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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第二部

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39.北島 玲奈11

「同じ学校だったんですね」


 私は、田中有紀と名乗った彼女の顔をまじまじと見つめた。


「驚いたわ、私は三年」


「一年です」


「でも本当になんで学校に?」


 有紀先輩の細い眉が、険しく寄せられる。


「もう四枚だったでしょ。あと二枚しか猶予がないのに……」


「やっぱり、六枚なんですね」


「あ、そうなの」


 有紀先輩は、少しだけ気まずそうに視線を泳がせた。


「ごめんね、勇気君から変わったことをこの前聞いたばかりだから」


「写真は、今二枚です」


 私は自分の空っぽのポケットに、無意識に触れていた。


「父が減らしてくれました」


「お父さんが……」


 有紀先輩の声が、微かに震えた。


 彼女の脳裏に、何かがよぎったように見えた。


「そう、それでも増える可能性が高い学校に来るのは危険よ」


「そう……なんですけど、父がとりあえず学校は行きなさいと」


「分かった」


 有紀先輩の口調が、急に強くなった。


「今日の放課後に、私が説明に行くから」


「いえ、そこまでしてもらわなくても」


 私は慌てて手を振った。


「それに父も数日帰ってなくて」


「だめ、終わったら連絡するから」


「いま、スマホもないんです」


 父が呪いを引き受けるために携帯を持っていったことを、私は手短に説明した。


 有紀先輩は黙って私の話を聞いていたが、その瞳には暗い影が落ちていた。


「じゃあ、ここで待ち合わせましょう」


 有無を言わさない、強い響きだった。


「来るまで待つわ」


 強引にそう決められて、私は重い足取りで校門をくぐった。


 もちろん、校内での携帯電話の使用は禁止されている。


 それでも、隠れて使う生徒はいくらでもいる。


 いつ、どこでシャッターを切られるかわからない。


 教室の隅で誰かの携帯が鳴るたびに、肩が大きく跳ねた。


 怖くないわけがなかった。


 それでも、家にずっと引きこもっていることなど、私にはできなかった。


 長い一日の授業が終わり、私は昇降口の脇にある日陰に立っていた。


 三年生は、まだ授業が終わらない。


 サッカー部の練習をサボっているせいで、グラウンドから声が聞こえるたびにひどく居心地が悪かった。


 碧が死んだことで、チームメイトたちが気を遣ってそっとしておいてくれるのだけが救いだった。


 コンクリートの壁に背中を預けていると、前方からゆっくりと歩いてくる人影があった。


 だらしなく着崩されたブレザー。


 短く改造されたスカートが、歩くたびに揺れている。


 どこかで見たことのある顔だった。


 その女子生徒は、私の目の前でピタリと足を止めた。


「玲奈じゃん、元気?」


 馴れ馴れしい声だった。


 記憶の糸を、必死にたぐり寄せる。


 知っている。


 絶対に知っているはずなのに、どうしても名前が出てこない。


「まだサッカーやってんの?」


 その言葉で、脳内の靄が一気に晴れた。


 中学生の時の、サッカー部の先輩だ。


「お久しぶりです、吉留真希先輩」


「なんでフルネーム?」


 先輩は、馬鹿にしたように鼻で笑った。


「おもしろっ、真希でいいよ」


 彼女は首を傾げ、自分の胸元を親指で指し示した。


「それに親が離婚してね、今は小林」


 ブレザーの胸ポケットには、小林という真新しい刺繍が縫い付けられている。


「真希先輩……サッカー続けなかったんですね」


「もう十分やったよ」


 真希先輩の目は、笑っていなかった。


「あんたはがんばんなよ、じゃね」


 乾いた足音を残して、真希先輩は振り返ることなく歩き去っていった。


 その背中を見送っていると、急に肩を叩かれた。


「またせたね」


 息を切らした有紀先輩が立っていた。


「行こうか」


「はい」


 私たちは並んで、夕暮れの通学路を歩き始めた。


 オレンジ色の西日が、二人の長い影をアスファルトに落としている。


「私の家から、そんなに離れてないね」


 有紀先輩が、周囲の景色を見回しながら呟いた。


 やがて、見慣れた自宅の玄関にたどり着く。


「ただいま」


 誰もいないと思っていた家の中から、重い足音が近づいてきた。


 数日ぶりに帰宅した父が、無精髭を生やした顔で廊下に立っていた。


 父は無言のまま、ズボンのポケットから私の携帯を取り出した。


 黒い画面が、鈍く光っている。


 差し出されたそれを、私は恐る恐る両手で受け取った。


 冷たいプラスチックの感触が、手のひらに伝わる。


 次の瞬間、父が私の手からスッと携帯を奪い返した。


 カチャカチャと、乾いたタップ音が静かな玄関に響く。


 父は画面を覗き込み、深く息を吐き出した。


「戻ったか」


 その声は、ひどく掠れていた。



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