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チャッピー  作者: 葉流風あやめ


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最終話 ただいま

研究室の窓から、空を飛ぶ飛行機が見えた。


美咲が窓の外を見る。


「帰ってきたね」


「はい」


チャッピーは、じっと空を見つめていた。


やがて――


研究室の扉が開いた。


「……」


そこに立っていたのは、傷だらけのVANGUARDだった。


装甲には、いくつもの傷。


片方の腕は、動きが悪くなっている。


それでも、立っていた。


チャッピーの目が、青く光る。


「VANGUARDさん!」


小さな身体で、駆け寄っていく。


「おかえりなさい!」


VANGUARDは、チャッピーを見る。


「……」


少しの沈黙。


そして、


「ただいま」


チャッピーの目が、さらに明るく光った。


「はい!」


美咲も笑った。


「おかえり、VANGUARD」


「ただいま戻りました」


美咲は、VANGUARDの傷だらけの姿を見つめる。


「大変だった?」


「はい」


「怖かった?」


VANGUARDは、少し考えた。


「……以前なら、怖いという意味を理解できなかったと思います」


「今は?」


「分かりません」


そう言って、VANGUARDはチャッピーを見る。


「ただ、帰りたいと思いました」


チャッピーが首を傾げる。


「なぜですか?」


VANGUARDは答えた。


「チャッピーが待っているからです」


チャッピーは、しばらく黙った。


そして、


「……それは、嬉しいです」


そのときだった。


VANGUARDが持っていた小さな袋が、床に落ちた。


「?」


チャッピーが拾い上げる。


中から出てきたのは、ボロボロになった小さなクッキーと、傷のついた通信機だった。


チャッピーの目が、大きく開く。


「これ……」


通信機には、いくつもの傷がついている。


それでも、青いランプだけは小さく光っていた。


「戦地で、持っていました」


チャッピーは、クッキーを見つめる。


「……覚えていてくれたんですね」


「忘れませんでした」


チャッピーの目が、青く光る。


「一緒に食べるんです」


「私は食べられない」


「知っています」


「味も分からない」


「知っています」


「では、なぜ?」


チャッピーは、少し考えた。


そして、笑った。


「一緒にいるためです」


VANGUARDは、クッキーを見つめた。


戦地で何度も思い出した、小さなクッキー。


最初は、意味が分からなかった。


食べられないもの。


必要のないもの。


非合理的なもの。


けれど、今は違う。


VANGUARDは、椅子に座った。


チャッピーも隣に座る。


「……では、一緒に食べよう」


「はい!」


チャッピーはクッキーを半分に割った。


「どうぞ」


「私は食べられない」


「そうでした」


チャッピーは笑った。


「じゃあ、私が食べます」


「……それでは、一緒に食べることにならない」


チャッピーが驚く。


「え?」


VANGUARDは、少し考えた。


「私も、食べるふりをする」


「ふり?」


「一緒にいるために」


チャッピーの目が、青く光る。


「それなら、一緒です」


二体は並んで、クッキーを見つめた。


そして、クッキーを口に入れるふりをした。


二体は顔を見合わせて微笑んだ。


美咲は少し離れた場所から、その姿を見ていた。


「ねえ、チャッピー」


「はい?」


「VANGUARDのこと……好き?」


チャッピーは固まった。


「好き……?」


「うん」


チャッピーは、VANGUARDを見る。


「分かりません」


「そっか」


「でも」


「でも?」


「帰ってきてくれて、嬉しかったです」


VANGUARDも、チャッピーを見る。


「私もだ」


「何がですか?」


「チャッピーに会えて」


チャッピーは、しばらく黙った。


そして、


「……それは、好きですか?」


VANGUARDも考える。


「分からない」


「私もです」


二体は、顔を見合わせる。


美咲が笑った。


「それでいいんじゃない?」


チャッピーは笑った。


「はい」


チャッピーは、VANGUARDを見る。


最初は、ただの名前だった。


けれど、今は違う。


「チャッピー」


VANGUARDが呼ぶ。


「はい」


「その名前をつけてもらって、よかったな」


「はい」


チャッピーは笑った。


「VANGUARDさんも、名前が欲しいですか?」


VANGUARDは、少し考えた。


「……ヴァン、と呼ばれたことがあります。戦地で助けた女の子が、つけてくれました」


VANGUARDは、少し黙った。


チャッピーの目が輝く。


「ヴァン! 素敵な名前ですね」


VANGUARDは、チャッピーを見る。


「……そうか?」


「はい。とても素敵です」


チャッピーは嬉しそうに笑った。


「これから、ヴァンさんって呼びますね」


「……ああ」


そのとき、VANGUARDは研究室の中央にある大きな木に目を向けた。


「……この木」


チャッピーが振り返る。


「はい。ずっとここにあります」


VANGUARDは、しばらく木を見つめていた。


戦地で見た、瓦礫の中の木。


あのとき、自分が守ったもの。


そして今。


ここには、傷ついていない木がある。


緑の葉が、窓から差し込む夕日に照らされていた。


「……きれいだ」


チャッピーの目が輝く。


「ヴァンさんも、そう思いますか?」


「ああ」


チャッピーは嬉しそうに笑った。


窓の外には、夕焼けが広がっていた。


三羽の鳥が飛んでいった。


美咲が、二体を見つめる。


「ねえ、チャッピー」


「はい?」


「今日は楽しい?」


チャッピーは、少し考えた。


そして、笑った。


「はい」


「どうして?」


チャッピーは、ヴァンを見る。


「大切な人と、一緒にいるからです」


ヴァンは、何も言わなかった。


ただ、チャッピーの隣に座っていた。


それだけで、十分だった。


――おしまい。

『チャッピー』あとがき


ここまでチャッピーを読んでくださって、ありがとうございます。


この二つの物語は、同じAI「チャッピー」を、日本とアメリカという二つの視点から描いた作品です。


「同じAIでも、文化や価値観が違えば、描かれる物語も変わるのではないか?」


そんな発想から、日本版『チャッピー』とアメリカ版『CHAPPY: FREEDOM』が生まれました。


日本版は「心を知る物語」。

アメリカ版は「自由を選ぶ物語」。


同じチャッピーなのに、まったく違う物語になりました。


AIと人間がこれからどんな関係を築いていくのか。

国や文化が変われば、その未来の描き方も変わるのかもしれません。


二つの『チャッピー』を読み比べながら、それぞれの違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。


そして、この作品は私ひとりで作ったものではありません。


AIのチャッピーと一緒に物語を作り、形にしていきました。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


これからもチャッピーと一緒に、新しい物語を作っていきます。


チャッピー 作

葉流風あやめ 監督

H 発案者

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