せいきょういく始めました
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では、どうぞ!
「今日は、夕食後の1時間を性教育の時間にするわね」
最終試験が終わって、イクスにもお祝いしてもらった次の日の朝、アンナが突然言った。
「せいきょういく?」
「そう。リーアが大人になった時に必要になることよ」
大人になったとき。
それは、きっと師匠の元から巣立って、イクスと一緒に旅をしている頃だろう。
(イクスさんには教えられないことなのかな)
リーアの疑問が顔に出ていたのか、師匠はクスリと笑った。
「アイツでも教えられるけど、たぶん、基本くらいは私が教えた方がいいわね。あなたの気持ち的にも。それに……アイツが教えたら暴走しそうだし」
最後の方の言葉は聞き取れなかったけど、どうやら基礎は師匠から習ったほうが良いということだけはわかった。
「わかりました。お願いします」
「ん。いい子ね」
師匠は優しくリーアの頭を撫でてくれた。
その日の夕食後。
師匠は、人体図鑑を持ってきて、裸の男女が描かれたページを開いた。
「まず、本当に基本的なことね。男と女で、身体に差があることは、もう知ってるわよね?」
リーアは頷く。
男性きのうを上げるための薬は作ったことがある。その、男性きのうと言うのが、体の一部、女性にはない部分の力みたいなものなのだと、ぼんやり教えてもらっている。
「夜の生活」に必要なことだということも。
ただ、「夜の生活」と言うのが何を指しているのかは全くわからないけれど。
「よく見て。ここ。この部分は女にはないでしょう?胸も、女の方がふっくらしているわよね?」
言われて図を見る。
確かに、男性には何かがくっついている。
女性の胸は「お年頃」になったら段々ふくらむのだと言うことは知っている。
逆に、イクスや師匠のお客様を見る限り、男性は膨らんでいない。
師匠の胸は、とっても柔らかそうだ。
自分の胸は、まだまだ平らだけど。
それから、師匠は見た目だけではない男女の決定的な身体の違いや、月経について、それから、「夜の生活」についてもチラッと教えてくれた。
「夜の生活」は、別に夜に限らないらしい。
よくわからないけど、「そういう」雰囲気になったら、別に人前じゃなければそういう事をすることもあるらしい。
「えーっと、まぁ、その辺については、私からは詳しく教えないけど、アイツに任せておけば問題ないと思うから。とりあえず、然るべき時期に、そういう事をすると、子供ができる可能性があるってこと。もちろん、必ず子供ができるとは限らないし、それを防ぐ薬もあるわ。それは知っているわよね?」
子供が出来にくくなる薬は、リーアも作れる。
男性用も女性用も。
その他にも、男の子はある程度大きくなったら声が低くなることや、年頃になると女性の体やそういう事にすごく興味が出てくることとか、定期的に発散しないと辛いのだということなんかも教えてもらった。
でも、そういう事は基本的に好きな人とするものだということ。
妊娠や出産についても、その仕組みも。
植物のおしべやめしべみたいな感じ。
「これで一通り、性についての教育はおしまい。何か質問は?」
「えっと、シュバルツさんは、もう大人の男性だから、やっぱりそういう事したいんでしょうか」
「難しい質問ね。アイツの本心はわからないけど、シたい、けどあなたが大人になるのを待ってる、ってとこじゃないかしら」
「でも、定期的に発散しないと辛いんですよね?」
「ええと、それはまぁ、一人でも発散できるから」
(そうなんだ)
リーアが大人になるまで待っててくれている。
それは、一人でも発散できるからと言っても、やはり我慢をさせているのではないだろうか。
イクスなら、他の女性で発散しているかもしれない。
でも、そういう事は商売でない限り、好きな人とするものらしいから、やっぱり我慢しているのだろうか。
いや、そもそもイクスは異性として自分を見ているのだろうか。
(だって、歳だって随分離れてるし、私、胸もないし。でも、師匠が、イクスさんは私が大人になるのを待ってるって言ったから、やっぱりそういう対象として見てもらえてるのかな)
「リーア。アイツに、異性として見られたい?妹とかじゃなくて、そういう事をする対象として」
リーアの心を読んだかのように、師匠が聞いてくる。
「これは、また別の日に話そうかと思ってたんだけど。好意には、いくつか種類があるのよ。例えば親愛。これは、男女関係なく、好きで慕ってるけど、家族のような、友達のような相手で、頬にキスをしたり、ハグしたりはするけど、唇にキスはしないし、しようとも思わないわね。他には、敬愛。これは、尊敬する相手」
「私にとっての、師匠みたいな?」
「ええ、そうね。それから、一番大事なのが、恋愛」
「れんあい」
「そう。あなたが少し前から読んでいる恋愛小説に出てくるでしょ?一緒にいると胸がきゅんって苦しくなったり、ドキドキしたり、触れ合っていたくなったり、相手が他の異性と仲良くしているのを見るとモヤモヤしたり。あとはそうね、その人のことがいちいち素敵に見えたり」
リーアは、イクスのことを考えてみた。
一緒にいると落ち着くけど、時々、胸がぎゅってする。でも、イクスにキスされたりすると、ドキドキする。嫌なドキドキじゃなくて、浮き立つようなドキドキ。
イクスにはいつだってくっついていたいし、触れられるのも好きだ。
イクスが他の女の人と仲良くしているのは見たことがないけれど、想像すると面白くない。
それから、イクスはいつだってカッコイイ。
「恋愛の先に、身体の関係になりたいという欲求も出てくるのよ。でも、それは大人になってから」
リーアはまだ子供だけど、イクスとならそういうことがしてみたい。
他の人とは絶対にしないようなことを、イクスとならしたいと思う。
唇へのキスも、その先も。
他の人とは違う関係になりたい、と思う。
そう思うのは、おかしいのだろうか。
師匠に聞いてみると、師匠は苦笑した。
「おかしくはないわよ。あなたたちは、最初からお互いを特別に思っているし。女の子のほうが早熟だから、異性として意識していたら、その先の関係を望んでも、構わないのよ。ちょっと珍しいけど。
ただ、あなたはまだ子供。大人の男性を受け入れる準備が出来ていないの。だから、大人になるまでは待ちましょう。焦らなくても大丈夫。アイツがあなたから離れることなんてないから」
「何歳になったら、大人ですか?」
「アイツがいつまで待てるかにもよるけど、どんなに早くても16歳」
リーアは衝撃を受けた。
月経が来るまでは、平均から言っておそらくあと3、4年。それくらいになったら身体も丸みを帯びてくると教わったし、そうしたらもう大人かと思っていたのに。
16歳になるまで、あと7年もある。
イクスと出会ってから、2年。
その三倍の月日を待たないと大人にはなれない。
「大人のキスくらいなら、別にしてもいいのよ。アイツの理性は試されるけど」
大人のキス、についても教えてもらった。
ふと、前に媚薬を飲んだときのことを思い出した。
イクスに口内を弄られ、唇を舐められて、どんな気持ちがしたかということを。
「まぁ。あんまりアイツの理性を揺さぶるようなことはやめてあげて。あなたの為にも」
リーアはもう、人前でポーンと裸になったりしないし、媚薬だって飲むつもりはない。
それでも、イクスの理性を揺さぶってしまうのだろうか。
「自覚がないって、怖いわね」
師匠は笑っていたけど、リーアにはよくわからなかった。