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初めての旅 20日目

南端の街で流行り病を収束させて、数日は様子を見がてら、薬のストックを作っていたけれど、街も落ち着いたし、薬のストックもだいぶ増えたので、南端の街には三日ほど滞在しただけで、早々に国境を超えて隣国に入った。


イクスさんの話だと、国境にはあらゆる魔法を解く魔法陣が仕掛けられているところもあるらしい。

そうしたら、自分の瞳にかけられている認識阻害魔法もとけちゃうのかなって心配していたんだけど、ちゃんとイクスさんはわかってたみたいで、そういう魔法陣が仕掛けられていないルートをちゃんと選んだらしい。


国境を越えてすぐに、国境の街にある古着屋で夏物のワンピースを買ってもらった。

白くて、ヒラヒラしていて、可愛い。


リーアは、北国の生まれだ。暑い国になんて、来たことがない。

南端の街も暑かったけれど、国境を越えたら更に暑くなって、ここからは旅をすすめるほどに暑くなるから、と早々に着替えたのだ。



「そうだ。リー、海見たい?」


「うみ?」



海は知っている。

ものすごく大きな、果ての見えない、湖のようなもの。

本で読んだ。

でも、本には絵は付いていなかったから、見たことはない。

海でしか採取できない貴重な素材もある。



「海、近いの?」


「そうだよー。ほら、何となく生臭いような、潮の香りがするでしょ?」



言われて、クンクンとしてみたら、確かに何か臭う。



「今夜は、海辺の宿を取ろうか。海の見える部屋がいいかな。直接海辺に出ていける宿もいいね」



海は、観光スポットにもなっているので、近くには宿がたくさんあるらしい。



「この間、リーすごく頑張ったから、ご褒美に少しいい宿に泊まるー?」



そう言った後、イクスはニヤリと笑った。



「食事も美味しいし、二人きりで部屋で食べることもできるし、防音もしっかりしてて、寝具もちゃんとしてるよ?」



その言葉が意味することは、さすがにリーアにもわかる。


(イクスさんとくっついたり、触られたりするのは好きだけど……)


体に教えこまれた快楽を思い出し、顔が熱くなる。



「んー、まんざらでもないって感じかなー?じゃ、先に宿決めて、それから浜辺に行こっかー」



余裕の笑みを見せるイクスに連れられて、リーアは少しお高そうな宿にイクスと一緒に泊まる手続きをして、部屋に入る。

大きな窓からは海が一望できるらしいけど、今は日差しを遮るために、カーテンに覆われていて見えない。


部屋の中にはテーブルセットと、ソファセット、それから、大きめなベッドが1つ。


そう。

ベッドは1つだ。


別に、普段もよくイクスと同じベッドで眠ったりしているし、今更意識することはないと思うんだけど、たぶん、さっき変な風にからかわれたせいで、ベッドを直視できない。



「ねぇ、リー」



イクスに声をかけられて、ビクッとする。

そんなリーアを見て、イクスは楽しそうに笑った。



「もしなんか期待してたんなら、悪いけど、ちょっと真剣な話」



(真剣な話?)



首を傾げたリーアの頭を、イクスが撫でる。



「リー、いつの間に神級魔法なんて使えるようになってたの?しかも、結構広範囲な」


「神級魔法?」


「ほら、南端の街で……」


「ああ」



そう言えば使った。

使うのは初めてだったけど。



「あの時は、必死だったから。初めて使ったけど失敗するわけにいかないし。だからほら、先にポーション飲んでたでしょ?詠唱もちゃんとしたし」


「あー、うん。そうなんだけど。それでも、普通は使えないからね?力のある聖女が、絶好調の時くらいしか」


「え、そうなの?」



聖女なら、もっとバシバシ神級魔法を使って、戦場とかで活躍してるかと思っていた。



「あの場にいた人たちの口を封じたのは正解だよ。じゃないと、近く、国認定の聖女としてリーが連れて行かれるところだった。まぁ、俺がそんなことさせないけど」



(そういえば、師匠にもあんまり大きな治癒魔法を使うなって言われてたっけ)



「ま、この話はこれくらいにして、海に行こうか。リー、履物は、通気性が良くて脱ぎやすいものがいいよ」


「うん」



ボックスをゴソゴソ漁って、サンダルを出す。

ベッドに座って履き替えようとしていたら、イクスがリーアの前に膝をついた。



「ほら、足乗せて」



リーアの足を、膝の上にのせて、サクサクと履き替えさせてくれる。


(なんか子供扱いされてるみたいだけど、でもやっぱり、イクスさんが好きだなぁ)


改めて思う。





サンダルに履き替えて、二人で海辺へ出てみた。

あんまり人は多くない。

たまに親子連れがいる程度。

それから、潮の匂いがすごい。

海は本当に果てが見えなくて、青くて、キラキラしてて、打ち寄せる波は白かった。



「足つけてみる?」



イクスに言われて、サンダルを脱いで、波打ち際で足を濡らしてみた。

思ったより冷たくなくて、ぬるい。

足の指の間に、細かな砂が入り込んで、それが少し邪魔だったけど、海水ですすいだら、すぐになくなる。

ふと、イクスは海に入っていないことに気がついた。



「イクスさんは入らないの?」


「裸足になるの、好きじゃないからねぇ」



そう言えば、イクスは湯浴みのとき以外はいつも靴を履いている。

たぶん、少しでも無防備になるのが嫌なんだと思う。

リーアは話を変えた。



「素材、ここでも採れるかな」


「んー。海で取れる素材は、基本的には深いところにあるからねー。海辺では取れないかな?」



海藻くらいなら取れるみたいだけど、海辺でとれるのはあんまり質が良くないらしい。

海藻は、美肌に効果のある薬が作れるし、身体の中の塩分を流す働きもあるけど、打ち上げられている海藻は、確かになんだか汚い。



「リー、そろそろ部屋に戻ろうか」



リーアが波に飽きてきた頃、イクスが声をかけた。

おとなしく、二人で部屋に戻る。



「なんか、肌がベタベタする」


「潮風にあたったからねー」



イクスが手早く清め魔法をかけてくれて、何故かそのまま服を脱がされたのだった。

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