不思議な少女
誘拐された晩、とりあえず朝まで寝て、昼過ぎに警備隊の詰め所に向かった。
詰め所には、昨晩一緒に捕らえられていた女の子たちがいた。
みんなで事情聴取を受けてわかったこと。
女の子たちはみんな、どこかしらで拐かされたらしいということ。
買い物の帰りだったり、大衆食堂のトイレだったり。
でも、人身売買の組織は大きいと見られているけれど、今回、この街に女の子たちを集めるために来ていた人数がそれなりにいたことから、どうやら組織のメンバーの大部分を壊滅させることができたらしい。
まあ、リーアがほとんど殺してしまったので、詳細はわからないみたいだけれど。
(殺さないほうが良かったのかな)
チラッと思ったけど、イクスの言う通り、正当防衛が認められたし、わざわざ手を抜いてまで組織の詳細を調べることまで気にしなくてもいいみたいだった。
囚われていた女の子たちは、一番年上で15歳、一番幼い子で10歳だった。
どうやら、幼い女の子たちばかりを集めた奴隷オークションの為に集められていたらしい。
男たちが話しているのを聞いていた女の子がいて判明した。
警備隊の人の話によると、幼い女の子を好む輩が一定数いるらしく、そういう客に売ることが多いらしい。
リーアとイクスは、囚われた女の子たちを一人もかけることなく開放し、犯人たちを潰したとして、警備隊の人たちにかなり感謝された。
あと、女の子たちの家族にも。
警備隊に開放されて、帰ろうとしたら、一人の女の子が声をかけてきた。
「ねぇ!助けてくれて、ほんとにありがとう。あなた、すごくかっこよかった!」
「え?ああ、そう?」
「うわあ、超美少女じゃん!それであの男たちを倒しちゃうとか、マジで萌えるんだけど!」
「もえ…?」
言っていることが、ちょっとよくわからない。
「しかも、一緒にいるのハイパーイケメンだし!
え、ねぇ、もしかして二人ってそういう関係?」
すごく、グイグイくる。
でもなんか、肯定しておかないと、イクスが狙われるような気がして、とりあえず頷いた。
「やっぱりー!イケメンと美少女!年齢的にちょっと禁断なのもエモい!」
「えも……?」
ほんとに、よくわからない女の子だ。
「あー……もしかして」
イクスが小さな声で呟いた。
イクスには、女の子のことで何か察するところがあったらしい。
「バルさん?」
「んー、あとで話すよ」
どうやら、この場ではあまり話したくないらしい。
二人でその場から離れて、宿へ向かう。
ちなみに、宿泊代金は免除された。
それはそうだろう。
従業員が、リーアの誘拐に関与していたのだから。
ちなみに、あの従業員はもういないって、イクスが言っていた。
イクスがそういうってことは、たぶん、「そういうこと」なんだろう。
「それで?あの子って、どういう子なの?」
気になっていたので、さっき話しかけてきた女の子について聞いてみた。
「あー、あの変な言葉使ってた子ねー」
ソファの上で、リーアを後ろから抱きかかえながら、イクスが言う。
「あの子はねぇ、たぶんだけど、転生者」
「てんせいしゃ?」
初めて聞く言葉だ。
「俺も実際にあったのは初めてだけど、何ていうのかな、他の世界?から生まれ変わった人」
「他の世界」
「そう。この、国とか大陸とかそういうレベルじゃなくて、世界自体が違う世界があるらしくてね。魔法が使えない世界とか、魔王がいる世界とか、まあ、色々あるらしいんだけど、たまにそういう別の世界から転生……記憶を持ったまま生まれ変わってくる人がいるらしいんだよねぇ」
魔法が使えない世界?
そんな不便な世界があるのか。
魔王がいるというのも、ファンタジーだ。
「魔法が使えなかったら、どうやって浄化とか、解析とかするんだろう」
「なんかねぇ、『かがく』とかいうのが発展してて、道具を発展させてるみたいな感じ?
リーアならなんとなくわかると思うけど、人間で言うなら細胞とか、そういう目に見えないレベルのものでも扱えるようになってるらしいよ」
「便利なのかな」
「さあ。どうだろうねー」
イクスにはあまり興味がないみたいだ。
「あと、俺が聞いたことあるのは、鉄の塊が空を飛ぶっていうのかな」
「魔力で?」
「いや。ちがうみたい。あと、馬がいないのに進む馬車とか」
やっぱりよくわからない。
「詳しい話聞いてみたかった?」
イクスに問われて、ちょっと考えてみる。
「別に、そこまででもないかな」
自分がその世界に行かなくてはいけないなら、詳しい話を聞く必要があるだろうけれど。
「逆にこっちからその別の世界に行くことはないんでしょ?」
「ないんじゃないかなぁ。まあ、もし行っちゃってたらこっちにはそれがわからないから、絶対ないとは言えないけど。転生者がそういった話をしてたことはないはずだよ」
そもそも、生まれ変わる前の記憶がある時点で珍しい。
記憶が無い人を含めると、もしかしたら転生者はもっと多いのかもしれない。
「イクスさんは、どこでそういう話を聞いてくるの?」
「んー。俺の場合は、隠密騎士だった頃に、国にたまぁにそういう人が現れたからって感じかな。何にもしてなくて転生者に会うことは滅多にないはずだから、リーは貴重な経験をしたかもね」
「そうなのかな?私の仕事に役立つわけじゃないから、別にどうでもいいかな」
「ははっ。それはそうかもねぇ」
それを最後に、話は別の話に変わり、リーアも転生者のことは頭の隅に行ってしまった。




