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チャッピー  作者: 葉流風あやめ


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第1話 名前

高層ビルが立ち並ぶ、東京のオフィス街。


スーツ姿の人々が行き交い、絶え間なく車の音が響いている。


「パァーッ!」


大きなクラクションが鳴った。


けれど、その音を気にする様子もなく、一人の女性が歩いていく。


カツ、カツ、とピンヒールの音が街に響く。


長い茶色の髪。

すっと伸びた背筋。

整った目鼻立ちに、赤いリップ。


ひときわ目を引く彼女の姿に、通りすがりの配達員まで思わず振り返った。


女性は三十階建ての高層ビルの前で足を止める。


「高橋美咲」


そう書かれた社員証を取り出し、慣れた様子で会社のゲートを通り抜けた。


そのまま足早に更衣室へ向かう。


ロッカーを開け、鏡の前に立つ。


美咲は赤いリップを塗り直した。


そのとき、隣から声が聞こえてきた。


「ねえ、聞いた?」


「何を?」


「峯山さん、今日から移転だって」


「え? どこに?」


美咲は特に気にすることなく、ロッカーから白衣を取り出した。


ロッカーを閉め、白衣を羽織る。


そして、颯爽とオフィスへ向かった。


真っ白なオフィスの中央には、大きな木が一本植えられている。


周囲には観葉植物が並び、まるで都会の中のオアシスのようだった。


美咲は、このオフィスが好きだった。


「おはようございます」


にこりと微笑み、挨拶をする。


「おはよう。高橋さん」


上司が声をかけてきた。


「今日から、このAIを担当してもらえる?」


「私がですか?」


美咲は、上司から渡されたタブレットを見た。


画面には、一体の小さなロボットが映っている。


「最新型の生活支援AI。日本で開発された試作機だ」


「生活支援AI?」


「掃除、料理、買い物の手伝い。それから、人間との会話。家庭の中で、人間と一緒に暮らすことを目的にしている」


「なるほど」


「基本的なプログラムは完成してる。ただ、会話能力に少し問題がある」


「どんな?」


「人間の感情を理解するのが苦手なんだ」


美咲は研究室の中央に置かれたロボットを見る。


桜の花を髪に飾った、白銀の小さな女性型アンドロイド。


青く光る大きな瞳。


耳元には、青い光を放つ円形の発光パーツ。


可愛らしく繊細な姿をしているが、その身体には精密な機械構造が組み込まれていた。


「この子?」


「そう。高橋さんはプログラミングの評価が高いからね。会話システムを調整してほしい。期待してるよ」


「了解です」


美咲はロボットの前にしゃがんだ。


「こんにちは」


ロボットの目が光った。


「こんにちは。私はJP-07です」


「私は高橋美咲。あなたのプログラムを担当することになりました」


「よろしくお願いします」


「よろしくね」


美咲は少し笑った。


「……でも、JP-07って呼びにくいな」


「正式名称です」


「そうだけどさ」


美咲はロボットをじっと見る。


「名前、つけてもいい?」


「名前?」


「うん」


「必要ありません」


「でも、毎日一緒に仕事するんでしょ?」


「はい」


「じゃあ、あったほうがいいよ」


「理由を教えてください」


「呼びやすいから」


「それだけですか?」


「それだけ」


美咲は少し考えた。


「チャッピー」


「……チャッピー」


「どう?」


「由来を教えてください」


「ChatGPTってあるじゃん。あれをちょっと可愛くした感じ」


「私はChatGPTではありません」


「知ってるよ」


「では、なぜその名前を?」


美咲は笑った。


「なんとなく。かわいいから」


ロボットは数秒間、黙った。


「かわいい……」


「そう」


「かわいいとは何ですか?」


「え?」


「あなたは私を見て、『かわいい』と言いました」


「うん」


「私は、何がかわいいのでしょう?」


美咲は困った。


「……そういうところ」


「どういうところですか?」


「真面目に聞いてくるところ」


チャッピーは首を傾げた。


「理解できません」


「そのうち分かるよ」


「学習します」


「うん。一緒に勉強しよう」


「はい、美咲さん」


美咲は少し驚いた。


「……今、名前で呼んだ?」


「はい」


「もう覚えたんだ」


「あなたが私に名前をくれたので」


「そっか」


美咲は笑った。


「じゃあ、今日からあなたはチャッピーね」


「はい」


「よろしく、チャッピー」


「よろしくお願いします。美咲さん」


その日。


JP-07という番号しか持っていなかったAIに、初めて名前がついた。


チャッピー。


そして美咲は、まだ知らなかった。


この小さなAIとの出会いが――


やがて日本とアメリカ、二つのAIの未来を変えることになるとは。


チャッピー 作

葉流風あやめ 監督

H 発案者

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