初めての旅 5日目
野盗に襲われたり、魔獣に襲われたりしながらも、一行は無事に2つめの街に着いた。
街では、依頼主が宿を取ってくれるので、そこで寝泊まりする。
人数分の部屋が空いてなければ、別の宿になる。
食事は宿でも取れるが、食事代は自腹だ。
別に大した金額でもないから、困ることはないけど。
部屋は、必ずイクスと一緒だ。
ベッドは一つなので、イクスに抱きしめられるような形で、一緒に寝ている。
旅の一行で女性はリーアだけ。
野営のときは清め魔法で清潔さを保っているが、宿では風呂があれば風呂に入る。
今夜の宿は、大浴場が付いていた。
ちゃんと女性用と男性用に別れていたけれど、リーアが湯浴みしている間、イクスが入り口で番をしてくれていた。
「バルさんは、入らないの?」
「んー、大浴場とか嫌いなんだよねぇ。あんまり人前で無防備な姿晒したくないし」
「ああ、なるほど」
イクスは根っからの暗殺者だ。
常に武器を仕込んでいるし、命を狙われることも多い。だから、リーアと二人のときじゃないと、無防備な姿は晒さない。
リーアと二人きりのときですら、完全には防備は解かない。
「あ、シュバルツ。明日のフォーメーション確認したいんだけど」
「あー。どこでやる?アンタの部屋?」
「そうだな」
「じゃ、リー行こうか」
リーアも当たり前のようについていこうとしたが、それを他の冒険者が止めた。
「リーアちゃんは、なんか依頼主が体調不良を治してほしいって言ってたよ」
「じゃ、そっち先行くか」
「いやいや。リーアちゃん一人でも大丈夫でしょ。
ほらほら、行くぞ」
イクスと離れて一人で行動する気はない。
でも、まぁ体調不良くらいなら、症状にあわせて薬を処方すればいいだけだし、なんなら部屋の入り口で済むだろう。
リーアは、一人で依頼主の部屋に向かった。
イクスは、ものすごく心配そうな顔をしていた。
そして、リーアは自分の考えが甘かったことを、このあと知る。
「ああ、リーアちゃん。来てもらってごめんね。ちょっと、太ももが痛くて。治してもらえるかな」
依頼主の部屋に行くと、依頼主は部屋のドアを大きく開けて、リーアを招き入れようとした。
部屋の入り口で済ませようと思っていたが、痛みの箇所が太ももとなると、薬を処方するだけというわけにも行かない。
「少し、触りますね」
足元にしゃがんで、依頼主の太ももに触れる。
「うーん、もう少し上かな?」
「このあたりですか?」
ほぼ、足の付け根に近い。
熱を持っていたり、腫れていたりはしなかったけれど、とりあえず簡単な治癒魔法をかけておいた。
太ももに触れた手に、依頼主が手を重ねる。
あまりの気持ち悪さに、リーアはバッと手を離した。
「驚かせちゃったかな。暖かい感じがしたから、手も暖かいのかと思って確かめてみただけなんだけど」
リーアは1歩依頼主から離れた。
「そんな警戒しなくても。リーアちゃんくらいの歳の娘がいるからさ。なんか懐かしくって」
そう言って、許可もなくリーアの髪を撫でる。
その目は、娘に向けるものとは思えない、ねっとりとした目だ。
(なんだろう。ものすごく、ものすごく気持ち悪い)
「はい、そこまでー。子供とは言っても、迂闊に女性に触るもんじゃないですよ。いざという時、『うっかり』あなただけ防御魔法がかからないと困るでしょう?さ、リー、行こう」
「バルさん……!」
救いの手に、リーアは飛びついた。
イクスの手が、依頼主の手を掴んで、リーアから引き剥がす。
「あ、ああ……すまんね」
顔色を悪くした依頼主を放って、リーアはイクスと一緒に自分たちの部屋へ戻った。
「大丈夫?」
「なんか、すごく気持ち悪かった」
「そうだろうねぇ。変態に触られたんだから」
(そっか。あの人変態なんだ)
リーアは納得する。
「念の為、リーに清め魔法かけておくねぇ。どうする?ここまでの報酬だけもらって、ここで別行動してもいいけど」
イクスの言葉に、うーん、と考える。
「もうあんなことはしてこないと思うし、イクスさんとも離れないから、大丈夫。あと10日ほどだし」
「そう?無理なら言ってね」
「うん」
「あとは寝るだけだけど……すこぅし上書きしておこうか」
「上書き?」
キョトンとしたリーアの頭を、イクスが優しく撫でる。それだけで、さっきの気持ち悪さを忘れられる気がした。
イクスはそのままリーアの頬に手を滑らせて、顎をクイッと上げた。
リーアの唇に、イクスのそれが重なる。
少しだけカサついていて、でも温かくて。
「あの変態に触った?」
「うん。患部の確認に」
「じゃ、こっちもだね」
そう言って、リーアの右手のひらにイクスが唇を押し当てる。
「ん……」
「まぁた、そんな声出して」
イクスが言って、ぺろりと手のひらを舐める。
「ひゃっ」
「しいっ。この部屋、壁が薄いからね。隣に聞こえちゃうよ」
そう言いつつ、イクスは隅々までリーアの手のひらを舐める。
「んっ、あ……」
「かーわい」
最後に、リーアの指先をカリッと噛んで、イクスはリーアの手を開放した。
顔が熱いし、なんなら身体も熱い。
腰にも力が入らない。
「さ、明日も早いし、もう寝ようねぇ」
リーアの身体を抱き上げて、イクスはベッドに潜り込んだ。
リーアはすごくドキドキしていたけれど、頬に伝わるイクスの鼓動もドキドキしているのを感じて、少しだけ幸せな気分になった。
「あー、ヤッバイ。防音魔法かけちゃえば大丈夫かな。いや、でもまだ先は長いしなぁ」
そんな、イクスのひとりごとを聞きながら、リーアは眠りについた。




