時計の歌
ひとしきりのやり方を学んだ私は、「後は練習あるのみだ」とフールに言われた。
誰かと練習するなら、スタジアムに行けば掛け金無しでの練習も出来るらしい。
部屋から出るとさい、フールに、
「約束通り、僕の話に付き合ってもらうよ」
と言われ、そのまま食堂に連れていかれる。
窓から差し込む光が赤くなっていることに気が付き、外を覗くと、太陽の赤い頭が、大きく地平線を掠めているような時間になっていた。
本当に今日は楽しい日だ。全てが新鮮で面白い。
宿の玄関から一番近い、1と書かれた部屋に案内され、中へと入った。
中はギャンブルをした部屋と同じぐらいの広さで、机とテーブルがセットで10個ほど見えた。前にある段差を視線で移動していくと、正面にはステージがある。とは言っても、一段だけ高さがあるだけの簡素なものだった。
ここに来てから、フールとラピス以外の人とは合わなかったがだ、意外なことにも10人ほどの人が既に席へと付いているのが見える。
私よりも若く、それこそボルドと同じぐらいの年齢の子。はるかに年上で、50歳、60歳…もしかしたらもっと上かもしれない年寄りまで、その年齢層に偏りは見られない。
楽しくワイワイとレーションを食べている人もいれば、一人で黙々と食事をしている人もいた。
そんなワイワイとしている一つのグループに、フールは近付いてく。
「お、フール。遅いじゃないか、もうすぐ始まっちまうぞ」
そのテーブルには二人の男が座っており、片方は毛むくじゃらの大男、もう一人は当の昔に髪の毛を失った、年寄りだった。
フールは、一歩後ろをついてきて私に席を差し出す。
そこに黙って座った。
フールは私の方を見ながら、
「こちら、旅人のアイリさん」
と紹介をしてくれた。
それに対して、席にいた二人へと、
「どうも」
と私は軽く頭を下げた。
「お、旅人さんか。これは面白い話が聞けそうだな、俺はガルダ、こっちのがハゲ」
と毛むくじゃらの男、ガルダが紹介をしてくれるが…
「ハゲ?本名?」
思わず私は口に出してしまう。
「そうじゃよ、旅人さん。ハゲ、本名。そして、私は実際にハゲ・・・わっはははっ、皮肉だろ?」
ハゲがハゲた頭を撫でながら、大きな声を出して笑う。
太陽に照らされて、私は少し眩しく感じた。
手で光を遮りなぎりなら、
「え、えぇ。そうね…」
と少しだけ苦笑しながら、私は返事をした。
どうやら本人は、コンプレックスというよりも、アイデンティティとしているようだ。
ハゲの笑いが収まり、少し会話の空間が空いたところで、
「で、余談とは何ですか?」
とフールに尋ねた。
「ま、アイリさん。待ってください、コンサートの後で」
「コンサート?そういえばステージみたいなものが…」
私は視線を前のステージに向けた。
丁度そのタイミングで、ステージ横にある扉が開いた。
粗末のドアを開け、食堂へと入ってきたのは、ここのオーナーであるラピスであった。
彼女のサラサラとした金色の髪が、窓から入ってくる夕焼けでオレンジ色の煌めく。
そのまま、ゆっくりとステージの中央にまで歩き、ラピスは気を付けの姿勢を取ると、
「では、週に1度の催し物を始めさせていただきます」
と透き通るような声を出した。
彼女の声は、外から入ってきた風に乗り、部屋の中を駆け巡る。風の通り道に従い、口を開いていた人は、順々に黙ってステージの方を向き始めた。
部屋にいる全員の視線が、ラピスへと集まる。
ラピスは、右から左へと視線を泳がせ、大きく息を吸い込むと、いっきに吐き出した。
#####################
時計の針
作詞 不明
作曲 不明
時計の針が0時を示す
それなのに、星1つさえ見えない
時計の針が12時を示す
それなのに、太陽の光は浴びられない
私はどうすれば良いのか
貴方に知らせるべきなのだろうか?
きっと罰なのだろう
この歌にのせて、真実を届けておくれ
教えておくれ、皆の願いを…
#####################
その歌声は、耳ではなく身体へと直接染みわたっていく。部屋の中を音符が走り、楽しそうに、そして悲しそうな表情を見せる。
音楽という水を飲んだというよりは、メロディーの温泉にどっぷりと使ったような感覚がした。
不意に身体が寂しくなったのを感じると、ステージの上で、ラピスが丁寧に頭を下げているところだった。
その短い曲は、より短く感じられ、私の中に何かを置いていった。そんな気がした。
誰もが余韻を楽しんでいるようで、ラピスが部屋を出ていった所でようやく拍手がまばらに起こる。
かくいう私も、その拍手に合わせて、身体が水の中から引きずりだされた。
拍手が終わると同時に、
「いやー凄かったな」
とガルダは口を開いた。
続けてハゲも、
「うんうん。このために生きてるってもんよ」
と頷いた。
しかし、フールだけは神妙そうな顔で腕を組んで顔を下へと向けている。
美しい歌に感動し、余韻を楽しんでいる…という分けではなさそうだ。
不思議に思い、私はフールの肩を叩くと、
「どうしたの?」
と尋ねた。
フールは腕を組んだまま、顔を私の方へと向けた。
「この曲、どう思う?」
「どうって、感動したとしか言い表せないけど」
「違う。歌でなくて。歌詞の方。僕は、明らかにラブソングで間違いないと思う」
「昔の人が作った曲なら、別に不思議はないんじゃない?」
彼が、フールが疑問に思うのも仕方がない。
ボルドの兄貴に彼女がいた話についても同じである。
何故なら…この時代の女性は、子供を産むことが出来ない。
メリークリスマスです!
皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
僕は飲みにいってます
それと、次が非常に強い話となっています
1章はここを書くための盛大なまえふりでした




