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初めての旅 25日目

昨日の夜、イクスさんは久しぶりに闇ギルドの仕事を受けた。

闇ギルドは、横のつながりがあるから、国をまたいでも、名前を出せばちゃんと実績はわかるらしい。

そして、仕事も、受けられるらしい。


イクスが宿に戻ってきたのは朝方……たぶん。

昨夜は結構深夜まで薬を作っていて、寝た時間も遅かったのだけど、イクスはまだ戻ってきていなかったから。


ちなみに、薬を作ると言っても、宿の部屋で火をおこすわけには行かないから、煮詰めたりすることはできない。もっと簡単な、煎じて混ぜただけのような薬ばかりだ。

ついでに、毒と解毒薬も数種類用意しておいた。

この国の闇ギルドで売ろうかと思って。

とは言え、一人で宿から出るのは、イクスに止められているし、闇ギルドへ一人で行くのも危険なので、イクスに連れて行ってもらわないといけないのだけれど。


闇ギルドで毒なんかを売ると、結構いいお金になる。

旅に出る前は、闇ギルドに卸している分と、バーで接客して売っていた分の両方があったから、今のリーアは、結構お金持ちだ。

ある程度のお金は、銀行に預けておくといいらしいのだけど、まだ子供のリーアでは、銀行で不審がられそうだし、まとまったお金を入出金するたびに銀行まで行かなくてはいけないのも手間なので、リーアはイクスと同じように、ボックスの中にためこんでいる。

盗まれる心配もないし、いつでも出し入れ出来るし、言うことなしだ。

貴族なんかは、銀行にお金を預けて、まとまったお金を支払うときには小切手というのを使っているらしい。

小切手を受け取った側がそれを銀行に持っていくと、現金に変えてくれるらしい。

正直、ふーん、以外の感想はない。

だって、リーアは貴族ではないし、そんなまとまったお金を払う機会もめったにない。

報酬を受け取るときだって、いつもニコニコ現金払いだ。

貴族は面倒なんだな、と思う。


正直なところ、リーアは、自分が本当は王族だったという事実を、ほとんど覚えていない。

だって、王族らしい扱いなんてされてこなかったし、その頃の記憶はおぼろげだから。

それに、元王族と言っても、治めていた国も、もうない。

でも別に、寂しいとか、王族らしい暮らしがしたいとか、そんなことは全然思わない。

むしろ、平民バンザイだ。

恋愛小説を見ていると、貴族や王族は政略結婚が当たり前だし、他にも、お作法とかなんかよくわからない色々を身に着けないといけないみたいだし。


リーアは、学ぶことは大好きだけれど、意味があるのかどうか分からない作法まで学びたいとは思わない。

一応、貴族の客を相手にするときの為に、師匠から、ある程度のマナーは習ったけれど。

カトラリーの使い方は、イクスが出会った頃に教えてくれた。


ともかく。


リーアは、今の生活に満足しているし、身分を上げたいとも思っていない。

ただ、イクスの妻になれればそれでいい。

あと、薬師として仕事ができれば。


そのイクスは、朝方帰ってきたと思うのだけれど、宿の裏で、リーアと一緒に鍛錬をして、それから二人で朝ごはんを食べた。

ちゃんと寝なくて大丈夫なのかな、と思うけれど、イクスは元気いっぱいだ。


そう。

元気いっぱいに、今日も今日とてリーアの身体を堪能すると、それから少しだけ眠って、また闇ギルドへ行った。

今日こそはついていこうと思っていたのに、身体がクタクタで、無理だった。

明日は、闇ギルドには行かない予定だと言っていたから、師匠へのお土産を買いに、また街に連れ出してもらおうかなと思っている。


旅に出てから、もう少しで1ヶ月。

もう少し、この街を楽しんだら、今度はまた商人の旅団に混ざって、違う地方へ行く予定だ。

慌ただしいような、でも、楽しいような。


そんなことを考えていたら、ドアがコンコンとノックされた。

イクスはノックなんてしないし、だとしたら、宿のスタッフくらいだけれど、こんな時間に、呼んでもいないのに来るなんておかしい。



リーアは、布団の中に自分が眠っているような形を作って細工して、自分はベッドの下に隠れた。


少しすると、締めておいたはずの鍵が開けられ、暗闇に混ざって数人の人が部屋にこっそり入ってきた。

見覚えのある宿のスタッフ一人と、見覚えのない黒ずくめの男が二人。



「早くしろ。見つかるとまずい」



聞こえてきた声は、宿のスタッフのもの。

物盗りか、誘拐か。


どうやら、両方だったらしい。


ゴソゴソと、イクスとリーアはの少ない荷物を漁ったあと、男たちはベッドに近づいてきた。



「どういうことだ!いないぞ!」


「部屋からは出ていないはずだ。さがせ!」



まずいな、とリーアは思った。

そんなに広くもない部屋だ。

このままだと見つかるのは時間の問題だろう。

ボックスをあけて、痺れ薬を出すのと同時に、リーアはベッドの下から引っぱりだされた。


そのまま、薬を奪われ、魔法封じの手枷を嵌められる。


(随分、用意がいい)


リーアは暴れるふりをして、宿のスタッフの名札をこっそり外すと、見つからないように足元に落とした。


男たちは、リーアを布で包むと、そのままどこかへ移動しているようだ。


(私がレッド・アイだとわかっての誘拐?それとも、金払いのいい客だと思って?)


リーアの中には、自分の見た目が極上だという認識はない。


ともあれ、こうしてリーアは、またも誘拐された。



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