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初めての旅 6日目 〜イクス視点〜

旅立ってから5日目の夜。

ついに危惧していたことが起きた。

欲望を隠しもしないでリーアを見ていた依頼主が、リーア一人を部屋に呼び出し、あろうことかリーアに触れたのだ。

純粋な治療のために、リーアから触れるのは仕方ない。でも、アイツは違う。

絶対に、体の不調なんてなかっただろう。

リーアから聞いた話だと、太ももの付け根辺りを触らせたらしい。


変態だ。


別に、変態だってリーアに関係のないところでなら、何をしたってイクスは気にしない。

でも、変態の手がリーアに触れるのは許しがたい。

いや、変態じゃなかったとしても、イクス以外の男がリーアに触れるのは許せない。

それが、リーアやイクスの許可を得ていないならなおさらだ。


だから、リーアに「上書き」をした。

リーアも、変態──依頼主──に触れられたのが、かなり気持ち悪かったみたいだし、イクス自身も、いつまでも変態がリーアに触れた名残が残ったままなのは嫌だったからだ。


ただ、まぁ。

ちょっと、リーアの反応が良すぎて、「それ以上」をしたくなってしまったのは、たぶんイクスのせいじゃない。あんないい声で啼くリーアが悪い、とイクスは思っている。

それでも、ちゃんと「それ以上」に進まなかったのだから、褒めてほしいくらいだ。


(本当なら、あんなことやこんなことや、規制に引っかかるくらいのことはしたいのに)


そこまで考えて、イクスは首を傾げた。


(ん?規制ってなんだ?)


自分の頭に浮かんだ言葉を不思議に思ったが、すぐにまぁいいか、と疑問を手放した。


(それより、あの依頼主だよねぇ。一応、軽くは脅しておいたから、迂闊にリーアには触れないと思うけど、変態の思考はわからないからな)


ちょっと考えて、もう少し脅しておくことに決めた。





翌朝、鍛錬の為に起きる少し前。

リーアがモゾモゾと動いて、少し止まったあと、ササッとベッドを出ていく気配がした。

荷物のところで何かゴソゴソしていると思ったら、部屋を出ていこうとしていた。



「リー?どこ行くの?」


「あっ……」



リーアの目が、気まずそうにイクスから逸れる。


(俺には、言えないこと?)


モヤっとする。

リーアと自分との間には、秘密なんてないはずなのに。


「聞き方を変えようか。どうしたの、リー」


「えっと、その……」



少し躊躇ったあと、リーアはゴニョゴニョっと何か言った。



「ん?」


「だからっ……初潮がきて……」



え?

ん?

しょちょう?

所長?

いや、多分違う。



「あっ……あー、そっか。えーっと、おめでとうでいいのかな?思ったより早かったね」


「私も、まだあと一年は先だと思ってたんだけど、環境が変わったからかな。それで、その、処置しに行きたいんだけど」


「あー、そうだよね。ごめん、引き止めて」



リーアは少し顔を赤くして、部屋を出ていった。

たぶん、共用トイレか、大浴場に行ったんだろう。

本当なら安全のためにもついていきたいけど、それはリーアが嫌がるだろう。



「でも、そっか……リーも、ついに大人になったのか」



独り言は、思いの外、部屋に響いた。





部屋に帰ってきたリーアは、どうやら腹痛と腰痛が辛いみたいで、自分で作った薬をボックスから出して飲んでいる。



「リー。依頼、続けられそう?今日も馬車での移動で、俺とリーは馭者席だけど」


「うん。薬飲んでるし」


「でも、その……トイレ休憩は頻繁に取ったほうがいいよね?それに、野外でのトイレでも大丈夫なの?」


「ああ、それは……えっと、量を調節する薬も飲んだから、いつもどおりで大丈夫」



リーアがこう言っているのだ。

イクスがそれについてこれ以上何かを言うことはないだろう。



「わかった。でも、辛くなったらすぐに言ってね」


「うん」



どうやら、服を汚すほどではなかったみたいだったけれど、リーアはその日、初めて鍛錬を休んだ。

とは言っても、イクスが鍛錬するところを、真剣に見ていたけれど。


その後、朝飯を食べて、いよいよ出発することになった。リーアを馭者席に座らせておいて、イクスはチラッと馬車の中に顔を出した。

クイクイっと、指で依頼主を呼び寄せると、近づいてきた耳元で囁いた。


イクスの言葉を聞いた瞬間、依頼主はサアッと青ざめて、コクコクと頷いた。

心なし、身体も震えているみたいだ。


イクスはその様子を見届けると、何食わぬ顔で馭者席についた。



「出発!」



こうして、6日目の旅が始まった。






「バルさん、後ろ……」


「んー、明らかにつけてきてるねぇ」



挟み撃ちにされたら面倒だ。

たまたま行く先が同じ馬車、とかではない。

「寄生」と呼ばれる、護衛付きの商隊にさり気なくついてきて一緒に守ってもらおうという浅ましい奴らとも違う。

どちらとも、距離のとり方が違う。

それに何より、殺気を消しきれていない。

言ってしまえば、「これから狙うぞ」という気配がビンビンに伝わってくるのだ。

それは、ある程度距離が離れていてもわかる程に。


イクスは一旦、道の端に馬車を止めた。

当然、後続の、護衛が乗った荷馬車も止まる。



「どうした?」


「尾けられてる」


「俺の目に見えないってことは、まだ少し離れてるんだな?」


「そ。だから、今のうちにどうするか相談。先に進めば挟み撃ちに合う可能性がある。罠はって、待ち伏せるか?」


「そうだな。念の為、荷馬車以外の馬車は森の中に隠して、追いついてきたところを一気に叩こう」



この、臨時パーティーの中でも一番経験豊富な男と相談して、これからの戦略をねった。



「リー、待ち伏せるよ。ただ、リーは森の中から防御魔法と援護をお願い」


「ん、分かった」



それから、十数分後、賊と対峙したイクスたちは、なんの問題もなく返り討ちにして、また縛り上げて、森の中に転がしておいた。

万が一と言うこともあるので、足の腱を切り、手も潰しておいた。



すべてが終わったあと、リーアの顔色が悪いことに気がついた。



「リー、気分悪い?大丈夫?」


「薬が切れてきたみたい。でも、薬飲めば平気だから」


「ほんとに、無理しないで」


「分かってる。でも、仕事中だから」



リーアは、責任感が強い。

仕事に対する真っ直ぐさは、その辺の冒険者たちに見習わせたいくらいだ。


残念ながら、その日は野営になった。

リーアのことが心配だったけれど、他の奴らにリーアの体調のことを明かすつもりはなかったし、出来るだけリーアが過ごしやすいように環境を整えて、夜を明かした。



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