友情を試そうなんて思わなかったけれど
「何してるの?」
コーヒーカップを2つ持って自室に戻ると、秋華が私のベッドに転がっていた。
「何って、栄養補給」
意味の分からないことを枕を抱きしめながら返してきた。とりあえずコーヒーカップをローテーブルに置いて、ベッドの前まで近寄る。
「相談乗ってくれるって言ってくれたから、家に上げたんだけど」
分かってるのかなぁ~と、秋華をじっと見下ろしながら訴えてみる。すると、枕を抱きかかえたまま上体を起こして、ベッドに座り込んだ。
「分かってるわよ」
と言いながら、座り込んだままの秋華。どうやら動く気がないみたい。
「じゃあ、ベッドから降りてくれる?」
なおも見下ろしながら「ふふふ」と口角だけを上げつつ、目の奥には笑顔を浮かべずに秋華に圧をかけ続けていく。
「もうちょっと、だけ」
「ふ~ん」
「……もうちょっ……と」
「うんうん」
「……もう」
「もういいよね?」
観念したみたいで、名残惜しそうにローテーブルの前にちょこんと座った。何故か枕は抱きかかえたまま。
その姿を見て、指摘してもまた時間の方がもったいないと思った私も秋華の向かいに座り込んだ。
秋華はコーヒーカップに手を伸ばし口元まで運ぶと、上目遣いっぽい視線を私に向け「いただきます」と小さく言うと、ひと口だけ飲みローテーブルへ戻した。
「モカ淹れてくれたんだ」
「うん、秋華が勧めてくれてから私も好きになったから」
そうそう、高校に入学してすぐに秋華と友達になって少し経った頃だった。
だんだんと放課後も一緒に過ごすようになってカフェとかにも行くようになると、いつも同じような浅煎りのコーヒーを好んで飲んでいたことに気づいた私が「ひと口いい?」ともらったのがきっかけで、家ではモカをストックするようになった。
そんなことを思い出していると、秋華から勘違いな返事が返ってきた。
「私を?」
やっぱり桜花の告白後の秋華はおかしくなっちゃったみたい。
「いまそんな話してないよね?」
「ごめん、好きになったって言われてちょっと浮かれてた」
いまこの瞬間、秋華は浮かれているみたい。コーヒーでも浴びせてあげたら正気に戻ってくれるかな?
なんてことを考えていると、その思考が読まれたのか、秋華が「ごめん」と小さな声で謝ってきた。
進まなそうだし、もういいや。そう思って話題を本題に移した。
「これからいままで通り、三人で過ごすにはどうしたらいいかな?」
それから、桜花との恋人関係の保留の話までを聞いてもらった。
「それにさ、秋華にも聞きたいんだけど。その、どうして私のこと……」
好きになったの? と、言葉を続けるのが恥ずかしくなってきて途切れてしまった。
顔が赤くなっているのを隠すために俯くと、秋華は私が何を聞きたかったのかを理解してくれていた。
でも、聞きたかった真相は違うものだった。
「こんな想いを抱くなんて思ってもみなかった」
顔を上げると、秋華が優しく抱きかかえていた枕をぎゅっと抱きしめ、一度顔を埋めてから視線を外しながら吐露するように言葉を続ける。
「いつもいつもあんだけ『好き好き』って言われてたら、もしかしたら、近いうちに二奈と桜花がくっつくんじゃないかもって思ったら、嫌だって、私だけが友達のままなんて、また置いて行かれるなんて嫌だって」
秋華は懺悔をするように――――――
「だから、終業式の後に桜花に『二奈のこと、好きなんだ』って、嘘を吐いたんだ」
と、ここにはいない桜花への想いを吐き出した。




