重苦しい静寂が、部屋の中にのしかかってくる。
本当に、何がどうなっているんだ。
スマホを握る手に力が入った時、視界の隅で淡い光が明滅した。
テーブルの上の橋田の携帯が、ひとりでに画面を更新している。
俺は弾かれたように手を伸ばし、再びその液晶を覗き込んだ。
アドレス帳の末尾に、たった今、新しい文字列が浮かび上がったところだった。
黒く、無機質な文字。
吉田俊二。
息を呑む音が、自分の喉の奥で大きく鳴った。
まさか、あの吉田か。
死んだんじゃないのか。
それとも、ただの同姓同名か。
その文字から目を離せずにいると、突然、手のひらで激しい振動が起きた。
自分のスマホが鳴り始めたのだ。
びくっと肩が跳ね、落としそうになった端末を両手で強く握り直す。
液晶画面に、着信を知らせる文字が光っていた。
『細山翔太』
俺は息を詰め、急いで通話ボタンをスワイプして耳に押し当てた。
「翔太か!?」




