新米薬師、取引をする
更新遅れてすみません!
まだ本調子ではないため、不定期の連載になります
申し訳ありません
朝起きると、やっぱりと言うかなんと言うか、イクスはもう起きていた。
アンナの家で過ごしていた習慣で、かなり早く起きたと思ったのに。
前に、イクスは鍛錬をしているのだと言っていたから、たぶん、リーアが起きるよりずっと前に起きて、鍛錬をしているのだろう。
イクスに進められるまま、顔を洗い、服を着替える。
朝食は作り途中だったから、リーアも手伝って、一緒に作ったものを二人で食べた。
イクスと寝起きして、二人で朝食を一緒に摂るなんて、2年前みたいだ。
でも、これからはこれが当たり前になる。
「リー。今日の予定は?」
「これから、少し調薬をして、後は本を読んで勉強するくらい。だから、お昼も夜もご飯作れるけど……イクスさんは一緒に食べられる?」
「んー、昼はちょっと無理かなぁ。でも夜は空いてるよ。それでね、リー。前にマスターから急ぎの仕事の依頼が来てたでしょ?あれ、済ませちゃわない?」
そう言えば、バーのマスターから、急ぎの仕事の依頼が二件あると言われていた。日時はリーアに任されていたけど、そろそろ会った方がいいだろう。
それに、イクスの休みの日じゃないと、依頼者に会いに行くこともできない。今夜はちょうどいい。
「そうだね。えーっと、じゃあどうしたらいい?」
「俺がマスターに話をつけて、今夜会えるようにしておくよ。リーは、出かける準備だけしておいて」
「わかった」
それから、イクスは仕事に行き、リーアはその間、比較的注文の多いものや、時間のかかるものを調薬して過ごした。
昼は一人だったけど、師匠から、3食きちんと食べるように言われていたから、自分で料理して、ちゃんと食べた。
一人の食事は、すごく寂しくて、味気なかったけど。
調薬が終わると、イクスが前に買ってくれた、人体の構造についての本を読んで、臓器とかについて勉強した。
日が陰り始めた頃に、リーアは本に栞を挟んで閉じると、夕ごはんの準備を始めた。
イクスは肉類が好きだから、分厚く切った肉を焼いて、野菜のスープとサラダ、オムレツを作った。
オムレツは、アンナ直伝のふわふわトロトロのやつだ。
それらに、保温魔法をかけておく。
先に食べようか、待ってようか少し悩んだけど待つことにした。
夜は帰ってくるって言ってたから、せっかくなら一緒に食べたい。
それから、ボックスの中を確認して、表立っては注文されにくい薬や毒がちゃんと入っているか確認する。
マスターを通してきたと言うことは、あまり知られたくない薬や毒が必要ということだろう。
珍しい薬や毒が入っていることを確認していたら、イクスが帰ってきた。
相変わらず、お互いに気配を消しているから、ドアを開けるまでわからないのだけど、気配がなくたって、リーアにはちゃんと、イクスだってわかった。
「ただいまー、リー。いい子にしてた?」
「おかえりなさい、イクスさん。私、そんなに子供じゃないよ」
ちょっとムッとして言うと、イクスはクスクス笑った。
「そっかー、そうだね。ごめんね、リー」
イクスは、飯にしよう、と言ってテーブルにつく。
前の家とは違って、ちゃんとリーア用の椅子も用意されている。
リーアが、イクスと向かい合って座ると、二人で食事を始めた。
「今夜、12時。場所はあのバーで」
食べながら、イクスが呟くように言う。
それだけで、客に会う算段を付けてきてくれたのだとわかった。
「眠くならない?大丈夫?」
「うん。一応、眠気覚ましのハーブティー飲んでく」
なんてことないように話しているけど、リーアは内心ドッキドキだ。
だって、初めて、客と直接やり取りするのだ。
「大丈夫だよー、リー。俺も一緒だからね」
そうだった。
リーアの安全面を考慮して、イクスも一緒にいてくれるんだったと思い出す。
「うん。ありがとう、イクスさん」
「どういたしましてー」
ニコニコ笑うイクスに、リーアも笑顔を返す。
それから時間までのんびり過ごして、約束の時間の1時間前に家を出た。
移動は、イクスの抱っこだ。
一応、認識阻害魔法で、リーアの見た目は大人に見えるようになっているけど、夜道を歩かせたくないらしい。
バーについて、イクスと二人、飲み物を飲んでいると、ちょうど時間ぴったりに、バーの扉が開いて、フードを深くかぶった女性が入ってきた。
マントを着ているけど、足取りから女性だとわかる。
そう言うことも、アンナから教わっていた。
マスターがチラリとこちらを見てから、その人を奥の個室に案内する。
その人が入ったのを確認して、マスターと入れ替わるように、リーアとイクスも個室に入った。
「……『レッド・アイ』?」
「ええ、そうよ」
出来るだけ師匠を意識しながら答える。
声も、少しだけ大人っぽいものに魔法で変えてもらっている。
「何がご入用?」
「その前に、腕前を確かめたい」
言われると思っていたことを、案の定言われた。
この言葉に対しての返事は、もう考えてある。
「信用できないなら、他を当たって」
わざわざ、新規の客の目の前でいちいち腕前を披露していたら、キリがないし、信用第一の商売だ。
信用できないなら、別にリーアは他の人に頼んでもらっても全然構わない。
「すまない。必要なのは、堕胎薬だ」
「即効性のあるもの?」
「ああ、それと、出来るだけ飲んでも気づかないものがいい」
それなら、ストックがいくつかある。
ボックスから、ちょうどいい薬を取り出すと、テーブルの上においた。
「果実水の味に似せた、堕胎薬よ。これを、小匙いっぱい、果実水に混ぜて飲ませれば、3日後には子供は流れる。ちなみにだけど、妊娠何週目?」
それによって、堕胎の負担は違ってくる。
「具体的なことは言えないけど、まだ気づいたばかり」
「それなら、ごく自然な流産と診断されるはずよ。もし、もう少しお腹の中で育っていたなら、違う薬を用意していたけれど」
「報酬は」
「金貨一枚」
この報酬も、アンナやイクスと相談して決めた。
簡単な薬でストックがあるものなら、金貨一枚、調薬の必要があれば、そこに銀貨五枚と素材料を上乗せ。
それから。
「報酬の半分は前払い。残りは成功報酬でいいわ」
「わかった」
リーアの言葉に、客は小金貨5枚をテーブルに乗せる。
「ただし、成功したなら必ず残りを支払って。もし、成功したのに逃げるようなことがあれば、すべてを公表するわ。あなたの、正体も」
ビクッと客が身体を震わせる。
今はまだ、女性だということしかわかっていないけれど、このバーの存在を知っていて、簡単に前金を支払えるだけの金銭的余裕がある人物。だいぶ絞り込める。
それに、マスターなら多分、客の正体に気がついているはずだ。
それでも。
念の為、契約書を交わす。
内容は簡単なもので、成功した場合は即座に残金を支払うというものだ。
そこに、1滴血を垂らしてもらって、契約の魔法を発動する。
「確かに。じゃ、私はこれで」
契約書を手に、イクスとリーアは個室を出た。
気配を消して、カウンターの隅の席に座っていると、フードを深くかぶった女性はそそくさとバーを出ていった。
「もう一人の客にはいつ会える」
「明後日」
「わかった」
マスターとイクスの間で話が進む。
リーアはそれを聞きながら、次の客に会うのは明後日か、と認識した。
たぶん、明後日もイクスは夜空いているのだろう。
前金をボックスに放り込んで、マスターに飲み物代を払うと、二人は店を出た。
個室代は、客側の支払いだ。
それから三日後。
無事に成功報酬は支払われた。
ここから、どんどんと「レッド・アイ」と渡りをつけたい人々が現れるのだが、それはもう少しだけ先の話。
「リー、初めての取引、成功おめでと」
「ありがとう。イクスさんには、あの人の正体、だいたい見当がついてるんじゃない?」
「まぁねぇ。これでも情報には苦労してないから。
それより、リーの薬が解析される心配はない?」
「大丈夫。師匠から、解析がすごく難しい薬の作り方を教わってるから」
リーアと同じ薬が作れるとしたら、アンナか、アンナと同等の腕前を持つ薬師だけだ。
「明日は、お祝いしようねぇ」
「うんっ」
明るく話しながら、リーアはイクスの腕に抱かれて、家に戻ったのだった。




