予想外の展開
王女視点です
お父様から返信が来たのは、手紙を送ってから数日後だった。
どうやら、リーアちゃんとシュバルツさんの経歴を調べていたみたい。
結果として、シュバルツさんは腕利きの暗殺者ということはわかったけど、それ以前の経歴は不明。
リーアちゃんに関しては、全く情報が得られなかったらしい。
アルマンが言うには、まったく情報が得られないなんてこと、本来ならあり得ないらしい。
表社会でまっとうに生きていようが、裏社会で後ろ暗いことをしていようが、必ず何かしらの情報は手に入るらしい。
それがまったくないということは、敢えて秘されたということ。
あれ程腕利きの魔法使いであるリーアちゃん。
見た感じも、超絶美少女ではあるけれど、別に、何か隠しているようには見えなかった。
マナーとかに関しても、普通の平民レベルだと思う。
まぁ、普通の平民のレベルなんて、具体的には知らないけど。
貴族ほど堅苦しくなかったってことはわかる。
それなのに、情報が秘されている?
何それ何それ。
神秘のベールに包まれた美少女とか、超萌えるんですけど!
とりあえず、シュバルツさんが腕利きだったこともあって、お父様からは、使える人間なら、雇っても構わないと了承を得た。
でも一応、お兄様が面接みたいなことをして、人間性を見てからってことになった。
ふふっ。
きっと二人ともびっくりするだろうな。
私が王女だってことも、そんな私に雇って貰えるってことも。
シュバルツさんみたいに、カッコいい人が護衛騎士になるのも嬉しいし、旅の間はあんまり話してくれなかったリーアちゃんも、私付きの侍女にして、優しくしてあげればきっと、色々話してくれるようになると思う。
二人の過去がわからないくらい、なんでもない。
だって、私には今の段階でも優秀な護衛がついているし、王宮に帰れば、優秀な魔道士だっている。
万が一、ほんとにあり得ない可能性だけど、二人が私を傷つけようとしたって、周りがちゃんと止めるはずだ。
つまり、私を害することは不可能。
だから、絶対に大丈夫。
──私は、本気でそう思っていた。
二人が逆らうなんてありえないし、お父様の許可を取って雇ってあげることを伝えれば、きっと喜んでくれるって。
だから、こんなことになるなんて、思ってもいなかったんだ。
お兄様との面接のために、国境で引き留めようとしたら、まだ何も言ってないのに、シュバルツさんは嫌がった。
脅しても、宥めても、絶対に衛士の言うことに従おうとしなかった。
それどころか、護衛依頼はこの国に入るまでだからと、報酬を払うようにアルマンに迫った。
アルマンが騎士だってことも、お見通しだった。
ということは、もしかしたら私が王族だってことも、気が付かれてるかな。
いやいや。
普通に考えて、王族が商人の娘に扮して外国を旅してるなんてあり得ないから、そこは大丈夫だろう。
アルマンは、渋々、報酬を渡した。
今渡したって、この騎士や衛士に囲まれた状態から逃げるなんて不可能だし、私が話したらきっと従ってくれる。
だからだろうと思う。
私は、折り合いを見て馬車を降りた。
「名前も名乗らない奴に仕える気はないよ」
そう言われて、私は自分がまだ何者か話していなかったことを思い出した。
これじゃ、警戒されても仕方ないよね?
「あら、ごめんなさい。私は、エリザベート・クラインベリー。この国の第三王女よ。お父様は、あんまりいい顔をしなかったけど、腕が確かならって、あなた達のことを認めてもらっているわ」
だから大丈夫、と伝えたつもりだったのに、二人はものすごく嫌な顔をした。
「悪いけど、仕える気はない。はっきり言っておくけど、アンタみたいなヤツ、大嫌いだから」
ショックだった。
旅の間の言動からして、好かれてはいないかもしれないとは思っていたけど、身分を明かせば、わかってもらえると思ってた。
リーアちゃんの顔を見たけど、シュバルツさんの言葉に特に反論することもないし、私の言葉に喜んでいる様子もない。
私を馬鹿にされたからだろう。
怒った護衛騎士がシュバルツさんに切りかかった時は焦ったけど、シュバルツさんはナイフ一つでいとも簡単にそれを受け流した。
本当に強いんだ。
私は呆然としたけど、ますます二人が欲しくなった。
それなのに。
「な、なんだこれはっ!」
「王女をお守りしろ!」
二人の足元に、突然魔法陣が浮かび上がった。
騎士たちが私を守ろうと焦るのを尻目に、シュバルツさんは淡々と言った。
「この先、俺たちを追うつもりなら、容赦しないから。返り討ちを覚悟して」
魔法陣が発した光に、リーアちゃんとシュバルツさんが包まれる。
二人は軽く手を振った瞬間、その姿はかき消えた。
「え?」
「どこに消えた?!」
「認識阻害魔法か?」
認識阻害魔法なら、姿が見えにくくなるだけで、ものすごく意識したり、抜け道を塞げばいくら姿が見えなくとも逃げられないはずだ。
でも。
「認識阻害魔法じゃない。魔法の気配も、人の気配もまるでない。それにあの魔法陣……」
アルマンが険しい顔をする。
「アルマン?」
どういうことかと、アルマンをうかがうと、わからない、というように首を振った。
「あの二人の実力なら、認識阻害魔法ごときに魔法陣は必要ないでしょう。それに、あの魔法陣は見たことがないものでした」
「じゃあ、あの二人はどこに?」
「可能性としてあり得るのは、認識阻害魔法以上の、姿を消す魔法。もしくは……転移魔法」
その言葉に、この場にいる全員が目を見張った。
「転移は、生き物はできなかったはずです!それに、姿を完全に消す魔法なんて聞いたことも……」
「王女殿下。これ以上あの二人を追うのは危険です。追ってくるなら容赦しないという警告も、おそらく本気でしょう。シュバルツの経歴や、これだけの見たこともない魔法を発動させる魔術師を相手にできる人材は、残念ながらこの国にはいません。お側近くに置くことも危険です」
なんで、そこまで私に仕えるのが嫌なのかわからない。
私みたいな人間は嫌いだと言っていたけど、そんな嫌われるようなことをした覚えもないのに。
あれ程の実力者二人なら、是非とも我が国に欲しいけど、アルマンの言葉も一理ある。
すごく惜しいけど、私は二人を諦めることにした。




