(26) エピローグ
ラドヴァンは、降伏した王国正規軍を全員、許した。
彼らの罪を問うよりも、彼らの力を王国復興に利用すべきだと考えたのだ。
さらに、王都へ向かう途上にて、彼らの武装を解除せず、そのまま同行することを許した。
何人かから反対されたが、ラドヴァンは押し切った。
ラドヴァンからすると、彼らが反乱を起こす確率は低いし、起こしたとしても旗印はもういない、と冷静に考えていた。
だがこれで、王国正規軍はラドヴァンの度量に深く感じいる。
王都の門は閉ざされることなく、開かれた。
シルヴェストルが死んだ今、ラドヴァンに抵抗する無意味さを誰もが知っていた。
ラドヴァンが王城に入城していく姿を見て、多くの人々が歓声をあげた。
悪評高かったシルヴェストルよりも、亡きオタカル二世の実子であるラドヴァンの方が彼らには親しみやすかった。
もちろん、ラドヴァンの政治が乱れれば、彼らの歓声は怒号へと変わるだろう。
ラドヴァンは醜悪なものを見せられることになる。
シルヴェストルの側近であったエスラフが降伏してきた。
シルヴェストルの妻子であるマデーラ、アルフレート、イアナ三人を手土産にして。
王都、玉座の間にてラドヴァンはエスラフと相対する。
「ラドヴァン陛下、どうかこれにて、エスラフの罪をお許しください」
平伏するエスラフをエドゥアルドを始めとする諸侯、将官達は、汚らしいものでも見るような目つきで見ていた。
ラドヴァンも同様であった。
「貴様の忠誠心とは何なのだ」
ラドヴァンの声は重い。
「仕えるべき主君を間違っておりました。どうか、スターグ将軍のようにお許しをいただければ、懸命に働いてみせます」
「ふざけるなっ! それがしは、仕えている主君の妻子を捕まえるなどといった下劣なことはしておらぬわっ!」
スターグは怒り、叫んだ。
「将軍のいう通りだ。忠誠心の大事さを示すためにも、エスラフを即刻処刑して、首をさらせ」
「ラドヴァン陛下ッ! お慈悲をっ!」
「連れて行け」
エスラフはわめいたが、ラドヴァンの声は冷たかった。
衛兵達がエスラフを力ずくで押さえ、引き立てていく。
ラドヴァンにとって、苦痛なのはここからである。
エドゥアルドが声をかける。
「僭王の妻子をどうされますか?」
「…………」
ラドヴァンはシルヴェストルの子供の年を聞いて、処刑と言い出せずにいた。
たかが、四歳の子供と二歳の子供に何の罪があるのか!
しかし、彼らを生かしておけば、禍根を残すことは間違いない。
苦渋に満ちた表情のラドヴァンを見て、エドゥアルドが進言する。
「セドリアン王国の将来を考えて、見せしめのためにも三人とも処刑にいたしましょう。諸侯の方々、いかがか!」
エドゥアルドは声を張って、諸侯の意見を求めた。
いや、賛同を求めた。
「ベドナジーク侯爵のいわれる通り」
「左様。二度と内乱を起こさないためにも」
諸侯達が口をそろえて、エドゥアルドの意見に賛同した。
「陛下、我ら諸侯はそろって、三名の処刑を求めます。この処刑は陛下の決断ではなく、我ら全員が求めたものなのです」
エドゥアルドがラドヴァンを見る眼差しは、大切な義弟に対するものであった。
「……諸侯の方々、相すまない。僭王の妻子の処刑に関する指令は、私自らが出そう」
ラドヴァンはエドゥアルドの優しさに甘えることを潔しとしなかった。
(国王である俺が決断すべきことだ……)
「シルヴェストルは反逆者であり、国王としては無論、公爵としても認めがたい。全称号を剥奪する。だが、彼とその妻子は同じ場所に男爵としての礼で丁重に葬ってくれ」
「……かしこまりました、陛下」
エドゥアルドは異を唱えなかった。
諸侯達も将官も。
◇ ◇
エドゥアルドは王国宰相に任命された。
ラドヴァンは彼の識見を高く評価し、彼の助言を受けて、セドリアン王国再興をすすめていくことになる。
シルヴェストルに味方した諸侯からは封土を召し上げた。
セルディフ侯爵など、深い関係があった家などは取り潰した。
それらの封土、家産を勲功厚い諸侯に褒賞として与えることにする。
だが、主に北西部を中心とした北部の所領を南部の諸侯が受け取っても、飛び地となり、うれしくはない。
そこで、南部の王国直轄地と北部の飛び地を交換する事になる。
これで、北部は王家直轄地が増え、南部は諸侯の勢力が強まる。
ラドヴァン=ルミール王が築いた王国全盛期では何の問題もなかった。
しかし、王国が衰退した時、これが原因となり、南部は半独立状態となる。
スターグ将軍は序列第一位の将軍となったが、五年後には元帥となり、実戦から遠のいた。
彼を実戦に出させないようにした苦肉の策であった。
しかし、彼は死ぬまでラドヴァン=ルミール王に仕え、ごくたまに妙策を披露することになる。
ベネシュ将軍は十年後まで、一線で活躍し続けることになる。
ムラーディス帝国で行われた帝位継承戦争にセドリアン王国が介入した際も、彼は大活躍した。
彼もまた元帥となり、ラドヴァン=ルミール王の下で歴史に名を刻んだ。
ジャネッタ=ブラフタ=ツァロシュは連隊長まで昇進し、二十二歳の時にある騎士と結婚し、退役した。
その騎士は、帝位継承戦争であげた戦功で将軍にまで昇進する。
彼女は五人の子供に恵まれ、家名を存続させ、穏やかに老いていき、死を迎えた。
カリーヌ=アビーク=バルディンは四年後に、彼女念願の将軍となった。
彼女は指揮する部隊が増えるごとに、活躍を増していった。
四十二歳になった時、セドリアン王国で女性にして初めての元帥となる。
だが、四十七歳の時に彼女は病に倒れて、亡くなった。
枕元には旧友のジャネッタ=ブラフタ=ツァロシュがかけつけ、言葉をかわしたが、その記録は残っていない。
彼女は生涯独身であった。
なので、後世の歴史家の何人かは、彼女が同性愛者だったという主張をする。
だが、確たる証拠は残っていない。
エドゥアルト=ドレク=ベドナジークは、王国宰相として、王国の再建に貢献する。
彼は十五年間、ラドヴァン=ルミール王と歩調を同じくしていた。
しかし、王権強化を志した国王と大諸侯である彼は、立場をたがえる事になった。
国王が登用した平民出身の新興官僚達と彼は激しく対立する。
だが、彼が死んだ時は、ラドヴァン=ルミール王は三日の喪に服すだけでなく、嘆き悲しむ様は尋常でなかった。
ネステル=シラーク=ベドナジークはラドヴァン=ルミール王の王妃として、三人の子供を産んだ。
だが、三人目の子供を産んだ時、危篤状態となり、そのまま帰らぬ人となる。
国王と王妃の間は、死ぬまで仲むつまじいものであり、王妃の死に国王は哀哭した。
ラドヴァン=ルミール王とハギリ=カミノは、国王として『究極の戦士』として、他国と戦い続け、全てにおいて勝利し、セドリアン王国に隆盛をもたらした。
歴史家達は全て、彼を中興の英主と呼ぶ。
だが、彼と彼女の関係については、いくつか謎に包まれている。
ハギリ=カミノと国王が、愛し合っていたのは明らかだ。
しかし、子供を産んだのかどうか、はっきりしていない。
ハギリ=カミノの没年は不明である。
そして、もっとも有名な伝承は「彼女は老いなかった」ということだ。
ラドヴァン=ルミール王は五十六歳の時、ライネートの離宮から姿を消した。
ハギリ=カミノを伴って。
この時が彼の死として扱われることになる。
現在でも真相は明らかになっていない。
王太子フェルディナントが即位し、新セドリアン国王となった。
それから百年以上、チェルノフ朝セドリアン王国が存続することになる。
ラドヴァンの前には、数十年たっても老いを知らないハギリがいた。
「ラドヴァン様、もう十分戦いましたし、後は子供達に任せれば大丈夫です。
さぁ、一緒に参りましょう。」
<完>
最後まで読んでいただいた事に深く感謝いたします。
よければ、評価してやって下さい。
どうも、ありがとうございました。




