表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/106

新米薬師、取引をする 2

R15含みます

不快に感じられる方は、読み飛ばしてください

二人目の客は、どうみても男性だった。

リーアは深くフードをかぶっているし、認識阻害魔法で、ある程度大人の女性に見えるようにしてもらっているけれど、そのせいなのか、客はジロジロと無遠慮にリーアを見てきて、特に胸のあたりなんかは舐めるように見てきた。


正直、ものすごく気持ち悪い。


師匠のところにいる時も、たまに師匠に会いに来た客で、そういう人はいた。

まだ子供のリーアの身体を、舐め回すように見てくる人。

師匠は大抵の場合、客が来ると、リーアを調薬室に行くようにしてくれていたけど、それでも、そういう人はいた。


嫌だな、と思ったその時、隣からブワッと何かが客に向かうのがわかった。

冷たいみたいな、鋭い何か。

目の前の客が青褪めたのを見て、それがイクスの殺気だとわかった。



「何がご入用?話を進めないなら、帰るけど」



リーアも冷たく言うと、男はハッとしたように、まだ青い顔のまま、口を開いた。



「持続時間の長い、避妊薬がほしい」



避妊薬。

だいたいそう言うのを欲しがるのは、娼館(師匠に教えてもらった)の主人か、妾をたくさん囲っていて、さらにそれとは別で愛人までいる貴族や金持ちか、あるいは、性奴隷を買っている人だ。

女性なら、愛人のいる貴族とか。


基本的に、貴族は結婚するまで純潔は保つもの、とされているらしくて、婚姻前にそういう行為に及ぶことはほとんどないらしい。

だから、うっかり婚約者を孕ませちゃった、とか、うっかり孕んじゃった、なんてことはほとんどないのだとか。

逆に、平民は結婚前でもそういう行為をしても構わないし、その結果妊娠して、それから結婚ということも往々にしてある、らしい。

だから、平民が避妊薬を欲しがるときは、子沢山だから、これ以上増えないように、と言うときくらいなんだけど、平民は子供が増えすぎると間引きするらしいし、何より、この店を利用することができない。

イクスに聞いた話によると、この店を経由してリーアや師匠を指名依頼するだけで、庶民の1年分の生活費が飛んでいくらしい。



それはそれとして。



持続期間の長い避妊薬を依頼された場合。

リーアは、生涯妊娠しないような、強力な避妊薬も作れるし、在庫もある。

男性用も女性用もだ。

けれど、師匠からは、依頼されたのが女性用だった場合には、売らないように言われている。

女性用の生涯避妊薬はとても身体に負担がかかるものだし、それを置いておいても、何回かに分けたほうが、何度も依頼を受けられるからだ。

男性用のものは、そんなに身体に負担がかからないし、余程の覚悟なのだろうから、売ってもいいと言われている。


だから、先に聞く。



「女性用?男性用?」


「女性用」



はい、鬼畜けってーい。

この人はどうみても娼館の主人というよりお貴族様だし、そもそも娼館の主人と言うのは女性が多いのだ。

自分はなんの負担もなく、女性にしたいだけシて、妊娠しないようにしたいなんて、鬼畜なのだ……師匠に言わせれば。



「持続期間が3ヶ月の物と、半年のものがあるわ。

3ヶ月のものなら、金貨3枚。半年のものはその倍。

ちなみに、半年のものは、飲んだあと、副作用でしばらく寝込むことになるわ。どっちにする?」


「高いな」



鬼畜にはふっかけていいと、師匠からお許しが出てる。



「効果は間違いないわよ?」


「……わかった。3ヶ月のものを」



男の言葉に、リーアはボックスから、小瓶を取り出した。

飲まされる側の女性のことを考えると、本当はこんなことしたくないけど、女性側だって、こんな鬼畜の子供は生みたくないだろう。

愛人とかなら、もしかしたら、男の赤ちゃんを産んで、正妻の座に、と狙っているかもしれないけど。

ただ、この薬は味をごまかしていないので、なんの薬かは分からなくても、薬を飲まされたことだけはちゃんとわかる。



「どうぞ」



リーアの渡した小瓶を灯りに透かすようにして見た男は、側についていた使用人らしき男から皮袋を受け取って、その中から金貨3枚をリーアに渡した。

リーアは、それをボックスの中に放り込むと、にこりと、営業用の笑顔を向けた。

フードでほとんど見えていないだろうけど。



「ご利用ありがとうございました」



男が個室を出ていくと、リーアは、ハァッと息を吐き出した。

別に、難しい客でもないし、嫌な視線も最初だけだったし、特に何ということもないのだけど、なんだかすごく疲れた。



「おつかれー、リー。ああいう客は、面倒くさいねぇ」


「うん。でも、またあの人は客として会うことになるだろうけど」



リーアが眉をしかめると、イクスはクスクス笑った。



「それにしても、リーに向けたあの視線はムカついたな」


「気持ち悪かった」


「だよねぇ」



殺っとくかな、と小さな声が聞こえたが、リーアは聞こえないふりをした。



「リー。俺、明日はちょっと昼から夜までいないから、昼飯と夕飯は一人で食べられる?寝る時間にも帰れないと思うけど」


「……うん、平気。調薬して、本読んで時間つぶして寝るから」


「ありがと。リー、いい子」



たぶん、リーアの痩せ我慢なんて、イクスにはバレバレなんだろうけど、イクスに頭を撫でられて、ちょっと気分が上がった。



「もう、ちっちゃい子供じゃないし」


「ふふ。うん、そうだねぇ」



それから二人は個室を出て、前回のように飲み物代だけ払って、店を出た。

出る時に、マスターがコソッとイクスに耳打ちをしていたな、と思ったら、新しく「レッド・アイ」に渡りをつけたい人が何人かいるらしい。



「ほんとに、名前が売れてきたねぇ」


「早く師匠みたいになりたい」


「腕前だけなら、もう並んでるんじゃない?」



腕前だけなら。

それはつまり、その他の面──たとえば取引だったり、そういう事ではまだ師匠には追いついていないということだろう。

事実、イクスがいないと、怖くて夜に取引なんて出来ない。

それに、腕前でも、師匠にはまだまだ追いついていないと思っている。



「早く大人になりたい」



大人になったからって、すぐに師匠みたいになれるとは、もちろん思っていないけど。

少なくとも、夜一人で置いて行かれることを心配されることはなくなると思う。



「んー、リーにはゆっくり成長してほしい気もするし、早く大人になってほしい気持ちもあるかなぁ」



大人になれば。

きっと、イクスは大人のキスもその先もしてくれる。

だけど、大人のキスだけなら。


リーアは自分を抱き上げているイクスの腕を掴んだ。



「ん?どした?リー」


「大人のキス、したい」



精一杯勇気をだして言うと、イクスはピタリと歩みを止めた。



「んー。リー、あのね?前に、大人のキスして、その後大変なことになったの、覚えてる?」



もちろん。

忘れるはずがない。

あんなの、初めての体験だった。



「別にいいの。それでもしたい」



イクスは、あ~、とか、うー、とか言って顔を逸らしていたけど、最後にはリーアの顔を見た。



「俺がどこまで我慢できるか、わからないからね?」


「うん」



むしろ、我慢なんてしてほしくない。

でも、それを言ったら、本格的に困らせることもわかってる。


イクスは建物の影に入ってリーアを地面に下ろすと、クイッと指でリーアの顔を上げさせた。



「目、閉じて、口開けて」



言われるがままにすると、するりと口内に舌が入り込んでくる。

ゾワッとした何かが背筋を走る。

この感覚は、嫌いじゃない。

むしろ、好き。


イクスの指が、耳をくすぐる。

ゾワゾワが、耳から全体に広がっていく。


(ん、気持ちい……)


コクッと喉が鳴った。

それを合図にしたみたいに、イクスの唇が耳に移動した。

耳朶を舌が這い、中へと侵入してくる。

ぐずぐずに甘やかされたリーアは、イクスの手が身体を這っていることにすら気が付かない。


カクッと膝が折れたのを、イクスはしっかりと抱え直した。



「はい、今日はここまでー」



少し掠れた声に、リーアはぼぅっと聞き惚れる。



「イクスさん……」


「ダメダメ。そんな可愛い顔して可愛い声出したって、これ以上はしないよー」



そんな顔をしていた自覚はないけど、イクスから、多分、色気と呼ばれるものが滲み出ているのがわかる。



「色っぽい……」


「えー?俺?」



まったく、と言って、イクスは少し笑った。

その眼が、ギラリと光る。



「お仕置き」



言葉と、首筋に噛みつかれるのは、ほぼ同時だった。

吸い付かれたことはあるけど、噛みつかれるのは初めてだ、と思う。

じわっとした、痛みのような、痛みではない感覚。



「俺が、リーが大人になるのを待てなくても、俺のせいじゃないよね。これはもう、リーのせいだよね」



よくわからないけど、リーアが大人になるより先に、イクスとそういう関係になるかもしれない。

それは、ものすごく魅力的な未来だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ