次の街へ
「そろそろ、次の街に行こうか」
イクスがそう言い出したのは、闇ギルドの仕事を5本ほど受けた頃。
イクス曰く、「ここでの仕事に飽きたから」らしい。
どうやら、闇組織を潰す仕事が多いらしくて、リーアを連れているとどこかで必ず手元から離さないといけないのが嫌らしい。
「二人で行く?それとも、また護衛?」
「二人で行ってもいいけど、少し遠くまで行きたいから、護衛任務で良さそうなの請けようか」
というわけで、二人でこの街一番の大きさの冒険者ギルドに行ってみた。
中はかなり人が多くて、ひょいっとイクスが片腕の上にのせてくれた。
国境の町だからか、やっぱり商隊の護衛任務は結構ある。
「どれが良さそうかな」
「これから暑くなるから、南へ行くのはダメだねー。東に向かってみる?」
「あの、なんとか侯爵領まで行くっていうやつ?」
「そうそう。期間も半月ならまぁいいし、野営はほぼなしって書いてあるしね。あ、ほらそれに、後衛が得意な者は尚良しって書いてあるよ」
リーアは、基本的に戦うときには後衛だ。
結界を張って安全を確保した上で、飛び道具を風魔法で落としたり、前衛で戦っている人の治癒もしたりする。
魔法で遠方から敵を倒してもいいのだけれど、混戦になると仲間を攻撃してしまう可能性もある。
だから、滅多にしない。
依頼書をイクスが引っぺがして、受付に持っていく。
「ギルドカードをご提示ください」
受付の人に言われて、二人でカードを提示する。
イクスとリーアのギルドカードは、偽物ではないけど、目くらまし用だ。
イクスは名前が「シュバルツ」になっていて、あまり高すぎないランクにしてあるし、リーアのカードも、『レッド・アイ』のカードとは別の、リーアの名前で作った物だ。
本来なら、ギルドカードを複数枚持つのは禁じられている。
けれど、「特殊なケース」では、複数枚持つこともある、らしい。
イクスとリーアはその「特殊なケース」に当たるので、あまり気にしないように言われている。
すんなりと依頼を受けることができたので、宿に戻って荷物をまとめる。
依頼書によれば、今回、護衛につく人数は5人。護衛対象は依頼主とその部下の3人。それから、積荷。
出発は明日らしい。
リーアは、旅の途中で読む為に、本屋で買った魔法学についての本を、カバンに入れておく。これまではボックスに入れていたのだ。
本当は、ボックスがあるからカバンも要らないのだけど、まあ、手ぶらでいるのもなんだか寂しいので。
「リー、準備できた?」
「うん。あとは、明日着替えるだけ」
「じゃ、最後にこの街で食事でもしようか」
イクスに誘われて、街に出る。
レストランで食事をしようかとも話していたのだけれど、大通りに立ち並ぶ屋台からいい匂いがしてきて、結局、屋台の食べ物を買い食いすることになった。
ちなみに、イクスとはずっと手を繋いだままだ。
お金を支払うときも、イクスは器用に片手でお金を出して手渡す。
でも、片手はリーアと手を繋いで、片手で買った食べ物を持ってでは、いざというときに困るだろう。
「イクスさん。今だけ、手を離さない?せめて、食べ終わるまで」
「えー。だって、手を離したら、すぐにリーは人混みに紛れちゃいそうだし、それに、万が一にでも攫われたら……」
「じゃあ、イクスさんの服の裾握ってるから。それに、イクスさんがそばにいる限り、攫われたりもしないでしょ?」
「まあ、油断するつもりはないけど……。わかった。じゃあ、もしもリーの手が俺の服から離れたら、すぐに手を繋ぐからね」
なんとか、妥協してもらえた。
「それから、念の為結界を張っておくこと」
条件が増えた。
でも、それだけ心配してもらってるってことだと思うから、別に窮屈には思わない。
むしろうれしいくらい。
「んー?どしたの?リー。そんなにニコニコしちゃって。食べるの楽しみ?」
「食べるのも楽しみだけど」
「だけど?」
「……へへっ、なんでもない!」
イクスは不思議そうな顔をしたけれど、それ以上聞いてこなかった。
基本的に、イクスとリーアの間には、隠し事はない。
嘘もない。
だけど、すべてを伝えることもない。
もちろん、イクスが「知りたい」と望んだときや、リーアが「誤魔化されたくない」と望んだときには、問い詰めてでも聞き出すけれど。
でも大抵、聞き出される前に、相手が望んでいることを察して話すので、無理やり聞き出されたことはないし、聞き出したこともない。
少なくとも、今のところは。
大通りにあったベンチに座って、買ったものを広げる。
「ほら、リー。あーん」
「あー、ん。んんっ、おいしい!」
「良かったねぇ」
「はい、イクスさんも」
互いに、食べさせ合う。
二人だけの穏やかな時間。
イクスは食べる量が多いし、食べるのも早い。
イクスの話によれば、食べられるときに食べておくことと、任務の最中でも手早く食べる癖がついているからだとか。
それでも、あまり食べすぎると、動きにくくなるとかで、お腹いっぱいは食べないみたいだ。
「リー。お腹いっぱいになった?」
「うん。イクスさんも?」
「俺も満足。じゃ、早めに帰ろうか」
なんだろう。
イクスの笑顔が、意味深だ。
「しばらく、リーを構えなくなるからね。今夜はたくさん堪能しないと」
(そういうことかー!)
リーアは、少し顔を引きつらせて、頷いた。
明日の朝、ちゃんと起きられることを願って。




