狙われた隠れ家 〜イクス視点〜
短めです
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ルンルンと隠れ家に向かっている途中、案の定というか何というか、隠れ家に施した不可侵魔法が破られる、パリンという音がした。
どうせ、前から自分のことを敵視していた奴らとか、ここでイクスに勝って名を挙げたい馬鹿なやつとかが襲撃に来るだろうと、認識阻害魔法は解いておいた。
そうしたら、やっぱりだ。
もう隠れ家は目の前。
数人の暗殺者が森の中に潜んでいる気配も感じる。
(……リーは、無事だよな?)
避難場所への隠れ方はしっかり教えたし、眠って気が付かないと言うのでなければ、ちゃんと隠れたはずだ。
リーアなら、眠っていても不可侵魔法が破られる音に気がつくとは思うが、万が一ということもある。
外にいる奴らは取り敢えず無視して、家の中に入ると、寝室の中に黒ずくめの男が一人立っていた。
どうやら、イクスを待っていたみたいだ。
パッと見た限りで、実力は自分の方が上だとわかる。
もっとも、目の前にいる男は気がついていないみたいだけど。
リーアの姿はないし、ベッドもきれいに整えられていることから、無事に避難できたのだとわかる。
嬲って遊んでやっても良かったけど、リーアはたぶんこちら側が少し見えているだろうし、早めに決着をつけようと、取り敢えず隠していたナイフを投げてみた。
男は、額にナイフを突き刺して、倒れた。
(え?終わり?)
せめて弾くとか、避けるとかすると思っていただけに、ちょっと拍子抜けだ。
ナイフを抜いてみたけど、ぴくりともしない。
返事がない。屍のようだ。
取り敢えず死体はそのままに、玄関のドアを開けると、あちらこちらから殺気を向けられた。
かたまっていてくれれば楽だったのに、無駄にバラけているせいで一気に相手をする事ができない。
かと言って、一人一人相手にするのも面倒だ。
ほんの一瞬考えて、イクスは軽く両手を広げると範囲指定をした。
隠れ家の周囲100メートルの指定。
そして、風魔法でスピードと威力を上げたナイフを、屋根の上から全方位に投げた。
ドサドサっと、至る所で人が落ちたり倒れたりする音がした。
逃げていく人影が一つ。
傷を負ったソレを、イクスは、あえて追わなかった。
自分に手を出せばどういう目に遭うのか、しっかり伝えてもらう必要がある。
その頃には、ナイフに塗った毒が効いて死に至るだろうけれど。
それから、リーアを避難場所の鏡の中から救出する。
(怖がらせた、かな……)
イクスが人を殺すところを見るのは、多分初めてのはずだ。
でも、たとえリーアがイクスのことを怖がったとしても、もう手放してやることはできない。
そんな悩みも、リーアの顔を見たら一瞬で吹き飛んだ。
リーアは、倒れている賊を見ても、表情一つ変えなかった。
ただ、ガラス玉のようななんの感情も映さない目で、賊を一瞥したのみ。
むしろ、カッコよかったと言われてしまった。
いや、安心したし、うれしいんだけども。
賊の体を引き摺って外に出すと、暗殺者たちの処分に少し悩んだ。
放っておけば血の臭いに釣られて魔獣や獣がやってくるだろう。
かと言って、燃やすにも、死体が散らばりすぎてて、燃やしにくい。
リーアにどうしたいか聞くと、最初は魔獣に食べさせようかと言った。
けれどすぐに、魔獣は死肉を食べないことを思い出す。
となれば、燃やすしかない。
埋葬してやる義理はないし、下手にスケルトンにでもなられたら困る。
それにしても、数が多いからな、と悩んでいると、リーアが魔法を発動する気配がした。
「風よ」
風の初級魔法。
でも、それだけでもあちこちに散らばっていた死体は、小さな旋風に巻き込まれるようにして、目の前に集まった。
「リー、賢い!」
その後はイクスの出番だ。
火魔法の最上級魔法『黒炎』で、一気に骨まで燃やし尽くす。
あとには、焦げた地面のみ。
骨のひとかけら、灰の一匙すら残らなかった。
『黒炎』とはそういう魔法だ。
陛下から与えられた任務は終わったし、あとは帰るだけ。
(あー、でも。リーがお土産買うの楽しみにしてたな)
あと一日くらいここにいて、それから帰ってもいいだろう。
そんなことを考えながら清め魔法で身体をきれいにして、ベッドに潜り込むと、向かい合わせになったリーアがフニャッと笑った。
「イクスさん、おかえりなさい」
心が、ふわっと解けていく。
リーアの頭を軽くなでて、イクスも微笑んだ。
「ただいま。リー」
(そっか。リーと一緒に暮らすってことは、こうして「行ってらっしゃい」や、「おかえりなさい」「ただいま」を言う相手がいるってことなんだな)
リーアと暮らすようになってからも、たぶん言われていたけれど、こうして、旅先でも言ってもらえるのは、思いの外気分が良かった。
(早く、結婚したいなぁ)
その晩は、なんだかとても優しくて温かい夢を見た気がする。
翌日に何が待ち構えているのか、考えもしないで、イクスは幸せな夢へと落ちていった。




